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男装助手は女性にモテる・下

男装助手と食卓の謎解き。

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その日の晩はクリスのところで歓迎会を開いてもらった。四人で揃って食卓を囲むと、本当に仲間にしてもらえたのだという実感がわいてきた。ゲームでは部外者として接していたけれど、身内として接してくれる彼らは、気取りがなくて暖かい。

「どうだった?現場検証検討ついた?」

一息ついてから、クリスはざっくりと切り出した。私は一瞬ギクリとした。謎解きは食後にする話しかな?胃が固まるどころか、場合によっては吐かない?

「そうだなぁ。今話しても大丈夫?」

アレンさんは私に質問した。足を引っ張るようで申し訳ないが、こればかりは仕方ないのだ。視線を手元へ落とす。

「強めのグロテスク表現を避けていただければそれなりに……」

「だってさ。俺なんでも話しちゃうから、フロイドおねがい」

頷くフロイド。

「本日の現場は細い通りでした。もみ合ったあとが壁に残っていることを期待したのですが、微塵もございません。犯人はスマートに仕事を終わらせたようです。現場は警官によって既に掃除されていましたが……」

ちらとフロイドの視線が私へ向いた。ヤバさがわからないけど、ここで席を立つのも話が気になって嫌だなぁ。今後にも影響しそうだし。「大丈夫です」という私の意思を確認して、話を先へ進めるフロイド。

「現場写真では地面が血まみれでした。殺してから必要なものをいただいた、ということになるでしょうね。犯人は血まみれのまま帰るとは思えないので、衣類を変えているはずです」

「短時間で殺して捌いて着替えてるわけだ。夜とは言え、誰にも見つからずな。さて、そんなことできるかな?試しにやってみるか?」

アレンさんの趣味が悪い茶化しに、フロイドは眉を寄せた。

「街中でやるにはリスクが大きすぎるということですね。これがどういうことかわかりますか?エドガー」

ドキリとした。

これはフロイドのテストだ。人を試すのが好きなんだろうな。

幸い、私は答えを全て知っている。しかしそれは幸とも不幸とも言えるだろう。

能力以上の回答をすると今後困る可能性がある。かといって、惚けてさっぱりわからないバカだと思われるのも癪だ。

できるなら答えに近づくような誘導をして、少しでも事件の解決を早めたい。ともかく、失言をしてはいけない。

「ええと……まず、壁に傷がないのは『そこでもみ合っていない』から、と仮定します。A地点で殺してから車とかに死体を詰んで、B地点で作業をして、C地点の犯行現場に捨てて、カモフラージュした……とか……浅知恵でしょうか?」

より詳しく説明しよう。

A地点で、女装をしたショウ・ガイラーは被害者に声をかける。変装することで女性だと思わるため、異性に声をかけられるのとは違って被害者に油断が生まれる。そして暗がりで殺すのだ。最初の一人はショウ・ガイラーが女装だと気がついて、バカにしたことが原因で殺される。

B地点は肉屋だ。あの店の台所だ。塩漬けにして変身する日に食べるのだ。今日殺人が起きていなければ、まだ保管されているだろう。

C地点が犯行現場と言われている場所だ。海にでも捨ててしまえばいいのに飾り立てる理由は、彼が自らの女装を夜闇に隠しながらも本心は見せたいという抑制の裏返しである。

「……完璧です。これはグッドではなくパーフェクトと言わざるを得ません」

フロイドは眉を寄せて唸った。怪訝に見えるくらい感心しているのだ。

「こりゃ舌巻いた。そりゃ簡単なことだとは言っても、万人向けの簡単さだとは思わないからなぁ。素直に誉めるぞ!すごい!」

アレンさんは目を真ん丸にして両手を伸ばすと、私の帽子をわしゃわしゃ撫でた。

クリスはなにも言わないけれど、機嫌よさげにニコニコしていた。

なんか罪悪感あるなぁ。言うことは自分で考えているけれど、答えは既に知っているのだから。いつかボロが出そうで怖い。

「帽子とっていい?」

「女の子になっちゃうんでやめてください」

「そんな変わるの?」

了解をとらず、アレンさんは私の帽子をペロッと取り上げた。仕舞ってた金髪が湯切りに失敗したカップ焼きそばのようにダバァと流れ出る。

顔を覆う髪を手櫛で整える。ちょっとひっかかるかも。

「あー、もう。意地悪しないでください」

アレンさんにまじまじと顔を観察される。骨格などの造形が変わっていないことを確認されているような感じ。

「こう見ると美人だ。いや、美形と言うことは最初からわかっていたんだよ。でもね。俺も変装するけれど、髪型ってここまで印象を変えるんだなぁ。本当にびっくりした。美人だね」

「ありがとうございます。マナー違反だってわかっているんですが、帽子、返していただけません?」

「えー、いいじゃん。プライベートな時間くらいはさ」

帽子をヒラヒラして、ヘラヘラ笑うアレンさん。小学生みたいな調子にフロイドは言葉も出ないようで、呆れた顔をしていた。

「あの俺が緊張するから帽子返してあげてください」

クリスは顔を真っ赤にして机の一点を見ていた。初対面のときよりも恥ずかしがりが酷くなっている気がした。
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