86 / 94
四霊/百花繚乱花嵐 編
68.戦士結集
しおりを挟む
デネブ村での一件を解決した私達は、翌日になってからシリウスに戻った。
ビートとポルカの推薦もあり、私はギルドにプラチナランク冒険者として登録、ルカはプラチナランクに昇格、シャロはゴールドランクに登録された。
そうして、ギルドに登録したのはもう一人……
「ビートさん……いえ、ビート師匠! あーしを弟子にして下さい!」
シルビアは自警団としての仕事を続けながら、冒険者としてビートの元で戦い方を学ぶことにしたらしい。
「し、師匠か……! うむ、引き受けよう」
ビートはどこか嬉しそうで、シルビアもシャロと同じゴールドランクとして登録された。
シルビアに関しては既に実力がプラチナランク相当の為、状況に応じてプラチナランクへの昇格が検討されるらしい。
「また一緒にお仕事しようね~!」
帰り際、ポルカが私達にそう言って手を振りながら見送ってくれた。
少し恥ずかしかったけれど、私は少し控えめに手を振り返した。
「いや~、まさかシルビアちゃんまで冒険者になっちゃうなんて!」
「迷ったんだけどね。でも、今は自警団にウールさんも居てくれるし、カンパニュラからも騎士団を派遣してもらってるから、復興のほうはそこそこ手が足りてる。それに……冒険者として色んなところを旅したほうが、兄ちゃんの手掛かりも掴めそうだし」
諸々が落ち着いた後、ウールはジャックからの誘いで自警団へと入った。
魔族ではあるけれど、皆が私の戦いを見ていてくれたおかげで、その辺りの偏見はある程度無くなったようだ。
シルビアの兄、バーンフォクシーの行方は未だ分からない。
これだけ見つからないと、最悪の想像もしてしまいそうではあるけれど、家族であるシルビアからすれば生きていて欲しいと信じるのは当然だろう。
無論、私もそう信じている。
私達が家に着くと、家の前に若い男性が一人立っていた。
リタの弟、ルーク・シープハードだ。
彼は私達に気付くと、爽やかな笑顔でこちらに軽く会釈をしてきた。
「こんにちは、今ギルドから帰り?」
「うん、どうしたの?」
私がそう聞き返すと、彼は少し真剣な面持ちになると
「サーナさん救出の算段がついた」
と答えた。
「えっ、本当に!?」
「詳しい話がしたい。お疲れのところ申し訳ないけど、自警団まで来てくれるかな?」
その話で疲れなんて吹き飛んだ。
私達4人はルークと共に自警団へと行き、奥の広い会議室のような部屋に通される。
そこにはエドガー以外の自警団メンバーとアストラ聖騎士団のジェラルド、ケイシーを連れた作戦主導者のセシルと、その横には綺麗な女性が座っていた。
現在カンパニュラから復興支援に来ている、カンパニュラ騎士団長のヴェロニカだ。
エドガーがこの場に居ないのは、先日再び勇者としての資格を取り戻す為の旅に出て行ったからである。
無事に帰って来れると良いけれど……
ルークは私達へ好きな席に座るように言うと、セシルの左隣の席に腰を掛けた。
「ごきげんよう、皆さん。後もうお二人を呼んで頂いているのですが、もうじきお越し頂けるでしょう」
あと二人……?
心当たりがあるような気がする。
好きな席で良いと言われたので、私は空いていたウールの隣に座った。
そこから少し待つと、やはり予想通りの二人が部屋に姿を現す。
「失礼する」
「どうも~……あれ、ベリィ様たちじゃん!」
やはりビートとポルカだ。
恐らくとは思っていたけれど、この二人も戦力としては非常に心強い。
「冒険者ギルド、アステロイドのプラチナランク冒険者、ポルカさんとビートさんですね。初めまして、わたくしはカンパニュラ公国のセシル・キキ・フランボワーズと申します。この度は急なお呼び出しにも関わらず、お越し頂きありがとうございます」
「初めまして~! いえいえ、ちょうど暇だったんで~」
「マスターから直々の頼みゆえ、断る理由はありません」
そう言った二人にセシルは「ありがとうございます」と頭を下げ、空いた席に座るよう促す。
「それでは、これより行われる作戦会議の大まかな内容を、わたくしとルークさんの方でご説明させて頂きます」
そうして二人は、星の女神サーナのことや先日のブライトによるシリウス襲撃事件のこと、メフィル・ロロに攫われたサーナを救出するという事についての説明を簡潔にまとめて話した。
「我々カンパニュラ公国は、アストラ聖騎士団とシリウス自警団ご協力の元、サーナさんの救出に向けて作戦を立てて参りました。この度はそちらの詳細が決定致しましたので、具体的な作戦を皆様と話し合っていければと思っております」
セシルの言葉に、皆が一斉に頷く。
続いて彼女の横に座っていたルークが立ち上がると、作戦を実行するにあたり必要な準備について話し始めた。
「自警団のルーク・シープハードです。後程説明があるかと思われますが、此度の作戦ではアイテール帝国へと侵入する事になります。そのため大人数での移動は出来る限り避ける必要があり、少数精鋭での総力戦という形になりました。皆さん、お手元に資料をご用意しましたので、そちらの1枚目と2枚目をご覧ください」
ルークに言われた通り、私達は手元にある資料に目をやる。
3枚あるうちの2枚には、作戦実行場所がアイテール帝国である事と、このメンバーにおけるそれぞれの役割分担が書かれていた。
「作戦時における細かな役割は前日にご説明しますが、未知数な部分も多いのでそのあたりは臨機応変に行動して頂くことになります。先ず必要なのは作戦を成功させるために必要な準備です。資料にもある通りセシル様を司令塔とした作戦としますが、セシル様にはこちらに残って頂いて知恵の眼の魔法と念話のみに集中して頂きます。現場での指示はヴェロニカ団長とヘビ団長とジャック副……団長、そして念魔法に長けているポルカさんの念話によって情報共有をして頂きますので、このメンバーには次の作戦会議迄に詳しい作戦内容を練って頂きつつ、魔力の温存をお願いします」
ヘビ団長って……ジェラルドのことか。
ルークはあまりジェラルドのことが好きそうではないようだけれど、何かあったのだろうか?
そういえば、あれから自警団の団長はジャックが引き継いでやっている。
鬼の副長と聞かされていたジャックだけれど、確かに厳しそうに見えつつも紳士的な人だ。
「続いて、ビートさんとマットには僕やセシルさんと一緒に作戦で使う予定のルートについて話し合いたいと思っています。大まかなルートは既にこちらで決めているのですが、隠密行動や索敵に長けたお二人の意見が欲しいです」
ルークの話に、ビートとウルフの二人が頷いた。
「それと、ビートさんにはもう一つお願いがあります。ルカさんと一緒に、アステロイドでゴールドランク以上の冒険者を育てる為の稽古をつけて頂きたいです。その中でプラチナランク相当の実力がある冒険者を作戦に加えたいと考えています。マスターには交渉済みです。実力を贔屓するようで心苦しいのですが、この作戦には一人でも多くの戦力が必要です。何卒、よろしくお願いします」
「御意。ルカ殿、宜しく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
確かに、今ここへ集まっているメンバーを冒険者ランクに当て嵌めると、全員がプラチナランク相当かそれ以上の実力を持っている。
中でも、私とルカとジェラルドが戦力の要になっているだろう。
それは恐らく、ルークも同じ。
彼の傍らに置かれた大剣は、紛れもなく四霊聖剣の一つである、地砕剣スモークエイクだ。
シルビアと同じ四霊聖剣使い、まさかリタの弟がそれだったなんて……
彼の戦いは一度も見た事が無いけれど、実力はルカと同等ぐらいに見受けられる。
逆に実力不足のメンバーを強いて挙げるならば、シャロぐらいだろうか。
彼女の力は確かに強力で、あのバフォメットですらも力負けさせる程だったけれど、問題は魔法が殆ど使えない事だ。
そもそも魔力が無い状態で、どうアイネクレストの魔法を発動しているのか謎ではあるけれど、彼女が扱えるのはプロミネンスという防御型の魔法である。
攻撃は盾で殴るスタイルを主にしているが、物理だけではどうしても魔法攻撃には劣ってしまう。
だからシャロは、私が鍛える。
「そしてベリィさん、君にしか出来ない頼みがあります」
不意にルークから名前を呼ばれた事に、私は少し驚いた。
そう言えば、まだ私の役割を聞かされていなかったな。
「なに?」
「マレ王国に、この作戦で最高戦力の一人になり得る方がいます。ベリィさんには王国まで一緒に来て頂いて、その方の説得に協力して欲しいんです」
最高戦力の一人という事は、余程の実力者なのだろう。
これに私を選んだという事は、実力面だけではなく転移魔法の有無か。
マレ王国まで行き、帰りは転移でこちらまで戻る。
現状それが可能なのは、魔力を無制限に使える私だけだ。
「わかった。その代わり、シャロとウールも一緒で良い?」
私からの提案に、ルークは「わかりました」と言って頷いてくれた。
「それでは、僕からのお話はこれで以上です。続いてヴェロニカ団長、よろしくお願いします」
ルークが椅子に座ると、今度はセシルの右隣に座るヴェロニカが立ち上がる。
「はい、カンパニュラ騎士団のヴェロニカ・グリーンウッドです。私からは作戦決行日と、現時点で決まっているその内容についてご説明させて頂きます。資料の3枚目に書かれておりますので、そちらもご覧ください」
ヴェロニカに言われた通り、手元の資料を一枚捲って目を通す。
「現在、メフィル・ロロとサーナ・キャンベルと居場所は不明なままです。ですが12日後、アイテール帝国首都カエルムの姉妹都市であるアーラにて、創星教の集会が行われることが分かっています。その集会には、メフィル・ロロが女神サーナ・キャンベルを連れて登壇することが分かっております。情報提供者は明かせませんが、これは確実です。場所は創星教アーラ教会、町外れにある古びた教会ですが、その日は多くの信者達が集まります。信者達に被害が出ないよう動く必要がありますが、目標はサーナ・キャンベルの救助及び、メフィル・ロロの拘束です。皆様、何卒よろしくお願い致します」
ヴェロニカの話した内容に、ジェラルドが右手を挙げる。
「情報の出処を明かせないというのは、何か事情がお有りなのですか?」
「皆様を信用していない訳ではないのですが、これは情報をくださった本人の意思です。その方はセシル様も信用しておられるお方です」
「……わかりました、信じましょう」
この情報をカンパニュラに流した人物が誰なのかは分からないけれど、恐らくスパイというやつか。
知恵の眼を持つセシルが信用している人なのだから、問題は無いだろう。
「続いてアイテール帝国への潜入方法ですが、メトゥス大迷宮からの侵入を予定しております。こちら側からアイテール側への移動時間は徒歩で12時間ほどかかる為、作戦前日から移動を開始し、迷宮を出たところで夜を明かします。そこから北の奴隷市場跡地がある廃村を通れば、馬を使い2時間程でアーラに到着できる予定です」
北の奴隷市場……もしかして、あの奴隷市場か?
「あの、ちょっといい?」
私がそう言って手を挙げると、皆がこちらに注目した。
間違いでなければ、北の奴隷市場は私が捕まっていた場所だ。
そこまでなら、私の転移魔法で移動が出来る。
「北の奴隷市場って、アルブ側にある奴隷市場だよね? アイテールが奴隷制度を廃止する直前に事故で閉鎖されたっていう……」
「はい、そうですが……」
「私、アルブを追放された後にそこで数日間捕まっていたの。事故じゃなくて私が壊したし……そこまでなら、みんなを転移魔法で移動させられるよ!」
私の話を聞いた皆の表情から、少しだけ険しさが消えた。
これなら危険な迷宮を通る必要が無くなるし、当日までゆっくりと身体を休められる。
「そうでしたか……! 奴隷市場での日々、お辛かったでしょう。喜ぶべきかは分かりませんが、心より感謝申し上げます」
「ううん、気にしないで。元々私の友達を助ける為に動いてくれてるわけだし、私に出来ることなら何でも協力するから」
ヴェロニカとはあまり話した事が無かったけれど、凛と咲く花のような立ち振る舞いで、とても慈悲深い人だと聞いていた。
本当に、そのイメージ通りの人だ。
「ありがとうございます、ベリィ様。では、私からの説明は以上になります」
そうしてヴェロニカが席に座ると、これまで静かだったセシルが口を開いた。
「ここまでの説明で分からない事がある場合は、後程お願い致します。共有が必要な話が出た場合はその都度ご報告致しますね。それでは、これにて作戦会議を終了致します。本日はお集まり頂き、誠にありがとうございました。皆様、何卒よろしくお願い致します」
セシルが頭を下げると、皆は立ち上がって彼女に深々と礼をした。
無論、私もである。
セシルの人を動かす力は凄い。
隣国の公爵令嬢という立場である事も理由の一つではあるだろうけれど、それにしたってこんな大掛かりな作戦を企ててしまうのだから、彼女は本当の天才だと思う。
会議が終わり、私はシャロとウールを連れて一先ずルークの元に行った。
「急な呼び出しになっちゃってごめんね」
「大丈夫、出発はいつ?」
「明日の昼の便を予定してる。マレ王国までは船で3日程だから、向こうに滞在できる日数は長くても7日間ってところかな。少しは羽を伸ばす時間も作れると思う」
羽を伸ばす、か……
確かに焦っても仕方ないだろう。
折角の観光地だし、やることをやったら少し遊んで行くのも良いかもしれない。
「分かった。よろしくね、ルーク」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ルークは爽やかな笑顔を見せてそう言った。
サーナが今どうなっているのか、その不安は拭えないけれど、今は出来る事をしようと思う。
ビートとポルカの推薦もあり、私はギルドにプラチナランク冒険者として登録、ルカはプラチナランクに昇格、シャロはゴールドランクに登録された。
そうして、ギルドに登録したのはもう一人……
「ビートさん……いえ、ビート師匠! あーしを弟子にして下さい!」
シルビアは自警団としての仕事を続けながら、冒険者としてビートの元で戦い方を学ぶことにしたらしい。
「し、師匠か……! うむ、引き受けよう」
ビートはどこか嬉しそうで、シルビアもシャロと同じゴールドランクとして登録された。
シルビアに関しては既に実力がプラチナランク相当の為、状況に応じてプラチナランクへの昇格が検討されるらしい。
「また一緒にお仕事しようね~!」
帰り際、ポルカが私達にそう言って手を振りながら見送ってくれた。
少し恥ずかしかったけれど、私は少し控えめに手を振り返した。
「いや~、まさかシルビアちゃんまで冒険者になっちゃうなんて!」
「迷ったんだけどね。でも、今は自警団にウールさんも居てくれるし、カンパニュラからも騎士団を派遣してもらってるから、復興のほうはそこそこ手が足りてる。それに……冒険者として色んなところを旅したほうが、兄ちゃんの手掛かりも掴めそうだし」
諸々が落ち着いた後、ウールはジャックからの誘いで自警団へと入った。
魔族ではあるけれど、皆が私の戦いを見ていてくれたおかげで、その辺りの偏見はある程度無くなったようだ。
シルビアの兄、バーンフォクシーの行方は未だ分からない。
これだけ見つからないと、最悪の想像もしてしまいそうではあるけれど、家族であるシルビアからすれば生きていて欲しいと信じるのは当然だろう。
無論、私もそう信じている。
私達が家に着くと、家の前に若い男性が一人立っていた。
リタの弟、ルーク・シープハードだ。
彼は私達に気付くと、爽やかな笑顔でこちらに軽く会釈をしてきた。
「こんにちは、今ギルドから帰り?」
「うん、どうしたの?」
私がそう聞き返すと、彼は少し真剣な面持ちになると
「サーナさん救出の算段がついた」
と答えた。
「えっ、本当に!?」
「詳しい話がしたい。お疲れのところ申し訳ないけど、自警団まで来てくれるかな?」
その話で疲れなんて吹き飛んだ。
私達4人はルークと共に自警団へと行き、奥の広い会議室のような部屋に通される。
そこにはエドガー以外の自警団メンバーとアストラ聖騎士団のジェラルド、ケイシーを連れた作戦主導者のセシルと、その横には綺麗な女性が座っていた。
現在カンパニュラから復興支援に来ている、カンパニュラ騎士団長のヴェロニカだ。
エドガーがこの場に居ないのは、先日再び勇者としての資格を取り戻す為の旅に出て行ったからである。
無事に帰って来れると良いけれど……
ルークは私達へ好きな席に座るように言うと、セシルの左隣の席に腰を掛けた。
「ごきげんよう、皆さん。後もうお二人を呼んで頂いているのですが、もうじきお越し頂けるでしょう」
あと二人……?
心当たりがあるような気がする。
好きな席で良いと言われたので、私は空いていたウールの隣に座った。
そこから少し待つと、やはり予想通りの二人が部屋に姿を現す。
「失礼する」
「どうも~……あれ、ベリィ様たちじゃん!」
やはりビートとポルカだ。
恐らくとは思っていたけれど、この二人も戦力としては非常に心強い。
「冒険者ギルド、アステロイドのプラチナランク冒険者、ポルカさんとビートさんですね。初めまして、わたくしはカンパニュラ公国のセシル・キキ・フランボワーズと申します。この度は急なお呼び出しにも関わらず、お越し頂きありがとうございます」
「初めまして~! いえいえ、ちょうど暇だったんで~」
「マスターから直々の頼みゆえ、断る理由はありません」
そう言った二人にセシルは「ありがとうございます」と頭を下げ、空いた席に座るよう促す。
「それでは、これより行われる作戦会議の大まかな内容を、わたくしとルークさんの方でご説明させて頂きます」
そうして二人は、星の女神サーナのことや先日のブライトによるシリウス襲撃事件のこと、メフィル・ロロに攫われたサーナを救出するという事についての説明を簡潔にまとめて話した。
「我々カンパニュラ公国は、アストラ聖騎士団とシリウス自警団ご協力の元、サーナさんの救出に向けて作戦を立てて参りました。この度はそちらの詳細が決定致しましたので、具体的な作戦を皆様と話し合っていければと思っております」
セシルの言葉に、皆が一斉に頷く。
続いて彼女の横に座っていたルークが立ち上がると、作戦を実行するにあたり必要な準備について話し始めた。
「自警団のルーク・シープハードです。後程説明があるかと思われますが、此度の作戦ではアイテール帝国へと侵入する事になります。そのため大人数での移動は出来る限り避ける必要があり、少数精鋭での総力戦という形になりました。皆さん、お手元に資料をご用意しましたので、そちらの1枚目と2枚目をご覧ください」
ルークに言われた通り、私達は手元にある資料に目をやる。
3枚あるうちの2枚には、作戦実行場所がアイテール帝国である事と、このメンバーにおけるそれぞれの役割分担が書かれていた。
「作戦時における細かな役割は前日にご説明しますが、未知数な部分も多いのでそのあたりは臨機応変に行動して頂くことになります。先ず必要なのは作戦を成功させるために必要な準備です。資料にもある通りセシル様を司令塔とした作戦としますが、セシル様にはこちらに残って頂いて知恵の眼の魔法と念話のみに集中して頂きます。現場での指示はヴェロニカ団長とヘビ団長とジャック副……団長、そして念魔法に長けているポルカさんの念話によって情報共有をして頂きますので、このメンバーには次の作戦会議迄に詳しい作戦内容を練って頂きつつ、魔力の温存をお願いします」
ヘビ団長って……ジェラルドのことか。
ルークはあまりジェラルドのことが好きそうではないようだけれど、何かあったのだろうか?
そういえば、あれから自警団の団長はジャックが引き継いでやっている。
鬼の副長と聞かされていたジャックだけれど、確かに厳しそうに見えつつも紳士的な人だ。
「続いて、ビートさんとマットには僕やセシルさんと一緒に作戦で使う予定のルートについて話し合いたいと思っています。大まかなルートは既にこちらで決めているのですが、隠密行動や索敵に長けたお二人の意見が欲しいです」
ルークの話に、ビートとウルフの二人が頷いた。
「それと、ビートさんにはもう一つお願いがあります。ルカさんと一緒に、アステロイドでゴールドランク以上の冒険者を育てる為の稽古をつけて頂きたいです。その中でプラチナランク相当の実力がある冒険者を作戦に加えたいと考えています。マスターには交渉済みです。実力を贔屓するようで心苦しいのですが、この作戦には一人でも多くの戦力が必要です。何卒、よろしくお願いします」
「御意。ルカ殿、宜しく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
確かに、今ここへ集まっているメンバーを冒険者ランクに当て嵌めると、全員がプラチナランク相当かそれ以上の実力を持っている。
中でも、私とルカとジェラルドが戦力の要になっているだろう。
それは恐らく、ルークも同じ。
彼の傍らに置かれた大剣は、紛れもなく四霊聖剣の一つである、地砕剣スモークエイクだ。
シルビアと同じ四霊聖剣使い、まさかリタの弟がそれだったなんて……
彼の戦いは一度も見た事が無いけれど、実力はルカと同等ぐらいに見受けられる。
逆に実力不足のメンバーを強いて挙げるならば、シャロぐらいだろうか。
彼女の力は確かに強力で、あのバフォメットですらも力負けさせる程だったけれど、問題は魔法が殆ど使えない事だ。
そもそも魔力が無い状態で、どうアイネクレストの魔法を発動しているのか謎ではあるけれど、彼女が扱えるのはプロミネンスという防御型の魔法である。
攻撃は盾で殴るスタイルを主にしているが、物理だけではどうしても魔法攻撃には劣ってしまう。
だからシャロは、私が鍛える。
「そしてベリィさん、君にしか出来ない頼みがあります」
不意にルークから名前を呼ばれた事に、私は少し驚いた。
そう言えば、まだ私の役割を聞かされていなかったな。
「なに?」
「マレ王国に、この作戦で最高戦力の一人になり得る方がいます。ベリィさんには王国まで一緒に来て頂いて、その方の説得に協力して欲しいんです」
最高戦力の一人という事は、余程の実力者なのだろう。
これに私を選んだという事は、実力面だけではなく転移魔法の有無か。
マレ王国まで行き、帰りは転移でこちらまで戻る。
現状それが可能なのは、魔力を無制限に使える私だけだ。
「わかった。その代わり、シャロとウールも一緒で良い?」
私からの提案に、ルークは「わかりました」と言って頷いてくれた。
「それでは、僕からのお話はこれで以上です。続いてヴェロニカ団長、よろしくお願いします」
ルークが椅子に座ると、今度はセシルの右隣に座るヴェロニカが立ち上がる。
「はい、カンパニュラ騎士団のヴェロニカ・グリーンウッドです。私からは作戦決行日と、現時点で決まっているその内容についてご説明させて頂きます。資料の3枚目に書かれておりますので、そちらもご覧ください」
ヴェロニカに言われた通り、手元の資料を一枚捲って目を通す。
「現在、メフィル・ロロとサーナ・キャンベルと居場所は不明なままです。ですが12日後、アイテール帝国首都カエルムの姉妹都市であるアーラにて、創星教の集会が行われることが分かっています。その集会には、メフィル・ロロが女神サーナ・キャンベルを連れて登壇することが分かっております。情報提供者は明かせませんが、これは確実です。場所は創星教アーラ教会、町外れにある古びた教会ですが、その日は多くの信者達が集まります。信者達に被害が出ないよう動く必要がありますが、目標はサーナ・キャンベルの救助及び、メフィル・ロロの拘束です。皆様、何卒よろしくお願い致します」
ヴェロニカの話した内容に、ジェラルドが右手を挙げる。
「情報の出処を明かせないというのは、何か事情がお有りなのですか?」
「皆様を信用していない訳ではないのですが、これは情報をくださった本人の意思です。その方はセシル様も信用しておられるお方です」
「……わかりました、信じましょう」
この情報をカンパニュラに流した人物が誰なのかは分からないけれど、恐らくスパイというやつか。
知恵の眼を持つセシルが信用している人なのだから、問題は無いだろう。
「続いてアイテール帝国への潜入方法ですが、メトゥス大迷宮からの侵入を予定しております。こちら側からアイテール側への移動時間は徒歩で12時間ほどかかる為、作戦前日から移動を開始し、迷宮を出たところで夜を明かします。そこから北の奴隷市場跡地がある廃村を通れば、馬を使い2時間程でアーラに到着できる予定です」
北の奴隷市場……もしかして、あの奴隷市場か?
「あの、ちょっといい?」
私がそう言って手を挙げると、皆がこちらに注目した。
間違いでなければ、北の奴隷市場は私が捕まっていた場所だ。
そこまでなら、私の転移魔法で移動が出来る。
「北の奴隷市場って、アルブ側にある奴隷市場だよね? アイテールが奴隷制度を廃止する直前に事故で閉鎖されたっていう……」
「はい、そうですが……」
「私、アルブを追放された後にそこで数日間捕まっていたの。事故じゃなくて私が壊したし……そこまでなら、みんなを転移魔法で移動させられるよ!」
私の話を聞いた皆の表情から、少しだけ険しさが消えた。
これなら危険な迷宮を通る必要が無くなるし、当日までゆっくりと身体を休められる。
「そうでしたか……! 奴隷市場での日々、お辛かったでしょう。喜ぶべきかは分かりませんが、心より感謝申し上げます」
「ううん、気にしないで。元々私の友達を助ける為に動いてくれてるわけだし、私に出来ることなら何でも協力するから」
ヴェロニカとはあまり話した事が無かったけれど、凛と咲く花のような立ち振る舞いで、とても慈悲深い人だと聞いていた。
本当に、そのイメージ通りの人だ。
「ありがとうございます、ベリィ様。では、私からの説明は以上になります」
そうしてヴェロニカが席に座ると、これまで静かだったセシルが口を開いた。
「ここまでの説明で分からない事がある場合は、後程お願い致します。共有が必要な話が出た場合はその都度ご報告致しますね。それでは、これにて作戦会議を終了致します。本日はお集まり頂き、誠にありがとうございました。皆様、何卒よろしくお願い致します」
セシルが頭を下げると、皆は立ち上がって彼女に深々と礼をした。
無論、私もである。
セシルの人を動かす力は凄い。
隣国の公爵令嬢という立場である事も理由の一つではあるだろうけれど、それにしたってこんな大掛かりな作戦を企ててしまうのだから、彼女は本当の天才だと思う。
会議が終わり、私はシャロとウールを連れて一先ずルークの元に行った。
「急な呼び出しになっちゃってごめんね」
「大丈夫、出発はいつ?」
「明日の昼の便を予定してる。マレ王国までは船で3日程だから、向こうに滞在できる日数は長くても7日間ってところかな。少しは羽を伸ばす時間も作れると思う」
羽を伸ばす、か……
確かに焦っても仕方ないだろう。
折角の観光地だし、やることをやったら少し遊んで行くのも良いかもしれない。
「分かった。よろしくね、ルーク」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ルークは爽やかな笑顔を見せてそう言った。
サーナが今どうなっているのか、その不安は拭えないけれど、今は出来る事をしようと思う。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる