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男装助手は女性にモテる・上
男装助手は悪役令嬢?
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アレンさんの方が明らかに変なこと言ってる。私以外の誰が悪役令嬢のエミリー・モリスなんだ。確かに私は前世の記憶を持っているけれど、本人には間違いない。
「なにを言っているんですか?」
この人、頭おかしいんじゃないか?ヒロインもそう思ってた。……しかし、シナリオを進めると、異様に頭がいいだけだと納得していたわけで。
「それは君の方だよ!令嬢がそんなこと言うわけないだろ。フロイド、なんのつもりだよ。俺をからかって遊んでるの?くだらん!しばくぞ!」
暗くはないが気難しそうな顔を怒らせるアレンさん。私からフロイドへ視線を向ける。
フロイドの眉も寄っている。
「いいえ。彼女は間違いなくエミリー・モリスです。ただ、私の知っているエミリー・モリスとは……数日のうちに、まるで人が変わったように庶民的になりまして。文句も言わず、一度もやったことがないであろう皿洗いも手際よく自発的にしていました」
「できるわけないって。育ちが違いすぎるもの。人間は環境で形成される」
「まったく説明がつかないので私も戸惑っています」
頭脳派二人に分析されて、納得してしまった。
前世の知識が目覚めた私は、もはやエミリー・モリスではなかったのかもしれない。
エミリー・モリスは悪役令嬢であり、役は役らしく立ち回らなければ違和感になる。そのことに気がついていなかった。だって、前世の知識に身を任せた方が勝率が上がるなら、そうしたいじゃないか。
相手が普通の人ならば多少の違和感程度はキャラクターとして受け流されるかもしれない。でも、彼らは違和感を筋が通るまで追求する生き物だ。
エミリー・モリスにできるはずのないことを前世の私がやった。
そんなこと説明できないや。
「本で読んだからイメージトレーニングはばっちりなんです。実際にやってみると楽しいことばかりですね。ちょっと不安でしたが、私なかなかセンスあるみたいでよかったです」
彼らの前ででっち上げをしてもしょうがないかもしれないが、説明できないのだからやむを得ない。動揺せず、可愛い子ぶってすごいでしょ?と胸を張れば、多少は見逃されるかもしれない。
アレンさんはパイプをふかしながらしばらく私をじっと見つめていた。途中から、間がとれなくて困った。
「……確かにこれだけに面白ければ拾ってくるな。俺が直々に行きたかったくらいだよ」
ふいっとフロイドへ視線が向いた。フロイドは執事のときみたいに無表情だし、慇懃にピンと背筋を伸ばしていた。
「失礼ながら今回の案件、アレンさんは不向きです。未練たらしく見ないでください」
子供みたいにむっつりするアレンさん。
変装も潜入も得意だけど、長期間の安定した労働は無理だろうな。躁鬱の気があって、定期的に寝込んでしまう設定だ。心配したヒロインがかいがいしくお世話してからのエッチシーンがあった。ゲームをプレイしている最中は、スケベする気力のある鬱ならぜんぜん元気だと思った。
「もしかするとおわかりかもしれませんが、軽く事情を説明させていただけませんか?」
「読みながら聞こうか」
アレンさんは手元の資料へ目を落とした。私もフロイドを見習って背筋を伸ばす。
「婚約発表の数日前に家を飛び出してきました。妹に殺されたくなくて。どこにいけばいいかと思いまして、ヘンリーという優れた執事にそれなく相談しました。そして提案されたロンドンのダウントンストリートを目指しました。同じ汽車に乗っていたフロイド先生に呼び止められ、執事ヘンリーはフロイド先生だと知りました」
フロイドが厳しい顔をしていた。私、またなんかやっちゃいましたか。その空気感を怪訝に思ったのか、アレンさんも目玉をこちらへ向けた。
「あなたは妹様に殺されそうだと気がついていたのですか?てっきり婚約が嫌で逃げ出したのかと思っていました」
私は不意に言葉に詰まった。言ったことは嘘じゃない。でも、矛盾が発生してしまう。
シンシアは毒殺を仄めかすようなことを言った。私は婚約破棄をされたあと自殺をする。
勝手に因果関係を結びつけていたけれど、確かな確認をしたわけではない。なんなら、フロイドから聞いたときに自分の死が近かったことを実感したくらいだ。そのリアクションは、フロイドにはすべて本当のこととして見えているはずだ。
「薄々……妹はエキセントリックなところがありましたから。婚約が嫌だったことは大いにありますよ。ただ、本当に動物を殺していたなんて思いもしなかったわ。こんなにゾッとしたことはありません」
薄々感じていたことは嘘じゃない。しかし、現実的な確証もなくそれだけで逃げてしまうのはやや病気だろう。ならば、そういうことにしておく。
「ほら、変装するなら気を抜かない。口調と立ち姿、可愛くなってるぞ」
面白そうに笑うアレンさんに指摘されて気がついた。女の子らしく手を前で組んでいた。声のトーンや口調もすっかり忘れていた。自分の失態に「あっ」と声をあげて、赤くなった頬を押さえる。
「感情で事実関係を前後させてはいけません。ご自身のことだから難しいでしょうが、もっと冷静に物事を眺めるべきです」
フロイドの声は冷たく厳しかった。
ゲームだと逆なんだけどなぁ。フロイドの方が主人公に親しげで、アレンさんはほとんど無視。アレンさんもクリスも好感度チートで始まったのに、フロイドはこれだよ。
ちなみに、だからと言ってアレンさんに逃げる気はしなかった。
アレンさんのルートで主人公が死ぬのは一つだけ。アレンさんが犯人を撃ち殺す。しかしヒロインはもう手遅れで死亡。アレンさんは守れなかったことを苦にして、拳銃に主人公の冷たい手を添えて、こめかみ撃って死亡。
だが、死ぬことだけがヤバイわけではない。通常のルートなのに、怪しくてハッピーになる何らかのおクスリをキめてスケベしている描写があるのだ。アレンさんを好きなユーザーは必ず口にするくらい、とてもインモラルでかなりエッチで評判のいい内容だった。
フロイドと違う意味でこいつも危ないのだ。むしろ、この態度のフロイドの側にいるのは正解だと思いたい。
「なにを言っているんですか?」
この人、頭おかしいんじゃないか?ヒロインもそう思ってた。……しかし、シナリオを進めると、異様に頭がいいだけだと納得していたわけで。
「それは君の方だよ!令嬢がそんなこと言うわけないだろ。フロイド、なんのつもりだよ。俺をからかって遊んでるの?くだらん!しばくぞ!」
暗くはないが気難しそうな顔を怒らせるアレンさん。私からフロイドへ視線を向ける。
フロイドの眉も寄っている。
「いいえ。彼女は間違いなくエミリー・モリスです。ただ、私の知っているエミリー・モリスとは……数日のうちに、まるで人が変わったように庶民的になりまして。文句も言わず、一度もやったことがないであろう皿洗いも手際よく自発的にしていました」
「できるわけないって。育ちが違いすぎるもの。人間は環境で形成される」
「まったく説明がつかないので私も戸惑っています」
頭脳派二人に分析されて、納得してしまった。
前世の知識が目覚めた私は、もはやエミリー・モリスではなかったのかもしれない。
エミリー・モリスは悪役令嬢であり、役は役らしく立ち回らなければ違和感になる。そのことに気がついていなかった。だって、前世の知識に身を任せた方が勝率が上がるなら、そうしたいじゃないか。
相手が普通の人ならば多少の違和感程度はキャラクターとして受け流されるかもしれない。でも、彼らは違和感を筋が通るまで追求する生き物だ。
エミリー・モリスにできるはずのないことを前世の私がやった。
そんなこと説明できないや。
「本で読んだからイメージトレーニングはばっちりなんです。実際にやってみると楽しいことばかりですね。ちょっと不安でしたが、私なかなかセンスあるみたいでよかったです」
彼らの前ででっち上げをしてもしょうがないかもしれないが、説明できないのだからやむを得ない。動揺せず、可愛い子ぶってすごいでしょ?と胸を張れば、多少は見逃されるかもしれない。
アレンさんはパイプをふかしながらしばらく私をじっと見つめていた。途中から、間がとれなくて困った。
「……確かにこれだけに面白ければ拾ってくるな。俺が直々に行きたかったくらいだよ」
ふいっとフロイドへ視線が向いた。フロイドは執事のときみたいに無表情だし、慇懃にピンと背筋を伸ばしていた。
「失礼ながら今回の案件、アレンさんは不向きです。未練たらしく見ないでください」
子供みたいにむっつりするアレンさん。
変装も潜入も得意だけど、長期間の安定した労働は無理だろうな。躁鬱の気があって、定期的に寝込んでしまう設定だ。心配したヒロインがかいがいしくお世話してからのエッチシーンがあった。ゲームをプレイしている最中は、スケベする気力のある鬱ならぜんぜん元気だと思った。
「もしかするとおわかりかもしれませんが、軽く事情を説明させていただけませんか?」
「読みながら聞こうか」
アレンさんは手元の資料へ目を落とした。私もフロイドを見習って背筋を伸ばす。
「婚約発表の数日前に家を飛び出してきました。妹に殺されたくなくて。どこにいけばいいかと思いまして、ヘンリーという優れた執事にそれなく相談しました。そして提案されたロンドンのダウントンストリートを目指しました。同じ汽車に乗っていたフロイド先生に呼び止められ、執事ヘンリーはフロイド先生だと知りました」
フロイドが厳しい顔をしていた。私、またなんかやっちゃいましたか。その空気感を怪訝に思ったのか、アレンさんも目玉をこちらへ向けた。
「あなたは妹様に殺されそうだと気がついていたのですか?てっきり婚約が嫌で逃げ出したのかと思っていました」
私は不意に言葉に詰まった。言ったことは嘘じゃない。でも、矛盾が発生してしまう。
シンシアは毒殺を仄めかすようなことを言った。私は婚約破棄をされたあと自殺をする。
勝手に因果関係を結びつけていたけれど、確かな確認をしたわけではない。なんなら、フロイドから聞いたときに自分の死が近かったことを実感したくらいだ。そのリアクションは、フロイドにはすべて本当のこととして見えているはずだ。
「薄々……妹はエキセントリックなところがありましたから。婚約が嫌だったことは大いにありますよ。ただ、本当に動物を殺していたなんて思いもしなかったわ。こんなにゾッとしたことはありません」
薄々感じていたことは嘘じゃない。しかし、現実的な確証もなくそれだけで逃げてしまうのはやや病気だろう。ならば、そういうことにしておく。
「ほら、変装するなら気を抜かない。口調と立ち姿、可愛くなってるぞ」
面白そうに笑うアレンさんに指摘されて気がついた。女の子らしく手を前で組んでいた。声のトーンや口調もすっかり忘れていた。自分の失態に「あっ」と声をあげて、赤くなった頬を押さえる。
「感情で事実関係を前後させてはいけません。ご自身のことだから難しいでしょうが、もっと冷静に物事を眺めるべきです」
フロイドの声は冷たく厳しかった。
ゲームだと逆なんだけどなぁ。フロイドの方が主人公に親しげで、アレンさんはほとんど無視。アレンさんもクリスも好感度チートで始まったのに、フロイドはこれだよ。
ちなみに、だからと言ってアレンさんに逃げる気はしなかった。
アレンさんのルートで主人公が死ぬのは一つだけ。アレンさんが犯人を撃ち殺す。しかしヒロインはもう手遅れで死亡。アレンさんは守れなかったことを苦にして、拳銃に主人公の冷たい手を添えて、こめかみ撃って死亡。
だが、死ぬことだけがヤバイわけではない。通常のルートなのに、怪しくてハッピーになる何らかのおクスリをキめてスケベしている描写があるのだ。アレンさんを好きなユーザーは必ず口にするくらい、とてもインモラルでかなりエッチで評判のいい内容だった。
フロイドと違う意味でこいつも危ないのだ。むしろ、この態度のフロイドの側にいるのは正解だと思いたい。
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