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両親への報告.1
しおりを挟む決闘の翌日。
恐る恐る足を踏み入れた職場は、祝福モード一色だった。
どうして皆知っているのと口をパクパクする私に、バーバラさんは一枚のタブロイド紙を手渡してくれた。
そこには風刺画付きで決闘の様子が事細かに書かれている。
一年程前に刊行を始めたタブロイド紙は、その手頃の値段も相まってあっというまに貴族だけでなく平民の間にも広がった。
もっとも、手頃とはいえ平民に毎日買うのは無理らしく、何人かでお金を持ち寄って購入したり、字の読めるものが朗読してお金を稼いだりしているそうだけれど。
宰相様の補佐文官は全員伯爵位以上だし、バーバラさんだって子爵夫人。
だから皆の手には当然のごとくタブロイド紙が握られていて、先輩文官の一人ナイル様はルージェックの肩を抱き髪の毛をわしゃわしゃと撫でまわしながら笑っていた。
「いや、まさか新人二人が婚約するなんて。この部屋の雰囲気も明るくなりますね」
そう言って笑うのは一番の古株、ロバート様。
宰相様も鳶色の瞳を細めにこやかに微笑んでいるけれど……これって完全に誤解されているのでは。
目の前に突きつけられたタブロイド紙を手にし目を通せば、愛を懸けた決闘! 真実の愛! 新たなカップル誕生! と眩暈のする言葉が並んでいた。しかも、
「えっ、あのおじいさん、かつて勇者と称えられたマーベリック様だったの!」
とんでもない真実まで出てくる始末。
さらには「勇者の審判のもと結ばれた二人」なんて見出しがついている。オリバー様の存在が全く書かれていないけれど、そんなこと気にしていられる状況ではない。
「ちょっと、ルージェック!」
袖をひっぱり窓際に引っ張っていく。背中に感じる生温い視線がいたたまれない。
「どうしよう、皆ルージェックが私に求婚したと勘違いしているわ」
「あぁ、そうみたいだね」
焦る私に対し、ルージェックはのんびりと答える。乱れた髪を手櫛で整える余裕さえ見せるのだから、つい口調が強くなってしまう。
「早く誤解を解きましょう。私はともかくルージェックに迷惑がかかるわ」
「俺は別に構わないよ」
「でも、このまま放っておけば私達が恋人、いえ、婚約したと言う噂がお城中に広まってしまう」
「うーん。もう遅いんじゃないかな。お城どころが王都内に知れ渡っていると思うよ」
ほら、と私が握りしめているタブロイド紙を指差す。
そうだ、これが出回っているということはすでに……。
「しかも、勇者マーベリック様の審判と書いてある。これを否定するのは勇者様を否定するも同然、そう思わないか?」
「う、確かにそうかもしれないけれど……でも、それじゃ、どうしたらいいの?」
「そうだな。人の噂なんて皆そのうち飽きて忘れるし、半年後ぐらいにしれっと別れたことにしよう。それまでは婚約者のふりをする、それでいいよね」
有無を言わさない笑みでそう言われ、私は半歩あとずさりしながら頷いた。なぜだろう、私を気遣う言葉のはずなのに圧迫感が半端ない。
でも、本当にそれでいいのかな。私はもう結婚は諦め仕事に生きるつもりだから、二度婚約解消になろうが気にしないけれど、ルージェックに関しては完全にとばっちり。
そのことについて聞こうとしたのだけれど、「お二人さん、そろそろ仕事よ」とバーバラさんに言われ、顔を真っ赤にしつつ慌てて離れた。
そんな私にルージェックはあろうことか甘く微笑み「ではあとで」なんて言うもんだから、先輩文官がヒューと口笛を吹き、宰相様までが声を出して笑いだす。
あぁ、こんなことが半年も続くなんて! 完全に楽しまれているわ。
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