書道教師はクールな御曹司に甘く手ほどきされました

お手並み披露

5.

　物心ついて以来、コンプレックスに悩まされてきた男である。
　最近こそ、書道友達の親分や委員長と見せあったり講評しあったりと、慣れてきてはいる。

　ペン字もこっそり練習してるらしいが、想いが通じた日以来、見せてもらったことはない。　

　字が綺麗であるほうが得なことは多いが、だからといって松代が萎縮することはない。
　が、心ない人に酷評されてしまったら、松代の柔らかい部分が折れてしまうかもしれない。
　仁那はそれが怖かった。
　
　彼女の席は、松代と画面のフレームに収まることは出来るが、手助け出来ない距離である。

『替え玉』が他に存在しないことを示すため、松代の周囲に人が立ち入れないようになっている。　　

　題目が伝えられ、あたりが静まる。
　松代は息を吸って吐き出すと、ゆっくりとたどたどしく丁寧に書ききった。
　墨痕鮮やかな紙を、松代は裁判の勝訴のように掲げた。　

「仁翔先生、いかがですか」

　記者から仁那に質問が飛んだ。

　想定していなかったわけではないが、仁那はごくりと唾を飲み込んだ。