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明星/カラスの北斗七星 編
38.死の国へ
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アンタレスの獣事件が終息してから三日後。
私達は十分に体を休めて、今日から始まる新しい旅に備えていた。
自警団にリタとウルフが不在の今、シルビアは残った方がいいのではないかという話も出たけれど、結局行かせてもらえることになったらしい。
私は収納魔法で空間の収納を開き、その中から小さな陶器の入れ物を取り出した。
この中には、あの日リリアンから分離したケルベロスの霊魂が入っている。
谷底の国、ロスヴァリス。
かつては魔物と人族が共に仲良く暮らしており、中でもケルベロスはロスヴァリスの番犬とも呼ばれるほどに強く、国を象徴する存在だったと言われている。
噂では、既に絶滅した種族である吸血鬼の生き残りが移り住んだなんて話もあるけれど、それはもうずっと昔のことだ。
ロスヴァリスは、100年前に過疎化が原因で滅んでいる。
今では渓谷の魔物だけが棲みついており、危険な場所であるという事と滅んでしまった背景から、死の国なんて呼ばれたりもしている国だ。
そんな場所へ、私たちはこの子の魂を返しに行く。
危険な場所だから、初めは私とルーナだけで行こうかとも思ったけれど、シャロ曰く
「アタシたちは勇者パーティーなんだから、一緒に旅しなきゃだめだよ!」
だそうだ。
確かに、勇者になりたいと言い出したのは私だけれど、どちらかといえば勇者ではなく魔王パーティーではないだろうか?
兎に角、危険な場所であるということには変わりないし、気を引き締めて向かおう。
それに、ロスヴァリスへ行くには巨大樹の下に広がるアルボス迷宮を通らなければならない。
然程長い距離を通るわけではないけれど、迷宮には沢山の魔物がいるし、今回の旅はこれまで以上に危険が伴うだろう。
「ベリィちゃーん、ごはん出来たよー!」
「はーい」
シャロから呼ばれてダイニングにやって来ると、彼女の作った美味しそうな朝食が用意されていた。
椅子には眠たそうな顔のシルビアも座っており、とてもこれから危険な旅をするようには見えない。
それから3人で楽しく朝食を食べ、あらかじめ纏めてあった荷物に不備がないかを確かめると、私達は自警団でエドガー達に挨拶を済ませてからシリウスを出発した。
ここから巨大樹まで、馬を使っても最低6日はかかる。
おまけに巨大樹の周辺はジャングル地帯となっており、どちらかと言えば迷宮よりもこちらのほうが生息している魔物が強い為、出来るだけ体力は温存しておきたい。
そこで、出発地点を変えることにした。
確かにシリウスからでは最低5日かかるけれど、おおよそ中間地点のカンパニュラ公国からでは2日ほどで着く。
カンパニュラまでは、私の転移魔法で行ける。
そうして私達はカンパニュラまで転移し、そこから馬に乗って巨大樹を目指し始めた。
正直、ナイトリオンだけのスピードなら丸一日もあれば余裕で着くけれど、私と一緒に乗っているシャロはともかく、シルビアの馬は魔物でもない普通の馬だ。
置いていくわけにもいかないので、速度は彼女の馬に合わせて移動している。
「山道移動すんの大変だな~と思ってたけど、お花めっちゃ綺麗だし良い匂いするし、なんか気持ち良いね~」
シルビアの言う通り、ここはフロース山というカンパニュラ公国に属している山で、不思議なことに一年中花が咲いているため麓は観光名所にもなっているらしい。
カンパニュラ公国の8割はフロース山が占めており、この山を越えるだけでも休憩なしで半日以上かかるほどに大きい。
世界にはもっと大きな山があるけれど、ここは気候も良いし登山を楽しむにはちょうど良いのかもしれない。
ちなみに、アルブ王国にはモルス山と呼ばれる大きな山があって、そこは魔物すら住めないほどに過酷な環境だ。
一度だけお父様が調査の為に登ろうとしたことがあったそうだけど、あまりの寒さに直ぐ断念したらしい。
「フロース山はちっちゃい頃に、よく家族で遊びに来てたな~。山を越えたことはないけど、この向こう側はジャングルになってるんだって」
「この山で遊んでる幼少期のシャロを想像したらめっちゃ可愛いじゃん……」
「ええっ!? まあ、ちっちゃい頃のアタシ可愛かったからね!」
シルビアの言葉に、シャロは少し照れながらそう答える。
確かに可愛過ぎるし、シャロは今でも可愛い。
美しい花々に囲まれた山中に魔物はおらず、花の蜜を求めてミツバチ達が辺りを飛んでいる。
そういえば、カンパニュラは養蜂も盛んらしい。
今度はもっとゆっくり、三人でカンパニュラを観光したいな。
陽が傾き始めた頃、私達は既に山に降り始めており、今日はこの辺りで野宿をようということになった。
この先のウィリディスというジャングル地帯からは、危険な場所や魔物が多くなってくる。
今のうちに身体を休めて、明日に備えておくとしよう。
私達は十分に体を休めて、今日から始まる新しい旅に備えていた。
自警団にリタとウルフが不在の今、シルビアは残った方がいいのではないかという話も出たけれど、結局行かせてもらえることになったらしい。
私は収納魔法で空間の収納を開き、その中から小さな陶器の入れ物を取り出した。
この中には、あの日リリアンから分離したケルベロスの霊魂が入っている。
谷底の国、ロスヴァリス。
かつては魔物と人族が共に仲良く暮らしており、中でもケルベロスはロスヴァリスの番犬とも呼ばれるほどに強く、国を象徴する存在だったと言われている。
噂では、既に絶滅した種族である吸血鬼の生き残りが移り住んだなんて話もあるけれど、それはもうずっと昔のことだ。
ロスヴァリスは、100年前に過疎化が原因で滅んでいる。
今では渓谷の魔物だけが棲みついており、危険な場所であるという事と滅んでしまった背景から、死の国なんて呼ばれたりもしている国だ。
そんな場所へ、私たちはこの子の魂を返しに行く。
危険な場所だから、初めは私とルーナだけで行こうかとも思ったけれど、シャロ曰く
「アタシたちは勇者パーティーなんだから、一緒に旅しなきゃだめだよ!」
だそうだ。
確かに、勇者になりたいと言い出したのは私だけれど、どちらかといえば勇者ではなく魔王パーティーではないだろうか?
兎に角、危険な場所であるということには変わりないし、気を引き締めて向かおう。
それに、ロスヴァリスへ行くには巨大樹の下に広がるアルボス迷宮を通らなければならない。
然程長い距離を通るわけではないけれど、迷宮には沢山の魔物がいるし、今回の旅はこれまで以上に危険が伴うだろう。
「ベリィちゃーん、ごはん出来たよー!」
「はーい」
シャロから呼ばれてダイニングにやって来ると、彼女の作った美味しそうな朝食が用意されていた。
椅子には眠たそうな顔のシルビアも座っており、とてもこれから危険な旅をするようには見えない。
それから3人で楽しく朝食を食べ、あらかじめ纏めてあった荷物に不備がないかを確かめると、私達は自警団でエドガー達に挨拶を済ませてからシリウスを出発した。
ここから巨大樹まで、馬を使っても最低6日はかかる。
おまけに巨大樹の周辺はジャングル地帯となっており、どちらかと言えば迷宮よりもこちらのほうが生息している魔物が強い為、出来るだけ体力は温存しておきたい。
そこで、出発地点を変えることにした。
確かにシリウスからでは最低5日かかるけれど、おおよそ中間地点のカンパニュラ公国からでは2日ほどで着く。
カンパニュラまでは、私の転移魔法で行ける。
そうして私達はカンパニュラまで転移し、そこから馬に乗って巨大樹を目指し始めた。
正直、ナイトリオンだけのスピードなら丸一日もあれば余裕で着くけれど、私と一緒に乗っているシャロはともかく、シルビアの馬は魔物でもない普通の馬だ。
置いていくわけにもいかないので、速度は彼女の馬に合わせて移動している。
「山道移動すんの大変だな~と思ってたけど、お花めっちゃ綺麗だし良い匂いするし、なんか気持ち良いね~」
シルビアの言う通り、ここはフロース山というカンパニュラ公国に属している山で、不思議なことに一年中花が咲いているため麓は観光名所にもなっているらしい。
カンパニュラ公国の8割はフロース山が占めており、この山を越えるだけでも休憩なしで半日以上かかるほどに大きい。
世界にはもっと大きな山があるけれど、ここは気候も良いし登山を楽しむにはちょうど良いのかもしれない。
ちなみに、アルブ王国にはモルス山と呼ばれる大きな山があって、そこは魔物すら住めないほどに過酷な環境だ。
一度だけお父様が調査の為に登ろうとしたことがあったそうだけど、あまりの寒さに直ぐ断念したらしい。
「フロース山はちっちゃい頃に、よく家族で遊びに来てたな~。山を越えたことはないけど、この向こう側はジャングルになってるんだって」
「この山で遊んでる幼少期のシャロを想像したらめっちゃ可愛いじゃん……」
「ええっ!? まあ、ちっちゃい頃のアタシ可愛かったからね!」
シルビアの言葉に、シャロは少し照れながらそう答える。
確かに可愛過ぎるし、シャロは今でも可愛い。
美しい花々に囲まれた山中に魔物はおらず、花の蜜を求めてミツバチ達が辺りを飛んでいる。
そういえば、カンパニュラは養蜂も盛んらしい。
今度はもっとゆっくり、三人でカンパニュラを観光したいな。
陽が傾き始めた頃、私達は既に山に降り始めており、今日はこの辺りで野宿をようということになった。
この先のウィリディスというジャングル地帯からは、危険な場所や魔物が多くなってくる。
今のうちに身体を休めて、明日に備えておくとしよう。
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