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勇者の恐怖
魔王城会議。
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一時間くらい二度寝したら頭はすっきりした。
元気なのに何もすることがない……というのは性に合わない。
掃除もしたが部屋は綺麗だ。本棚の本も並べ替えをした。食事の下ごしらえしか仕事がない。
仕事が……ない……?無理……!
趣味の刺繍も、服作りもできない。本……本ならある。読もう。うちの村の識字率の高さに感謝。
ミステリー小説は難しい。手に取ったのは聞いたことのある名前の作者で、確か、舞台になっていたような。どうやら人間界の本みたいだ。
つっかえながら読んでいたら、時間はすんなり過ぎていった。
扉が開いた。ブランチの時間にはちょっと早いかも。
フェンリルとサイファだ。
「やっほー。思ったより元気そうだね」
ヘロリと表情を崩すと、サイファはソファの隣に腰かけた。肩がぶつかる距離だ。
近ぇ!手で押し返してしまう。
「おお、強い強い。元気だ~」
「もしかしてお見舞い?」
「そ。お土産もって遊びに来たのさ。心配じゃない。ねぇ?」
と、尋ねられたフェンリルは面倒臭そうに配膳台を押してきた。……下ごしらえの分は夜にしよっと。
「魔王様直々にケーキのお心付けだ。喜べ」
ダイニングテーブルに並べるのを手伝う。魔王様は微塵も動かない。
で。
「勇者なんだけどさぁ、どうしようか」
サイファは食事と仕事の話を同時進行させる。どの場においても二人とも食べ方が極めて綺麗で、雑に育った私との違いを感じてしまう。
「すまない……俺が余計なことを言ったから……なんであんなこと言ったんだ、俺は……」
引きずるように落ち込んでいた。フェンリルは俯いて顔を覆う。私のことを心配したのか、正義感かはわからない。でも。
「そんなことないよ。庇ってくれたみたいで嬉しかった」
「うるせーやい……」
覇気のない小声だった。
励ますようにサイファはフェンリルに笑いかける。
「まあでもね、下調べはしたけど僕らがイメージ優先で決めつけて打たなくていい手を打ったわけだし。完全に話を拗らせちゃったよね」
確かに。私抜きの話なら、ハルもきちんと話を聞くかもしれない。私が絡むと厄介なのだ。そんなところが無理である。
「でも私、誘拐された立場とは言え、感謝してるんだよね」
「も~。それがややこしいんだってばさ。僕もレミィちゃんと会えて嬉しいんだけどね」
ツン、と頬をつつかれた。
「勇者に魔王城へ来てもらったら、最初に君たちのことをなんとかしないと話は進まない気がするね」
「ハルとの結婚は嫌だから……」
「それも一旦忘れよう。全部ハル君と話し合って決めよう。ね?」
本当になんとかしてくれるのか?じっと目を見て不安を伝える。
「なにがあっても僕が守るから。安心して」
サイファはとびきり優しく微笑んだ。
あ、武力を行使されるパターンも視野に入れてる。最悪のケースもあるからな。さすが魔王。世界を三回滅ぼせる力があるなら、何かあってもハルをやっつけてくれるだろう。
「わかった」
私は頷いた。
英気を養うつもりでデザートのケーキを食べる。何度も言ってきたつもりだけど、今は強い味方がいるのだ。今度こそなんとかなってもらうぞ。
デザートのケーキおいしかった。心からおいしかった。魔王城は何を食べてもおいしいから元の生活に戻れる自信がなくなってくる。
「ご飯をおいしそうに食べる女の子って健康的で好きだなぁ。やっぱり健康が一番だよ。奥さんに欲しいなぁ」
「殺し文句が通じなくて残念だったな」
フェンリルが嫌味に笑うと、へらへら笑ったサイファは小首を傾げた。
……ん?あ!
言われてみれば、さっきの守るとかなんとか。あれは確かに口説き文句だ。気がつかないとか、私、色気なさすぎでは……?
元気なのに何もすることがない……というのは性に合わない。
掃除もしたが部屋は綺麗だ。本棚の本も並べ替えをした。食事の下ごしらえしか仕事がない。
仕事が……ない……?無理……!
趣味の刺繍も、服作りもできない。本……本ならある。読もう。うちの村の識字率の高さに感謝。
ミステリー小説は難しい。手に取ったのは聞いたことのある名前の作者で、確か、舞台になっていたような。どうやら人間界の本みたいだ。
つっかえながら読んでいたら、時間はすんなり過ぎていった。
扉が開いた。ブランチの時間にはちょっと早いかも。
フェンリルとサイファだ。
「やっほー。思ったより元気そうだね」
ヘロリと表情を崩すと、サイファはソファの隣に腰かけた。肩がぶつかる距離だ。
近ぇ!手で押し返してしまう。
「おお、強い強い。元気だ~」
「もしかしてお見舞い?」
「そ。お土産もって遊びに来たのさ。心配じゃない。ねぇ?」
と、尋ねられたフェンリルは面倒臭そうに配膳台を押してきた。……下ごしらえの分は夜にしよっと。
「魔王様直々にケーキのお心付けだ。喜べ」
ダイニングテーブルに並べるのを手伝う。魔王様は微塵も動かない。
で。
「勇者なんだけどさぁ、どうしようか」
サイファは食事と仕事の話を同時進行させる。どの場においても二人とも食べ方が極めて綺麗で、雑に育った私との違いを感じてしまう。
「すまない……俺が余計なことを言ったから……なんであんなこと言ったんだ、俺は……」
引きずるように落ち込んでいた。フェンリルは俯いて顔を覆う。私のことを心配したのか、正義感かはわからない。でも。
「そんなことないよ。庇ってくれたみたいで嬉しかった」
「うるせーやい……」
覇気のない小声だった。
励ますようにサイファはフェンリルに笑いかける。
「まあでもね、下調べはしたけど僕らがイメージ優先で決めつけて打たなくていい手を打ったわけだし。完全に話を拗らせちゃったよね」
確かに。私抜きの話なら、ハルもきちんと話を聞くかもしれない。私が絡むと厄介なのだ。そんなところが無理である。
「でも私、誘拐された立場とは言え、感謝してるんだよね」
「も~。それがややこしいんだってばさ。僕もレミィちゃんと会えて嬉しいんだけどね」
ツン、と頬をつつかれた。
「勇者に魔王城へ来てもらったら、最初に君たちのことをなんとかしないと話は進まない気がするね」
「ハルとの結婚は嫌だから……」
「それも一旦忘れよう。全部ハル君と話し合って決めよう。ね?」
本当になんとかしてくれるのか?じっと目を見て不安を伝える。
「なにがあっても僕が守るから。安心して」
サイファはとびきり優しく微笑んだ。
あ、武力を行使されるパターンも視野に入れてる。最悪のケースもあるからな。さすが魔王。世界を三回滅ぼせる力があるなら、何かあってもハルをやっつけてくれるだろう。
「わかった」
私は頷いた。
英気を養うつもりでデザートのケーキを食べる。何度も言ってきたつもりだけど、今は強い味方がいるのだ。今度こそなんとかなってもらうぞ。
デザートのケーキおいしかった。心からおいしかった。魔王城は何を食べてもおいしいから元の生活に戻れる自信がなくなってくる。
「ご飯をおいしそうに食べる女の子って健康的で好きだなぁ。やっぱり健康が一番だよ。奥さんに欲しいなぁ」
「殺し文句が通じなくて残念だったな」
フェンリルが嫌味に笑うと、へらへら笑ったサイファは小首を傾げた。
……ん?あ!
言われてみれば、さっきの守るとかなんとか。あれは確かに口説き文句だ。気がつかないとか、私、色気なさすぎでは……?
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