最強様が溺愛したのは軟派で最弱な俺でした

7瀬

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第一章

第二話 初登校

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 ―――ヴー、ヴー

「んー………」

 枕元に置いたケータイの振動で目が覚めた。上がりきらない瞼を擦りながら電話に出る。

「もしもーし」
「おー、生きてたかサボり魔」
「ん?男?」

 聞こえてきたのは予想外の低い声。

「悪いな男で。てか今の今まで寝てたな?」
「寝てたけど………え?誰?」
「素直で宜しい。お前の担任な、担任」
「あ」

 担任。その単語で漸くそれの存在を思い出す。
 前の高校は行かない日の方が多かったので今回も正直真面目に通う気なんて端から無く、そのまま存在ごと頭から抜け落ちていた。

「学校昨日からなんだけど?待ってるからさっさと来なさい」

 その物言いからは自分への呆れがはっきり感じられたが、同時に『待っている』という一言は意外にも胸に響く。

「すごい、先生みたいな人がいる」
「いや先生だっつの」
「そーだった」

 前の担任とはまともに会話なんてしたことがなく、当然何日無断欠席しようと電話の一本もかかってこなかった。『転校生だから』というのを踏まえてもこうして教師と話すのは新鮮で、新しい学校に少し興味が湧いてくる。

「ね、今から行ってもいい?」
「俺の話聞いてた?来いっつってんだよ来いって」
「あははっ、先生みたい」
「だから先生なんだって」


 ✽✽✽
 
 学校についたのは十二時過ぎ。丁度昼休みの時間だからか、校門に着いた時点で既にあちこちから生徒達の活気ある声が聞こえてきた。

「待て待て待て何でサッカーボール持ってんだよ!?」
「だって野球ボールじゃ小さくて当たんねえだろ?ハンデだ喜べ」
「うおい待て投げんな!ぎゃあああああ!」

 この辺りでは有名な不良校だと聞いていたが、意外にも平和な絶叫が響いている。校舎の外観も思いの外綺麗で、ここから見る限り窓に欠けはなく壁も綺麗だ。

「なんか高校っぽい」
「高校だからねぇ」

 無意識に漏らしてしまった独り言に思いがけず返事が飛んできた。声に釣られて左上を見ると、一人の生徒が蕩けるような笑みを浮かべて立っている。

 毒気を抜かれる甘い顔。透き通った濁りない白髪。どちらも非常に魅力的だが、それ以上に大胆に開かれた胸元に目がいってしまう。

 断じて男の胸に興味があるわけではなく、白い肌につけられた鬱血痕が目立っているだけだ。

「中、入らないの?」

 こちらの視線に気づいているのかいないのか、その人は笑顔を絶やさぬまま聞いてくる。

「入っていいの?」 
「あははっ、逆になんで駄目なのさ!昨日からユキチが待ちくたびれてるよ~」
「ユキチ?」

 脳内にゼロが四つ並んだお札が浮かぶ。

「あーそっか。ほら、こっちおいで」

 誘う言葉とほぼ同時に腕を引かれ、拒否する間もなく一緒に校門を潜った。

「茜さんだ!」
「マジだ!ラッキー!」
「「「おはようございます!」」」

 俺達、というより俺の手を引いて歩いているおはだけ男を見た途端、フェンス越しにグラウンドで遊んでいた生徒達が揃って頭を下げた。

「おはよー。あんま危ない遊びしないよーにね」

 お固い生徒達に反しておはだけ男は適当で、グラウンドには目もくれず片手を緩く振っている。

「はい!大丈夫です!」
「いや大丈夫じゃねーよ!サッカーボール置けよ!」
「えー楽しいじゃん」
「いや楽しいけどさ………つーか、」
「「「あれ誰?」」」

 引かれるまま歩いていると、すれ違う生徒は皆同じように頭を下げて挨拶をした。

 どの生徒も『やらされている』というよりは自主的に敬意を表しているように見える。
 段々おはだけ男に興味が湧いてきた。

「ね、もしかして偉い人?」
「うーん、まあまあ偉いぐらいかな。
 あ、てかオレあかねね。好きに呼んでー」 
「まあまあ偉い茜ね!りょーかい!」
「ん?今なんて?」
「俺は瑠夏るかだよーよろしくー」

 目的地に到着するまで、茜はこの学校について色々教えてくれた。
 俺が何を言っても茜が穏やかな口調と表情を崩すことはない。

 それに加え高いトーク力に流されるまま様々な話をしたが、この話題の時だけこちらをみる目が厳しくなったように感じた。

「そういえば瑠夏ってさあ、喧嘩は強いの?」
「喧嘩?何で?」
「そりゃあ気になるからさ」
「ふーん」

 まあ、何が大事かなんて人それぞれか。

「喧嘩かぁ。巻き込まれたことはいっぱいあるけどなー」
「あははっ、瑠夏は危なっかしいからなあ」
「でも、勝ったことは一回もないんだよね」
「………そっかあ」

 緩い口調も笑顔も変わりない。それでもこの時確かに茜の視線が冷たくなった。
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