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その日から毎日みたいに先生と電話した。時々は学校でキスしたり、若干いかがわしいようなこともした。

花園さんや相沢とは距離ができてしまったようで、会話することはなかった。クラスメイトは腹の内を気にしていたら怖くて遠ざけてしまい、気がついたら前みたいにぼっちになっていた。それでもなぜか寂しくないのは、一人でも信頼している人がいるからだろう。今までの私は本当に一人ぼっちで縮まっていたのだと実感した。

視界の右端に『▶︎SKIP』みたいなものがチラつくような気がしないでもないけど、多分なにかの勘違いなのだと思う。ふっと気がついたら一ヶ月なんか簡単に経ってしまった。

私は雨なのに送迎の車じゃなくて徒歩で町を歩いていた。バーバリーの傘をさした私は、バーバリーのレインブーツで水たまりを踏みながら、見覚えのある曲がり角で足を止めた。

どこで見た場所? 猫を拾うイベント。アングルが違うからすぐに思い出せなかったけれど、雨がヒントになってようやくつながった。

なぜ私はここに? ――ああそうだ、イベントを見にきたんだ。お持ち帰りが起こらないかどうか、興味本位で。やだ、ストーカーみたい。なんでそんな根暗なことするの? 尋ねるまでもなく私は根暗で疑い深くて嫉妬深いからだ。

段ボールに入った猫は、いる。あんまり近すぎると見つかってしまうだろうから、向かいの公園で待ってみることにした。

とつとつと傘に雨が当たる。髪の先が湿気で膨らんで、肌がベタつく。ひたすら佇むだけの時間はしんどくて長く感じたけれど、実際はそれほどのことでもないのだろう。腕時計(なぜかこれだけはヴィヴィアンウエストウッド)を見ると分単位でしか進んでいない。なんで一ヶ月があんなに早いのに待ち時間は長いのか。来ないなら来ないで『▶︎SKIP』にならないのか?

イライラしていた私の視界の先で、車が止まる。段ボールの猫の前……先生が黒い傘をポンとさして出てきた。小声で猫に話しかけているらしく、小首を傾げたりしている。あ、もっと近くで見たい。

そんな私の欲求とは反対に、パシャパシャ、と水溜りを勢い良く踏んで飛沫を散らす音が聞こえてきた。

先生は顔を上げて近づいてくる音の主を見、音の主もまた、はたと立ち止まった。止まれば後は雨音のみ。ザァと降る無言の間。

びしょ濡れで間着の白いところが張り付いてピンクのブラの色まではっきり見える花園さんに、先生は傘を差し出した。

「あっ、あの、私……大丈夫ですから……」

ゲームと同じく、関先生はさりげなく花園さんを構っているのだろうか?  花園さんはオドオドと腰が引けている。

「風邪を引くよ。乗りなさい」

私に向けたものとは違う、厳しくて強い口調。……拒絶が含まれない言葉なら、私も言われてみたい。

「で、でも……」

「もたもたするんじゃない」

先生は傘を花園さんに渡すと、背広を脱いで花園さんにかけた。花園さんは照れたのか何なのか萎縮して黙ってしまう。その背中を押して、先生は花園さんを車に乗せた。もちろん猫も一緒だ。

ショックを受けたといえば、確かに。好きだったのだ。楽しかったのだ。だから幸せだったのだ。

なのに、恐らく先生はゲーム通りのことをする。多分、『そういう人』なのだろう。

……うん、なんとなくそう思っていた。そうじゃないと思いたくもあったけれど、胸とかお尻とか触られたとき、そんな気がしてしまったのだ。そういうときは聖薇が先生から距離をとったけど、きっと正しい行動なんだろう。

車が発進する。私は見送る。

花園さんって、私が先生のこと好きだって知ってるよね。それなのに先生の車に乗るんだ。それはやむを得ないことなのかもしれない。でも、車に乗って行くのは先生の家で、お風呂を借りて、そのまま色々してしまう。

私より先に花園さんは騙されてしまうのた。関先生ルートはそういう話なのである。夢も希望もへったくれもない。

……なんで私、ここにいるんだろう。
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