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四霊/百花繚乱花嵐 編

66.冒険者

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「へぇ~、ルカくんって吸血鬼なんだ~! ウチ初めて会ったよ~!」

「ポルカ殿、吸血鬼は絶滅した種族とされていたゆえ、初めて会うのは皆同じだ」

 プラチナランク冒険者であるビートとパーティーを組んだ私達は、馬で現場へと移動している途中に様々な話をしていた。
 中でもルカは、同じギルドで一気にゴールドまで上り詰めた冒険者として話題だったようで、ポルカとビートは目を付けていたらしい。

「はい、以前までは谷底のロスヴァリスに住んでいたのですが、ベリィさん達のおかげで外に出る勇気が出せたんです。それで恩返しがしたくて、ボクに出来ることを探していたら冒険者ギルドを知りました」

「そうだったんだ~! 素敵な出会いがあって良かったね!」

 ルカ・ファーニュ、普段は影魔法の簡易的な幻術で吸血鬼の特徴である尖った耳を隠しており、外見だけではどこからどう見ても人族にしか見えない姿をしている。
 少女のような見た目をしているが実際は男の子で、歳もシャロやシルビアより下に見えて500歳を超えているのだから、時々混乱してしまいそうになる。
 最も、本人は意外と外見相応の言動をしている為、私達も普通に接している。

「でもでも、ベリィ様のパーティーって凄いね! だって吸血鬼くんに聖剣使いちゃんと、超パワーの盾使いちゃん! いいな~、冒険者として将来有望過ぎるって……みんな可愛いし!」

「あ、ありがとう」

 ポルカは可愛い子が好きなのかな?
 確かにシャロもシルビアもルカも整った顔立ちをしているし、私なんかとは違ってキラキラして見える。
 みんなは私を可愛いと言ってくれるけれど、それはこの容姿を褒めているわけではなく、身体が小さいことを小動物を愛でるかのように可愛いと言っているだけに過ぎない。
 別に私自身が可愛くなりたいだなんて思わないけれど、少し悔しい。

「そういえば、シャロちゃんってカンパニュラのギルドではランクどのくらいだったの?」

 確かに、それは聞いたことがなかった。
 そもそも私が冒険者ギルドについて殆ど知らなかったというのもあるけれど、シャロほどの強さであればそれなりに上のランクな気がする。

「アタシはシルバーランクでした~! でも今はあの頃よりずっと強くなれたので、ゴールドでも通用すると思ってます!」

「ええっ!? ウチがシャロちゃんぐらいの頃は、何とかシルバーでやれてたって感じだったんだよね~。このまま行けばウチ普通に追い越されちゃうじゃん! やっぱベリィ様の周りには強い子達が集まるんだ~。応援してるよ、シャロちゃん!」

「はいっ、ありがとうございます!」

 シャロは初めて会った頃から強かったし、それでいて優しかった。
 けれど、今のシャロは当時と比にならないぐらい強くなっている。
 陽光アイネクレストのプロミネンスという魔法……シャロはサーナから魔力が無いと言われたらしいけれど、言われてみれば確かにサーナ自身から魔力を感じたことは一度もない。
 魔力を放っているのは、あくまでアイネクレストの方だ。
 ずっと不思議だったけれど、一体あの盾は何なのだろう?
 仮に神器であるとしても、神器は選ばれた所有者の魔力と繋がらなければ魔法は発動出来ない。
 シャロは魔力が無い状態で、一体どうやってアイネクレストの魔法を使っているのだろうか?

「冒険者か~、あーしも副業でギルド登録しよっかな~。でも自警団忙しいからな~」

「シルビアちゃんなら即ゴールドだね! だって聖剣使いだし! いいな~、ウチも聖剣に選ばれたかったぁ!」

「いや、あーしは聖剣以外の魔法が使えないし、みんなに比べたら全然ダメっす……」

 シルビアの武器はスピードだ。
 初めて会った時はただ速いだけとしか思わなかったけれど、今は剣技も上達して新たな聖剣魔法まで使えるようになっている。
 彼女は自分を過小評価している節があるから、もっと自信を持って欲しい。

「そんな事ないよ! シリウス事件でアンデッドの軍を一瞬で大量に倒してたの、遠くから見てたよ! あの実力はゴールド相当だって!」

「マジすか……なんか照れます……!」

 ポルカはみんなと積極的に会話をしているけれど、ビートはあまり会話の輪には入ってこない。
 一人が好きなのか、人と話すのが苦手なのか……後者だったら、何だか気持ちが分かる。

「着いたぞ、デネブ村だ」

 不意にビートはそう言って馬を止める。
 シリウスとデネブ村は然程離れておらず、休憩を含めた5時間程の移動で着くことが出来た。
 陽は既に傾き始めているけれど、魔物は夜のほうが動き出しやすいから寧ろ好都合だ。
 今回ビートが引き受けたという依頼は、このデネブ村に憑く魔物の討伐である。
 憑き始めたのは最近らしいけれど、既に多くの犠牲者が出たと聞いた。
 ふと、私はベガ村に憑いていたホーンスパイダーのことを思い出す。
 あのホーンスパイダーは然程強くない個体だったし、私のツノに怯んでくれたから簡単に倒すことが出来たけれど、上位の魔物を討伐するのは本来難しいことだ。
 これはポルカが教えてくれた事だけれど、上位の魔物を討伐する為にはプラチナランクの実力が最低条件らしい。
 それに今回は群れでいるようだから、たとえプラチナランクであっても厳しい戦いになるはずだ。
 それをビートは一人でやろうとしていたのだから、やはり余程の実力者なのだろう。

「ここからは二手に分かれよう。小生とシルビア殿とルカ殿は、村人への聞き込みを行う。ポルカ殿とシャロ殿、そしてベリィ殿には魔物の痕跡を探し、見つけ次第こちらに念話で知らせて頂きたい」

「おっけー! じゃあ行こっか、シャロちゃんベリィ様!」

「はい!」
「うん」

 そうして私達は、一先ず村はずれの森の中を調べる事にした。
 ホーンスパイダーの時もそうだったけれど、村に憑いた魔物は大体この辺に身を潜めている事が多い。

 案の定、痕跡は直ぐに見つかった。
 
「ポルカ、シャロ、これって……」

 私は複数の大木に付けられた爪痕と、その地面にある足跡を二人に見せる。
 大木のほうは鋭い爪で付けられたものだが、足跡はどうやらひづめのようだ。

「馬の蹄にしては大きいね~、それにこの爪痕は猛獣っぽいし。あと……さっきからプンプン臭ってくるんだよね~、すごい獣臭」

 私も、おそらくシャロも感じていた。
 最初はうっすらとだったその臭いは、段々と強くなってくる。

「テレパス」

 ポルカはビートに魔物の気配があると念話を飛ばし、腰に携えていたワンドを手に持って構えた。
 そういえばポルカの得意魔法を詳しく聞いていなかったけれど、魔法がメインなのだろうか?

「臭い隠し切れてないよ~! マジでバレバレ!」

 ポルカが大きな声で言うと、隠れるのを諦めたのかドスドスと大きな足音を立てながら複数の魔物達がこちらへと歩いてきた。
 魔物の正体はバフォメット。
 大型でヤギによく似た頭を持つ魔物で、ホーンスパイダーよりも強い上に人語も話せると聞いた事がある。
 それが今、私達の前に5体いるのだ。

「村に冒険者が入ってきたかと思えば、テメェは違うようだなぁ? 何モンだ?」

 バフォメットの一体は、私に向かってそう訊ねている。
 私は頭に被っていたフードを脱ぎ、バフォメット達にツノを見せた。

「一応、私も冒険者見習いなんだよ?」

「なっ! テメェそのツノは何だ!? まさか……」

「魔王の娘だけど、何か文句ある?」

 私はロードカリバーを構え、全身に魔力を巡らせた。

「お、おい……やべえぞ、逃げるか?」

「馬鹿野郎、魔王の娘ってまだガキだぞ! それに相手は女だけだ!」

「そうだぜ、親分の手間取らせる前に倒さねえと!」

 バフォメット達がそんな事を話しているけれど、この村に憑いている魔物は連中で間違いない。
 親玉の話をしているから、どこかに親玉も隠れているのだろう。

 先ずはコイツらを倒して、情報を聞き出す!

「統べろ、覇黒剣ロードカリバー!」

 一体だけ生き残らせれば良い。
 先ずは敵の戦力を削ぐ為に、一体ずつ確実に仕留めていく。
 相手がどれほどの強さなのかまだハッキリしないから、一度こちらから様子見の先制攻撃を行う。

「ヘルスワンプ!」

 ロードカリバーの上位闇魔法で、バフォメット達の足元に血溜まりの底なし沼を作り出す。

「グラビロウル!」

 更に上から重力をかけ、バフォメット達は血の沼へと沈んで行く。

「くそっ、抜け出せ!」

 やっぱり、前よりはコツを掴んだけれど、今の威力でも100%には程遠い。
 重力に逆らいながら血の沼から抜け出したバフォメット達は、それぞれ斧や剣を持ってこちらへと向かってくる。

「ベリィ様、複数の魔法が同時に使えるんだ。流石は魔王様って感じだね! よし、そしたら2体はウチが相手するから、ベリィ様はそっちの2体をお願い! シャロちゃんはその一体をお願いできる?」

「わかった!」

「頑張りますっ!」

 シャロ、バフォメットなんて上位の魔物を相手に勝てるだろうか?
 今の彼女はゴールドランク並の実力があるかもしれないとは言え、バフォメットと戦える最低条件はプラチナランクだ。
 普通に考えれば難しいけれど、恐らくシャロはバフォメットよりも……

「おらぁ!」

 振り下ろされたバフォメットの斧を、シャロはアイネクレストで受け止める。
 ここで往なさない辺り、シャロの脳筋は相変わらずだ。

「なっ、オレの斧を受け止めた!?」

「受け止めちゃった! 照らせ、陽光アイネクレスト!」

 アイネクレストから目映い光が放たれた後、間髪入れずにシャロがバフォメットを押しのけ、脚に力を入れて飛び上がるとバフォメットの顔面に盾を叩きつけた。

「ぶごっ!?」

 強い力で顔面を殴打されたバフォメットは、白目を剥き出してその場に倒れ込んだ。

 思った通り、シャロの怪力はバフォメットを超えている。

「シャロちゃんヤバすぎ! ウチも頑張らなきゃ!」

 そう言うポルカも、先程から何か靄のような魔法をワンドから出しながら2体のバフォメット達を翻弄している。
 ポルカに攻撃が当たっていないように見えるのは、確かに気のせいでは無いはずだ。

「テメェ、さっきから防御ばっかしてやがるな!?」

「まあまあ、ちょっとシャロちゃんの戦闘が見たかったからさ~。んじゃ、そろそろウチも戦おっかな~」

 次にバフォメットの剣がポルカに当たった時、剣は彼女の手前で何かに弾かれたように見えた。
 重力や空間魔法による結界ではない。
 これは……念力?

「サイコプロージョン!」

 次の瞬間、バフォメットの懐に入ったポルカがその顔に手を近付けると、激しい衝撃音と共に見えない何かの爆発が起きた。
 それはバフォメットの首が飛ぶ程の威力で、攻撃を当てられたほうは首を無くしたままその場に倒れ込む。

「ひぃっ……」

 それに怯えたもう一体のバフォメットにも、彼女は続けてその両手を翳す。

「サイコツイスト」

 バフォメットの身体はぐりぐりと徐々に捻れていくが、それに耐えているのか必死でポルカへと手を伸ばしているように見える。

「照らせ、陽光アイネクレスト!」

 そこでシャロがアイネクレストを発光させ、その光でバフォメットが怯んだところをポルカが拘束した。

「シャロちゃんナイス! ありがとう!」
「えへへ~!」

 あとは私の元にいる2体のみ。
 みんなが強くなっているんだから、私も負けていられない。
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