1 / 5
月夜の訪問者
しおりを挟む
今宵の月はいつもより明るく、部屋を月灯りが淡く染めていた。そろそろ寝ようかなどと思っていた時――遠慮なしにあの男が入ってきた。普通断りがあって入るものだろうが。
「いやー寝れなくてさあ。せっかくだから一杯やろうぜ」
「いや酒は遠慮しとく……リンゴの香りがすごいな……?」
「大量のリンゴが天から降ってきたからおすそわけ、あと酒はないから安心しろ。アップルティーとアップルパイそれから……」
えんえんと語られた好物のリンゴを使った菓子などを次から次へと得意げに紹介され、思わず笑ってしまう。それに天から降ってくるとはどのような状況なのか。寝ようかなどと思っていたものの、今日はなんだか寝れる気がしなかったのも事実だ。なので感謝して、その誘いを受けることにした。
月灯り差し込む窓辺の方にブランケットをひいて、菓子を並べる。
「クオイも寝れなかったのか?」
「ノンノン。絵本作家としての仕事をしてただけ。ひと休みも兼ねて、大量のリンゴ消化しないといけないから作ってた」
鼻歌を歌いながら準備をするクオイは手慣れた様子で進めていく。ガラスポットにはごろごろと大きめにカットされたリンゴがあふれんばかりに入っている。以前教えてくれた香草も浮かんでいて、リシュティアが好きそうだと思った。
彼女と出逢わなければ。
見つけてもらわなければ。
今頃どうしていたことだろう……などとつい考えてしまう。ここ暁の城で世話になっているという少女はここへ自分を連れてきてくれた、言わば命の恩人のようなものだ。
そして、ほらと差し出されたガラスのティーカップには美しい琥珀色の海が揺蕩う。優しいリンゴの香りに誘われて一口、もう一口と夢中になって口を運んでしまう。
「な、うまいだろ?月夜のティーンカベルっていう珍しい品種のリンゴなんだぞ。市場じゃ出回らないやつなんだからなー」
「……ああ驚いた。儚くあまい繊細な味がする」
「うんうん。月光蝶が舞う夜にしか実をつけないってとこから、名がつけられたって話だ。城下町の女の子たちの間では恋が叶うおまじないに使うらしいぜ」
「クオイは詳しいな。この間すすめてくれた本も面白かった」
「もう読み終わったのか?お前読書の才能あるなーすすめがいがあるわ」
クオイは本日3個目のリンゴと紅茶のカップケーキを食べながら、次のおすすめを教えてくれる。作家という職業柄のせいなのか、物語に対する知識は膨大だった。取り寄せまでしてくれて、何から何まで世話になりっぱなしだった。
次の物語も楽しみだ。自然と頬がゆるむ。
「お、やっと笑ったな。寝られそうか?」
思わず目を丸くする。
――ああやっぱり。お見通しか、と。
「いやー寝れなくてさあ。せっかくだから一杯やろうぜ」
「いや酒は遠慮しとく……リンゴの香りがすごいな……?」
「大量のリンゴが天から降ってきたからおすそわけ、あと酒はないから安心しろ。アップルティーとアップルパイそれから……」
えんえんと語られた好物のリンゴを使った菓子などを次から次へと得意げに紹介され、思わず笑ってしまう。それに天から降ってくるとはどのような状況なのか。寝ようかなどと思っていたものの、今日はなんだか寝れる気がしなかったのも事実だ。なので感謝して、その誘いを受けることにした。
月灯り差し込む窓辺の方にブランケットをひいて、菓子を並べる。
「クオイも寝れなかったのか?」
「ノンノン。絵本作家としての仕事をしてただけ。ひと休みも兼ねて、大量のリンゴ消化しないといけないから作ってた」
鼻歌を歌いながら準備をするクオイは手慣れた様子で進めていく。ガラスポットにはごろごろと大きめにカットされたリンゴがあふれんばかりに入っている。以前教えてくれた香草も浮かんでいて、リシュティアが好きそうだと思った。
彼女と出逢わなければ。
見つけてもらわなければ。
今頃どうしていたことだろう……などとつい考えてしまう。ここ暁の城で世話になっているという少女はここへ自分を連れてきてくれた、言わば命の恩人のようなものだ。
そして、ほらと差し出されたガラスのティーカップには美しい琥珀色の海が揺蕩う。優しいリンゴの香りに誘われて一口、もう一口と夢中になって口を運んでしまう。
「な、うまいだろ?月夜のティーンカベルっていう珍しい品種のリンゴなんだぞ。市場じゃ出回らないやつなんだからなー」
「……ああ驚いた。儚くあまい繊細な味がする」
「うんうん。月光蝶が舞う夜にしか実をつけないってとこから、名がつけられたって話だ。城下町の女の子たちの間では恋が叶うおまじないに使うらしいぜ」
「クオイは詳しいな。この間すすめてくれた本も面白かった」
「もう読み終わったのか?お前読書の才能あるなーすすめがいがあるわ」
クオイは本日3個目のリンゴと紅茶のカップケーキを食べながら、次のおすすめを教えてくれる。作家という職業柄のせいなのか、物語に対する知識は膨大だった。取り寄せまでしてくれて、何から何まで世話になりっぱなしだった。
次の物語も楽しみだ。自然と頬がゆるむ。
「お、やっと笑ったな。寝られそうか?」
思わず目を丸くする。
――ああやっぱり。お見通しか、と。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる