4 / 27
第一章
第四話 ご挨拶
しおりを挟む「結城 千夜でユキチね。おもしろーい」
「棒読みじゃねえか」
予鈴が鳴るまでユキチ先生や他の先生達とお喋りをした後、今は教室へ向かっている。ユキチ先生と話すのはなかなか楽しくて、十分学校を満喫できた気がする。
正直もう帰りたいくらいだが、それを言った時のユキチ先生の反応が予想できたので辞めた。
既に生徒の殆どは教室に入っていて、騒がしい声は全て室内から聞こえてきた。
予鈴に従う真面目な不良もいるんだな。また一つ『意外』が積もる。
「お前ら静かにしろよー。授業始めんぞ」
先生が教室に入ると同時に本鈴が鳴った。それに感動しながら後ろに続く。
途端に空気が静まり返り、室内の視線が自分へ集中しているのが分かる。いっそ不気味に思える程の静けさの中、皆が大人しく自分の席に着いた。
この学校、何でこんなに普通なんだろう。
昼休みに響く和気藹々とした声。時間を守り、教師の指示に従う生徒。どれも普通過ぎて異常だ。
「見れば分かると思うけど、転校生な。はい、自己紹介」
促されるまま教卓の前に立つ。
こうして見ると、やはり有名な不良校。髪の毛は奇抜な色やセットばかりで制服の着こなしも様々だ。
「漣 瑠夏です。よろしくお願いします」
シンプルな挨拶にはなるが、馬鹿な俺が長々と喋っても墓穴を掘るだけだと分かっているので余計なことは言わないでおく。
しっかり頭も下げたし、嘸かし賢そうに見えていることだろう。
「お、お前………」
「ん?」
ユキチ先生が細い目をガンガンに開いて驚愕している。
「敬語使えたのか!え、すげぇじゃん!やればできるじゃねえか!」
「わあああ!もう!ユキチ先生のせいで台無しだよ!」
「はいダメー。敬語使ってくださいー。使えないもんは仕方ないけど使えるもんは使ってくださいー」
「いやだ!もう一生使わんし!」
「ああ?使えよほら、使わねえと返事しねえぞ」
「別にいいですけど!?返事なんていらないですけど!?」
折角格好良く決めたのに、元ヤンの担任のせいで台無しである。
「あいつ馬鹿だな」
「馬鹿だ」
「馬鹿の中の馬鹿」
あちこちから同じような呟きが聞こえてくる。これ以上話すと取り返しがつかなくなりそうなので、不満を空気に変えて頬一杯に溜めた。
「でも可愛いよな………」
「おお………可愛い」
「馬鹿なやつ程可愛いってか?」
「「「それだ」」」
生徒達がざわつき始めたのを見てユキチ先生が咳払いする。再び空気が変わり皆居住まいを正した。
「漣、あの空いてる席座れ」
「‥‥…」
「いつまで空気溜めてんだよ」
指定された席は非常に中途半端な位置にあった。窓側から二列目の真ん中あたりだ。ユキチ先生からの指摘を受け、少しずつ頬の空気を抜きながら歩く。
自分の席に到着すると、後ろの席のスキンヘッド君が座ったまま丁寧にお辞儀してくれた。
「頭綺麗だね」
ちょんちょん、と自分の頭を指差しながら称賛する。お硬そうな顔をポッと赤くしたスキンヘッドくん。よい。可愛い。面白い。
仲良くなったら頭撫でてもいいかな?いやでも、男と仲良くなるの苦手なんだよなあ。
「全員前向けー。漣が気になるのは分かるが、質問は授業が終わってからにしろ」
俺はスキンヘッドくんばかり見ていて気づかなかったが、どうやら未だ自分に視線が張り付いていたらしい。
それでもユキチ先生が声を掛けると全員しっかり黒板へと目を向けた。
久しぶりに真剣に授業を受けたが、さっぱり分からない。
丁度昨日新年度の授業が始まったところで、今日は昨年の復習だった。それでもユキチ先生の言葉はまるで呪文のようで、始まって5分で船を漕ぎいつの間にか意識は途切れていた。
「起きろよ。なあおい、起きろって!」
「ん………後5分」
「ふざけんな!!いい加減起きろ!」
「いてっ」
ケータイの振動の次は、それとは比べ物にならない程の強い衝撃だった。目の前に立っている髪の毛ツンツン男が俺の机を思い切り蹴ったことで机が揺れたみたいだ。
「あれ?授業は?」
「もうとっくに終わってるっつの!」
周りを見渡すとユキチ先生の姿はなく、生徒達も席を立ち数人単位で纏まりになって此方を見ていた。
ツンツン頭は目までツンツンに釣り上がっている。言動も明らかに粗暴で機嫌の悪さを己の全てで体現している。
「………?何でそんな怒ってるの?」
「お前!本気で言ってんのか!!」
今度は机を凄い勢いで殴られる。
「まあまあアッキー落ち着いて!」
「ね、寝ぼけてるみたいだったし、覚えてないんじゃ……?」
ツンツン頭のあまりの剣幕に、左右に立っている陽気くんと陰気くんが宥めに入った。
あー、もしかして俺、またやっちゃった?
45
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?


気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる