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勇者と再会

勇者、奇襲。

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このところゴート君と文通をしている。残念ながらお願いしても会わせては貰えなかった。

何やら牢屋で妙な情報を仕入れたらしく、文末は「何卒お気を付けて下さい」で締め括られることが多くなった。

フェンリルいわく、『世界征服主義』の人が機会を狙っているのでは、ということだ。

しかし、下剋上チャンスを狙うにしても、死なない相手をどうやって倒すかは疑問である。いやマジで。


バーで手紙を読む私の頭を、フェンリルは手でガシッと掴んでわしわし撫でてきた。

「目が死んでる」

「しょうがないって。明日は運命の日なんだからさ」

格好つけた言い方が自分で滑稽に思えたのか、サイファは一人でクスクス笑い、私の背中をとんとん叩いた。


運命の日……今日、ハル一行が魔王城に到着するらしい。

きっっっぱりハルをフって!

世界を平和にしつつ!

気持ちよく魔王城に籍を置き!

いいタイミングでフェンリルとまとまれるように頑張ろう。


手紙を閉じて、ぐっと拳を握る。

「がんばるぞい」

「おうおう、がんばれぞい」

「僕たちがついてるからね~」

ノリのいい二人である。


バタン!と音を立ててバーの扉が開く。

一も二もなくフェンリルが私を庇って背に隠してくれた。驚いたことにバーテンのラミまで手元のグラスを持って投擲ポーズをしていた。

「大変です!大変ですっ!ま、魔王様っ!フェンリル様!」

飛び込んできたミノタロウス型の魔物は、すっかり息を切らして声がひっくり返っていた。

「どうしたのですか。そんなに慌てて」

「勇者が来ました!奇襲です!」

「おやおや。ずいぶん早いお出ましですねえ。それほどレミールさんに会いたいのでしょうか」

さほど慌てず、サイファは威厳モードでおっとりと笑った。パッパッと服を叩いて埃を払い、立ち上がる。

「え。どうしよう。ほろ酔いなのに……」

軽く飲んでる顔してると思う。ほどよくアルコールが回って気持ちがいいのだ。これくらいのほうが気楽でいいだろうか。


一番動揺しているのはフェンリルだった。机をダンと叩き怒りをぶつける。

「段取りを崩すとは何事だ!」

「ひぃっ」と魔物が震えあがっていた。職場では強面というのは本当で、怖がられているのだ。

「こらこら。彼がやったわけでもなし、ここで怒ってもしょうがないでしょう」

「ですが!なんのためのナビゲーターだと!」

そうか。フェンリルの幼馴染のゴーレム系女子が連れてきているわけだから、予定が狂ったら案内役の責任になるのだ。なるほど。

しかし普段を見ていると威厳モードの二人が滑稽でしょうがない。


眉間に皺を寄せているフェンリルの腕をとり、寄せて上げた谷間に押し込む。一瞬だけ戸惑った顔をしたので、これでひとまずは落ち着くだろう。

なんでこんなことしたかって?おっぱいを当てると態度が軟化することを覚えたからです。

「とりあえず、行こっか……?」

「ベタベタしないでもらおう」

魔物を気にして私の手を振り払うフェンリルは、恨みがましい視線を向けてくる。

魔物は目を丸くしていたのでウィンクを飛ばしておく。

サイファはそっぽを向いて笑いを噛み殺していた。
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