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明星/カラスの北斗七星 編
53.ホムンクルス
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そこに立つ存在には、既にブライトの面影など無く、首が3つのワーウルフにも似た怪物だった。
「兄ちゃんと……同じ……」
目を見開いたシルビアがそう呟く。
これが彼女の兄、バーン・フォクシーと同じ怪物だと言うのか……?
「ワタシとケルベロスは相性が良いみたいでねぇ! 今ならこの国ごと破壊出来そうだよ!」
そう言って哄笑するブライトに、直様リタと私か剣を向ける。
「なんで……どうしちゃったんだよ、ブライト……」
リタの声が震えている。
怯えではなく、悲しそうに。
「リタ、そんなに泣いてもワタシは連れ戻せないよ。この戦い、ワタシは勝ちに来ているんだ」
目の前のブライトからは、確かにこれまでとは比にならないほど強い力を感じる。
正直なところ、私でも勝てるかどうか怪しい。
しかしリタならば、先ず負けないのではないだろうか?
そう思えるけれど……上空の法陣が、そんな勝算を掻き消してくる。
「おい、何だアレは! ブライト・ハート・プラネテス、貴様がやったのか!?」
一足遅く到着した聖騎士団の団長、ジェラルド・ローベルクが大きな声でそう叫んだ。
「これはこれは、団長殿。王国に仕えるあなた方には大変申し訳ないが、夜明け迄に国王の首は討ち取らせてもらう」
「貴様……! おい、王城に守備を固めるぞ」
ジェラルドの声が途端に小さくなり、どこか乗り気ではない様子で団員達に指示を出す。
「国王はともかく、アルデバラン王子にもしもの事があってはいかん。王城だけは必ず死守しろ」
なるほど、そういうことか。
聖騎士団が守りたいのは、あくまで王国なのだろう。
今のろくでなしより、その子供である後継を守ろうということは、アルデバラン王子は多少まともな人間ということだろうか?
「おっと、こちらを蔑ろにしてもいいのかな? ワタシ達はこれより、シリウスに数千ものアンデッドと魔物を放つ。仮に城を守れたとしても、避難すら出来ていない民たちはどうする?」
ジェラルドはブライトを睨みつけ、剣を強く握った。
彼は正義感が強そうだし、民を見殺しには出来ないだろう。
私としてはあの国王がどうなろうと知ったことでは無いけれど、仲間の居場所が無くなってしまうのは嫌だ。
その為には、リタにも戦ってもらわないと困る……
城の守りは王国の兵士だけでは確実に足らないし、聖騎士団員の配置は必須だ。
そもそも、ブライトがどのような形で王城に仕掛けてくるかなど分かったものではない。
そうしてアンデッドと魔物の相手は、シリウス事件から見てエドガーとジャックだけでは足りないだろう。
けれど、今回こちら側にはルカがいる。
彼の力なら、あの時の戦力をカバーできるかも知れない。
「アストラ聖騎士団、ジェラルド・ローベルク! 私は魔王ローグの娘、ベリィ・アン・バロル! 民は私が守るから、あなたは王城に行ってください!」
私の声を聞いたジェラルドは、少し驚いた様子だったけれど私に剣は向けなかった。
やっぱり、私の存在も知っていたのだろう。
シリウスにこれだけの期間滞在していて、私の存在が公にならなかったのは、恐らくリタという抑止力のおかげである。
何となく、勘付いてはいたんだ。
「魔王の娘殿、貴女には一度この国を救われている。感謝しておこう」
ジェラルドは私にそう言うと、団員達を引き連れて城の方へと向かって行った。
彼等がいれば城は大丈夫だろう。
問題はあの巨大な法陣……仮にお父様の何かだとしたら、私では太刀打ち出来ないと思う。
私は夜空に浮かぶ法陣を睨みつけ、ぐっと剣を構えた。
「おっと、そろそろ準備が整ったようだね。ベリィ・アン・バロル、キミは既に気付いているようだけど、今よりワタシはこの地に魔王ローグを召喚する」
召喚って……何を言っているんだ?
お父様のアンデッドは消滅したはずだし、他にここまでお父様の魔力を発せられる方法なんか存在しないはずだ。
「キミは、ホムンクルスというものを知っているかな?」
ホムンクルス……錬金術によって作られた人工生命体。
実験における成功例は非常に少なく、誕生してもその命は直ぐに尽きてしまうと言われているけれど、ブライトが変身したような怪物まで作り出せてしまうような組織だ。
「まさか……!」
「そう、魔王ローグのDNAとツノの欠片を使い、彼の分身体を錬成することに成功したんだ。ワタシが作り出した魔王は、ワタシの意のままに動いてくれる。そうしてこの複製人工生命体を、我々はこう呼ぶことにした……!」
ふざけている……!
どこまでお父様を……お父様の存在を侮辱すれば気が済むんだ……!
「お前、良い加減にしてよ……これ以上お父様を、利用するなぁぁぁッ!!」
魔法を発動したかどうかは分からないけれど、私はロードカリバーに思いっきり魔力を込めて、ブライトに斬りかかった。
「魔王ローグ・ミメシス」
次の瞬間、法陣が黒い閃光を放ち、鼓膜が破れそうなほどの爆音を立ててそこから何かが地に降り立つ。
その威圧感と衝撃波は凄まじく、私を含めるその場に居たほぼ全員が、爆風によって吹き飛ばされた。
咄嗟にリタのほうを見ると、彼女は俯きながらも衝撃波に耐えてその場に立っている。
届くか分からないけれど、私は彼女に大声で叫んだ。
「リタお願い! 私が行ってもお父様の偽物には勝てない! だからリタ、そっちは任せた!」
今のリタに私から言えることなんて、この程度しか無いと思う。
慰めなんて届かないだろうし、私にはそれを言う余裕もない。
だからせめて、今は私に出来ることをやろう。
早く市街地に戻って、逃げ遅れている民たちを守るんだ。
「兄ちゃんと……同じ……」
目を見開いたシルビアがそう呟く。
これが彼女の兄、バーン・フォクシーと同じ怪物だと言うのか……?
「ワタシとケルベロスは相性が良いみたいでねぇ! 今ならこの国ごと破壊出来そうだよ!」
そう言って哄笑するブライトに、直様リタと私か剣を向ける。
「なんで……どうしちゃったんだよ、ブライト……」
リタの声が震えている。
怯えではなく、悲しそうに。
「リタ、そんなに泣いてもワタシは連れ戻せないよ。この戦い、ワタシは勝ちに来ているんだ」
目の前のブライトからは、確かにこれまでとは比にならないほど強い力を感じる。
正直なところ、私でも勝てるかどうか怪しい。
しかしリタならば、先ず負けないのではないだろうか?
そう思えるけれど……上空の法陣が、そんな勝算を掻き消してくる。
「おい、何だアレは! ブライト・ハート・プラネテス、貴様がやったのか!?」
一足遅く到着した聖騎士団の団長、ジェラルド・ローベルクが大きな声でそう叫んだ。
「これはこれは、団長殿。王国に仕えるあなた方には大変申し訳ないが、夜明け迄に国王の首は討ち取らせてもらう」
「貴様……! おい、王城に守備を固めるぞ」
ジェラルドの声が途端に小さくなり、どこか乗り気ではない様子で団員達に指示を出す。
「国王はともかく、アルデバラン王子にもしもの事があってはいかん。王城だけは必ず死守しろ」
なるほど、そういうことか。
聖騎士団が守りたいのは、あくまで王国なのだろう。
今のろくでなしより、その子供である後継を守ろうということは、アルデバラン王子は多少まともな人間ということだろうか?
「おっと、こちらを蔑ろにしてもいいのかな? ワタシ達はこれより、シリウスに数千ものアンデッドと魔物を放つ。仮に城を守れたとしても、避難すら出来ていない民たちはどうする?」
ジェラルドはブライトを睨みつけ、剣を強く握った。
彼は正義感が強そうだし、民を見殺しには出来ないだろう。
私としてはあの国王がどうなろうと知ったことでは無いけれど、仲間の居場所が無くなってしまうのは嫌だ。
その為には、リタにも戦ってもらわないと困る……
城の守りは王国の兵士だけでは確実に足らないし、聖騎士団員の配置は必須だ。
そもそも、ブライトがどのような形で王城に仕掛けてくるかなど分かったものではない。
そうしてアンデッドと魔物の相手は、シリウス事件から見てエドガーとジャックだけでは足りないだろう。
けれど、今回こちら側にはルカがいる。
彼の力なら、あの時の戦力をカバーできるかも知れない。
「アストラ聖騎士団、ジェラルド・ローベルク! 私は魔王ローグの娘、ベリィ・アン・バロル! 民は私が守るから、あなたは王城に行ってください!」
私の声を聞いたジェラルドは、少し驚いた様子だったけれど私に剣は向けなかった。
やっぱり、私の存在も知っていたのだろう。
シリウスにこれだけの期間滞在していて、私の存在が公にならなかったのは、恐らくリタという抑止力のおかげである。
何となく、勘付いてはいたんだ。
「魔王の娘殿、貴女には一度この国を救われている。感謝しておこう」
ジェラルドは私にそう言うと、団員達を引き連れて城の方へと向かって行った。
彼等がいれば城は大丈夫だろう。
問題はあの巨大な法陣……仮にお父様の何かだとしたら、私では太刀打ち出来ないと思う。
私は夜空に浮かぶ法陣を睨みつけ、ぐっと剣を構えた。
「おっと、そろそろ準備が整ったようだね。ベリィ・アン・バロル、キミは既に気付いているようだけど、今よりワタシはこの地に魔王ローグを召喚する」
召喚って……何を言っているんだ?
お父様のアンデッドは消滅したはずだし、他にここまでお父様の魔力を発せられる方法なんか存在しないはずだ。
「キミは、ホムンクルスというものを知っているかな?」
ホムンクルス……錬金術によって作られた人工生命体。
実験における成功例は非常に少なく、誕生してもその命は直ぐに尽きてしまうと言われているけれど、ブライトが変身したような怪物まで作り出せてしまうような組織だ。
「まさか……!」
「そう、魔王ローグのDNAとツノの欠片を使い、彼の分身体を錬成することに成功したんだ。ワタシが作り出した魔王は、ワタシの意のままに動いてくれる。そうしてこの複製人工生命体を、我々はこう呼ぶことにした……!」
ふざけている……!
どこまでお父様を……お父様の存在を侮辱すれば気が済むんだ……!
「お前、良い加減にしてよ……これ以上お父様を、利用するなぁぁぁッ!!」
魔法を発動したかどうかは分からないけれど、私はロードカリバーに思いっきり魔力を込めて、ブライトに斬りかかった。
「魔王ローグ・ミメシス」
次の瞬間、法陣が黒い閃光を放ち、鼓膜が破れそうなほどの爆音を立ててそこから何かが地に降り立つ。
その威圧感と衝撃波は凄まじく、私を含めるその場に居たほぼ全員が、爆風によって吹き飛ばされた。
咄嗟にリタのほうを見ると、彼女は俯きながらも衝撃波に耐えてその場に立っている。
届くか分からないけれど、私は彼女に大声で叫んだ。
「リタお願い! 私が行ってもお父様の偽物には勝てない! だからリタ、そっちは任せた!」
今のリタに私から言えることなんて、この程度しか無いと思う。
慰めなんて届かないだろうし、私にはそれを言う余裕もない。
だからせめて、今は私に出来ることをやろう。
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