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両親への報告.4
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ルージェックが用意してくれた馬車はとても立派なものだった。聞けば、叔父様である騎士団長のアストリア・バーディア様から借りたとか。
アストリア様はバーディア侯爵家に婿養子に入っているので、馬車は侯爵家のもの。立派なはずだと納得しつつ、私事で借りてよいのかと心配になってくる。
それに馬車が快適だったのはルージェックのおかげでもある。
と言っても、何か特別なことをしてくれたわけではない。
もちろん途中で休憩をおおめにはさんだり、喉が渇かないかとか聞いてくれたりもしたけれど、眠いからと目を閉じたり、お腹がすいたから次の街で食事をしたいとさらりと言ってくれる。
そう振る舞ってくれるから、私も眠くなればうたた寝をし、小腹がすけば遠慮なく伝えることができた。
さらに、途中泥濘に車輪がはまり御者が近くの民家に助けを呼びに行った時も、いらいらすることなく「こういうこともあるさ」とのんびり構え、近くの木陰で休もうと言ってくれた。
「リリーアンとこうして二人で過ごせるなんて役得だな」という言葉は明らかに冗談でしょうけれど、そう言って和ませてくれるおかげか、二日の馬車の旅はあっという間に終わり、父が働く伯爵領へ着いた。
両親は伯爵家の傍にある一軒家で暮らしている。
貧乏男爵家なのでお屋敷なんて立派なものでなく、平民の家より少し大きいぐらいだ。メイドは一人いるけれど、母が家事をすることも多い。
先触れを出していたこともあり、両親は休暇をとって私の帰りを待っていてくれた。
「おかえり、リリーアン」
「ただいま、お父様、お母様。……それから彼が」
「初めまして。ルージェック・ビーンハルトと申します。すぐにご挨拶に伺えなかったご無礼をお許しください」
私が紹介するより先にルージェックが名乗り、胸に手を当て恭しく紳士の礼をした。
ふだんは気さくな彼だけれど、こういう振る舞いはさすが上級貴族と思わせる気品がある。
「遠いところタイリス家にようこそ。ひとまず応接室に案内しよう。話はそれから伺いましょう」
そんなルージェックを、事情を知らないお父様が片眉をあげて見る。まるで品定めをしているような視線に、冷たい汗が背中をツツッと流れた。
お父様は踵を返すと歩きだし、その隣をお母様、続いて私とルージェックがついていく。
私は隣にいるルージェックにだけ聞こえる声でそっと囁いた。
「別室で待ってくれてもいいのよ」
「それはできない。俺は決闘の当事者なんだから説明する義務がある」
少し緊張したような真剣な顔は、本当に私をかけて決闘した人のように見える。
そのせいか、ますます婚約解消の揉め事に巻き込んでしまったことに、罪悪感を覚えた。
応接室の前まで来た時だ。ルージェックが「待ってください」と言って扉を開けようとしたお父様を止めた。
「タブロイド紙の内容については、まず私の口から説明をさせてください」
その言葉にお父様は眉を顰めたけれど、暫くルージェックの顔を見たあとゆっくりと頷いた。
「……分かった。かまわないでしょう」
「ありがとうございます。それで、その間リリーアンには席を外していてもらいたいのです」
「えっ?」
ルージェックの言葉に驚いたのは私だけではない。お父様は眉間の皺を深くし、母様は目を丸くさせた。
でも、深く頭を下げるルージェックの真剣な姿に、お父様はこれまた暫く思案したのち頷いたのだった。
「リリーアン、申し訳ないがここは俺の言う通りにして欲しい」
「でも……」
「大丈夫。リリーアンのご両親だからこそ、嘘偽りなく俺から全部話したいんだ」
お父様に目線で向こうで待っていろと言われ、私は渋々「分かりました」と答えた。
そして三人が応接室に入ると、扉は無情にも閉められたのだった。
アストリア様はバーディア侯爵家に婿養子に入っているので、馬車は侯爵家のもの。立派なはずだと納得しつつ、私事で借りてよいのかと心配になってくる。
それに馬車が快適だったのはルージェックのおかげでもある。
と言っても、何か特別なことをしてくれたわけではない。
もちろん途中で休憩をおおめにはさんだり、喉が渇かないかとか聞いてくれたりもしたけれど、眠いからと目を閉じたり、お腹がすいたから次の街で食事をしたいとさらりと言ってくれる。
そう振る舞ってくれるから、私も眠くなればうたた寝をし、小腹がすけば遠慮なく伝えることができた。
さらに、途中泥濘に車輪がはまり御者が近くの民家に助けを呼びに行った時も、いらいらすることなく「こういうこともあるさ」とのんびり構え、近くの木陰で休もうと言ってくれた。
「リリーアンとこうして二人で過ごせるなんて役得だな」という言葉は明らかに冗談でしょうけれど、そう言って和ませてくれるおかげか、二日の馬車の旅はあっという間に終わり、父が働く伯爵領へ着いた。
両親は伯爵家の傍にある一軒家で暮らしている。
貧乏男爵家なのでお屋敷なんて立派なものでなく、平民の家より少し大きいぐらいだ。メイドは一人いるけれど、母が家事をすることも多い。
先触れを出していたこともあり、両親は休暇をとって私の帰りを待っていてくれた。
「おかえり、リリーアン」
「ただいま、お父様、お母様。……それから彼が」
「初めまして。ルージェック・ビーンハルトと申します。すぐにご挨拶に伺えなかったご無礼をお許しください」
私が紹介するより先にルージェックが名乗り、胸に手を当て恭しく紳士の礼をした。
ふだんは気さくな彼だけれど、こういう振る舞いはさすが上級貴族と思わせる気品がある。
「遠いところタイリス家にようこそ。ひとまず応接室に案内しよう。話はそれから伺いましょう」
そんなルージェックを、事情を知らないお父様が片眉をあげて見る。まるで品定めをしているような視線に、冷たい汗が背中をツツッと流れた。
お父様は踵を返すと歩きだし、その隣をお母様、続いて私とルージェックがついていく。
私は隣にいるルージェックにだけ聞こえる声でそっと囁いた。
「別室で待ってくれてもいいのよ」
「それはできない。俺は決闘の当事者なんだから説明する義務がある」
少し緊張したような真剣な顔は、本当に私をかけて決闘した人のように見える。
そのせいか、ますます婚約解消の揉め事に巻き込んでしまったことに、罪悪感を覚えた。
応接室の前まで来た時だ。ルージェックが「待ってください」と言って扉を開けようとしたお父様を止めた。
「タブロイド紙の内容については、まず私の口から説明をさせてください」
その言葉にお父様は眉を顰めたけれど、暫くルージェックの顔を見たあとゆっくりと頷いた。
「……分かった。かまわないでしょう」
「ありがとうございます。それで、その間リリーアンには席を外していてもらいたいのです」
「えっ?」
ルージェックの言葉に驚いたのは私だけではない。お父様は眉間の皺を深くし、母様は目を丸くさせた。
でも、深く頭を下げるルージェックの真剣な姿に、お父様はこれまた暫く思案したのち頷いたのだった。
「リリーアン、申し訳ないがここは俺の言う通りにして欲しい」
「でも……」
「大丈夫。リリーアンのご両親だからこそ、嘘偽りなく俺から全部話したいんだ」
お父様に目線で向こうで待っていろと言われ、私は渋々「分かりました」と答えた。
そして三人が応接室に入ると、扉は無情にも閉められたのだった。
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