ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の１６８時間

【結婚式の０１７時間前】

【結婚式の〇一七時間前】
 
　……そんなこともありました。

「透也君とＴＶ電話えっちしたのなんて、まるで何年も前のことみたい」

　一週間前まではほぼ、毎日シていたのに。

　この怒涛の日々、電話はおろかメールを一回だけ。
　しかし、今夜久しぶりに婚約者どのと会う。
　そう。

　私こと、家永円佳いえなが　まどかは対決する。
　恋人、かつ明日結婚式を控えている婚約者と。
 
　恋人の名前は嘉島透也かしま　とうやさん、二十四歳。
　世界的財閥嘉島家の御曹司。
　私の三歳下の男性で、二十一年前から彼のお宅で母子ともどもお世話になっている、いわゆる幼馴染みという間柄。

　彼に私と結婚する理由を訊くのだ。
　……十中八九、私の「父」の特許目当てなんだろうけれど、〇・〇〇〇〇一パーセントくらいは「私のことを好きだから」という答えを期待してしまっている。

　権謀術数に長け、百戦錬磨の透也君からしたら私なんて、赤子の手を捻るより簡単なはず。
　彼に言いくるめられる未来しか思えないけれど、それでも透也君の真意を訊かなければ私は前に進めない。

　鬼が出るか邪が出るか。
 
　勤務先の乳児院から私が出てくるや、黒服黒サングラスのボディーガードさん達が湧いてきた。

「円佳様、なにか緊急のご用事でも？」
「美容院へ行きたいです。その後、嘉島の迎賓館へ飛んでください」
「……お帰りではない、のですね？」
「はい」

　彼らの緊迫感は私の発言で緩んだようだけれど、決意を秘めた表情に感じるところがあったのか、あらたな緊張感をともなった。
　けれども、美容院の予約を取ってくれた。

　四時間後。
　変わりはてた私を乗せたヘリは無音で飛び立った。
それにしても、一週間前の私は世界中の誰よりも幸せだったのに。

「なんでこんなことになっちゃったんだろう……」

　下界に広がるイルミネーションを見ながら、私は透也君と出逢ってからの二十一年、とりわけこの一週間を思い出していた。