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待機
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三年生にも卒業生にも都合はあるから、連絡は電話やメールになった。それでも少しの間を縫って三年生に会いに行ったら、陸上部のスポーティな人だったり、演劇部の身長が高くて凛々しい人だったりした。これだけバリエーション豊かに恋人を集めるなんて、彼も何かの使命を持って転生したのかとか問いたくなってしまう。
下準備は慎重に、段取りは順調に。
養護教諭へ相談をするのは先にするか後にするか。ここは重要な問題で、先に相談をしたら直接感情をぶつけるのは難しくなってしまうだろう。相談をせずに関先生を呼び出したら話が拗れる可能性がある。どちらも一長一短。
私は聖薇にも相談した。けれど結果は非協力的だ。あなたのことでしょ、あなたが決めなさいよ。私に迷惑をかけるのはやめてね。迷惑になりそうなときは、あなたの都合を考えずに逃げるわ。私の体ですもの。よろしくてね? なんて言われてしまった。さすが、悪役キャラというだけある。損得に敏感だし計算高いし割り切っている。これくらいじゃないと生き抜いていけないのかもしれない。……当然ね、なんて言われてしまった。
ねえ、セーブはできる? 私は問いかける。しといてあげてもいいわ、でもロードは私専用よ、あなたに決定権はないわ。聖薇は答える。
この世界のシステムなんてわからないし、今の私にとっては不条理だけれど、これ以上ないリアルだ。リアルならリアルで体当たりをしなくてはいけない。しかし、リアルであると同時に、乙女ゲームという作られた世界でもあるのだ。少しくらい、派手なことをしてもいいだろうか。大人に相談したら関先生の追放はきっとモノローグ数行で終わってしまうのだろう。汚いものに蓋をしたがるのが世の中なのだ。
腹が決まった。あとは民意との兼ね合いを見て、もう一度、素直になって考えてみる。だけど私は決めたことを貫くつもりだ。大元の意志を替えずに変化させながら貫くことを――死なずに生きる方法をなんとか探すために。
私はメールで提案をした。みんな、乗ってくれた。私が中心になって動かしているというよりは、みんなが持っていた一つの強い意志に導きをつけた、というのが正しかったのかもしれない。焚き付けた、という言い方もある。そういう風に進むように全て設計されていたのかもしれない。
まあ、いい。
土曜日の午後に関先生は呼び出された。呼び出された場所は、卒業生――名は朝顔先輩という――の借りているマンション。一人暮らしだから呼び出すのに丁度いいということになった。
ほぼ初めて会う人たちに囲まれて、初めて会う人の部屋にいる。朝顔先輩は大人っぽくて理知的な雰囲気の眼鏡の女性だが、その印象を裏切らないシンプルだけどセンスのいい部屋だった。
「この部屋でしたのかな」
何を、とは問わない。三年陸上部の睦先輩が眉間を寄せて呟いた。短い髪と日に焼けた体はボーイッシュだけど、胸の膨らみは大きく、局地的な女性らしさがアンバランスな魅力をうんでいた。
「そういう話はやめたまえ。胸くそが悪い」
舌打ちをせんばかりに顔をしかめる岩倉先輩。演劇部のタカラヅカ要員だけど、メイクと衣装が女の子らしければ当然美人になる。全体的に平らな体つきは華奢に思えるだろう。
「どうせ直接話すことですわ」
そして、私と花園さん。この二人からしたら、私たちはどういう風に見えるのだろうか。内心で思うことはあっても口に出すことはないだろう。
「あの、えっと……俺は、近くで待機してますんで」
おそらく最も男性が居づらい空気の中に身を浸した相沢は、肩身が狭そうに頭を下げて、廊下へと逃げるように出て行った。もしも女の子だけではなんともならなくなったときのため、と言って、付き添ってくれたのだ。
「あの、みなさんは……そういうこと、されたんですか?」
花園さんの問いかけに、先輩二人は口を閉ざした。しかし尖った視線がイエスと言っていた。
思い出して怖くなったのか、花園さんはブルリと身を震わせた。あまりにも心細そうだったので、私はそっと花園さんの手を握った。
下準備は慎重に、段取りは順調に。
養護教諭へ相談をするのは先にするか後にするか。ここは重要な問題で、先に相談をしたら直接感情をぶつけるのは難しくなってしまうだろう。相談をせずに関先生を呼び出したら話が拗れる可能性がある。どちらも一長一短。
私は聖薇にも相談した。けれど結果は非協力的だ。あなたのことでしょ、あなたが決めなさいよ。私に迷惑をかけるのはやめてね。迷惑になりそうなときは、あなたの都合を考えずに逃げるわ。私の体ですもの。よろしくてね? なんて言われてしまった。さすが、悪役キャラというだけある。損得に敏感だし計算高いし割り切っている。これくらいじゃないと生き抜いていけないのかもしれない。……当然ね、なんて言われてしまった。
ねえ、セーブはできる? 私は問いかける。しといてあげてもいいわ、でもロードは私専用よ、あなたに決定権はないわ。聖薇は答える。
この世界のシステムなんてわからないし、今の私にとっては不条理だけれど、これ以上ないリアルだ。リアルならリアルで体当たりをしなくてはいけない。しかし、リアルであると同時に、乙女ゲームという作られた世界でもあるのだ。少しくらい、派手なことをしてもいいだろうか。大人に相談したら関先生の追放はきっとモノローグ数行で終わってしまうのだろう。汚いものに蓋をしたがるのが世の中なのだ。
腹が決まった。あとは民意との兼ね合いを見て、もう一度、素直になって考えてみる。だけど私は決めたことを貫くつもりだ。大元の意志を替えずに変化させながら貫くことを――死なずに生きる方法をなんとか探すために。
私はメールで提案をした。みんな、乗ってくれた。私が中心になって動かしているというよりは、みんなが持っていた一つの強い意志に導きをつけた、というのが正しかったのかもしれない。焚き付けた、という言い方もある。そういう風に進むように全て設計されていたのかもしれない。
まあ、いい。
土曜日の午後に関先生は呼び出された。呼び出された場所は、卒業生――名は朝顔先輩という――の借りているマンション。一人暮らしだから呼び出すのに丁度いいということになった。
ほぼ初めて会う人たちに囲まれて、初めて会う人の部屋にいる。朝顔先輩は大人っぽくて理知的な雰囲気の眼鏡の女性だが、その印象を裏切らないシンプルだけどセンスのいい部屋だった。
「この部屋でしたのかな」
何を、とは問わない。三年陸上部の睦先輩が眉間を寄せて呟いた。短い髪と日に焼けた体はボーイッシュだけど、胸の膨らみは大きく、局地的な女性らしさがアンバランスな魅力をうんでいた。
「そういう話はやめたまえ。胸くそが悪い」
舌打ちをせんばかりに顔をしかめる岩倉先輩。演劇部のタカラヅカ要員だけど、メイクと衣装が女の子らしければ当然美人になる。全体的に平らな体つきは華奢に思えるだろう。
「どうせ直接話すことですわ」
そして、私と花園さん。この二人からしたら、私たちはどういう風に見えるのだろうか。内心で思うことはあっても口に出すことはないだろう。
「あの、えっと……俺は、近くで待機してますんで」
おそらく最も男性が居づらい空気の中に身を浸した相沢は、肩身が狭そうに頭を下げて、廊下へと逃げるように出て行った。もしも女の子だけではなんともならなくなったときのため、と言って、付き添ってくれたのだ。
「あの、みなさんは……そういうこと、されたんですか?」
花園さんの問いかけに、先輩二人は口を閉ざした。しかし尖った視線がイエスと言っていた。
思い出して怖くなったのか、花園さんはブルリと身を震わせた。あまりにも心細そうだったので、私はそっと花園さんの手を握った。
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