魔王の娘は勇者になりたい。

井守まひろ

文字の大きさ
上 下
71 / 137
明星/カラスの北斗七星 編

55.明けの明星

しおりを挟む
 物凄い威圧感だった……
 ベリィちゃんのツノとは比べものにならないぐらい、本当に恐ろしかった。
 あれが魔王なんだ……シリウス事件のとき、ベリィちゃんはあのレベルの相手と戦っていたんだ。
 自分のお父さんとは言っても、最強と呼ばれる存在の本気と……

「あの、シャロ……助けてくれたのは嬉しいんだけど、そろそろ下ろしてもらえると……」

「あっ、ごめんシルビアちゃん!」

 吹き飛ばされたとき、落下前にシルビアちゃんを抱きかかえて着地したんだった。
 アタシはシルビアちゃんを下ろすと、改めて周囲を見回してみる。

 町外れまで飛ばされてしまったらしい。
 こっちには魔物達が来ていないけれど、早く戻って応戦しないと住民の人達に被害が出るかもしれない。

 そうしたいのに、出来ない理由がアタシ達の前に立っていた。

「シャーロット……ヒル、アンタのことは、アタシが殺す……!」

 サーナちゃん……飛ばされたときに頭を打ったのか、額から赤い血が伝っている。
 本当は戦いたくないけれど、やるしかないんだ。
 今のサーナちゃんと向き合うには、これしか……

「アタシは殺されないよ、サーナちゃん。お世話になった人達を置いて死ねるほど、アタシは薄情じゃないんだよ……!」

 またアタシの言葉に怒ったのか、サーナちゃんが舌打ちをした。

 ベリィちゃんから聞いた、リタさんの過去。
 そのお話に出てきた女神教と、ブライトさんが引き継いで名前を変えた創星教。

 かつてこの星に降り立ち、その魔法で世界に改変を齎した女神の伝説は、昔話にもなっている。
 ベリィちゃんは勿論、アタシだっておばあちゃんにその本を読んでもらったことがあるし、きっと殆どの人達がその物語を知っていると思う。

 本の題名は“明けの明星みょうじょう”だった。

 そこに登場する女神の名前はルシファー。
 星に降り立った時、自身の膨大過ぎる魔力で世界の一部を大きく改変してしまい、それによって誕生したのが魔族と魔物だと言われている。
 力を得た魔族は女神を信仰し、魔物達は女神に忠実であった為、人々も次第にその生活に慣れていった。
 そうして女神は人間との間に二人の子供を作り、半神である二人の名前はアラディアとヘロディス。
 娘であるアラディアは現在の魔王の始祖となり、息子であるヘロディスは世界の均衡を保つ為に聖剣の鍛治師になった。

 明けの明星の物語は、大体こんなお話だった気がする。

 これは別のお話になっちゃうけれど、ルシファーの死後に増え過ぎた魔物は独自の進化を遂げて人々の生活を脅かす存在になったり、アラディアが魔族との間に子供を作ってその子が初代魔王になったりもしている。
 そうしてその何代か後の魔王が重い罪を犯して、それに怒ったヘロディスが魔王の一族に恐怖と嫌悪の象徴であるツノを、人族には魔王の暴走を止める為の光竜剣ルミナセイバーを託した。

 今日の昼間、ベリィちゃんとこの話になってから、アタシに教えてくれたことがある。

「サーナは、ルシュフ公爵の本当の子供じゃないって言っていたの。奴の使う魔法のことも、どうしてブライトが奴を誘拐したのかも、全部が繋がった。たぶん……いや、間違いなく……サーナは女神ルシファーと同一の存在なんだよ」

 未だに信じられないし、もしそうだとしても女神ルシファーが生き返ってサーナちゃんになったというのは納得ができない。
 圧倒的に格下のアタシが言うのも何だけど、サーナちゃんの強さはベリィちゃんと同じか少し下ぐらいだから、世界を改変できるほどの力があるとは思えない。
 だから、きっと生き返ったわけじゃない。
 何か別の方法で、サーナちゃんは女神としてこの星に現れたんだ。

「シャロ、どうするよ? あの子マジでやる気だよ」

 隣のシルビアちゃんが、少し不安げな表情でアタシにそう言った。

「うん、死なないように頑張ろうね、シルビアちゃん!」

「お、おう……よし、吹き飛ばせ、疾双剣ヒスイ!」

 アタシはアイネクレストを、シルビアちゃんは二刀のヒスイを構えてサーナちゃんと対峙した。

「いいよ、二人まとめて殺してやるよ。下等種族共!」

 直後、サーナちゃんが持つ黒星剣ホロクロウズの刃が迫る。
 アタシはアイネクレストをぐっと持ち、その攻撃を迎え撃つ体勢を取った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

森にポイ捨てられた侯爵貴族の子は、魔導の知識を得る ~悪い転生者が世界にのさばっている?じゃあ、お掃除します!~

juice
ファンタジー
6歳で理由もわからず森に捨てられたシアは、洞窟の中でしゃべる魔導書と出会った。 どうやら数千人もの転生者が、国を乗っ取って世界で悪さをしているから、どうにかしたいと言われた。 しかし、魔導書から授かったのは、ファンタジーな魔法ではなく、陣を書いて生き物を捧げる、ガチの魔導知識だった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

処理中です...