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明星/カラスの北斗七星 編
51.酒と刻星
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「今まで自分がして来たことで多少なりとも目立つものは、やっぱり剣を振ってきたことだけなんだ。あと、出鱈目に酒を飲んできたこと」
そういってまた一杯飲み干すと、リタは深く溜息を吐いた。
彼女の過去を聞き、私は途轍もなくやるせない気持ちになってしまった。
「そもそも、私にはそれしか残っていないからね。でも、最近こう思うようになってきちゃったんだ。自警団のみんなや、ベリィちゃんがいて、今が楽しいな~って」
話の中のリタと今のリタは、別人のようでありながらも、やはりどこか同じものを感じる。
あれ以来、リタはずっと孤独だったのかもしれないけれど、少なくとも私が出会ってからのリタは凄く楽しそうだ。
「私も、リタと一緒だと楽しい」
私からの言葉が思いがけなかったのか、リタは気持ちの悪い笑顔を浮かべる。
「ええっ! ふへへ、ありがと。でも……このままじゃ私、幸せになっちゃうよ……」
「リタは、幸せになりたくないの?」
「う~ん……怖いんだ。もしもこの幸せを、また失くしちゃったらどうしようって……私は、もう何も失いたくないんだ。だから、失って困るものは最初から無くしておきたい。でもさ、それでも、私はみんなが大好き。今の幸せが、ずっとずっと続いてほしい……」
考えてみれば、私も同じ気持ちだった。
アルブに居た頃の幸せを失って、今はシャロ達とまた楽しく暮らせている。
この平穏を失くしたくない。
私はもう幸せになってしまったから、いっそ戦いから逃げ出したいなんて思ってしまっている。
でも……
「私ね、小さい頃に勇者になりたいって言った時、お父様がすごく応援してくれたの。ずっと忘れてたけど、シャロがそれを思い出させてくれた。だから何度逃げ出したくなっても、大切な人達が幸せに暮らせるように私は戦いたい。その中には、勿論リタもいるよ」
「ベリィちゃん……」
「最初は復讐の為に始めた事だったけど、今はこの幸せを守る為に戦いたい。私、そんな勇者になりたいんだ。まあ……まだリタに比べたら私なんか弱いんだけど……」
慣れない事をして、最後が締まらない感じになってしまった。
リタを元気付けようと思ったのに、何だか恥ずかしい。
「そっかぁ、そうだよね。いや、ベリィちゃんは私よりずっと強いよ。過去ばかり見てないで、今の幸せを大事にしないとだね。ありがとう、ベリィちゃん」
「え? いや、私はそんな……」
リタの表情は完全に晴れた訳では無かったけれど、少なくとも前向きな気持ちにはなってくれたらしい。
私もまだ、けじめを付けなきゃいけないことがある。
いつか来る日の為に、もっと強くならなくちゃいけない。
その夜はリタに誘われ、シャロ、シルビア、ルカも連れて、過去の話に出てきた天体観測所に行った。
アストラ王国から見る星空は相変わらず綺麗で、特に街から離れた高台にあるこの場所は、より美しかった。
翌日はリタが昼から用事があると言うので、私はシルビアの家でのんびりと過ごしていた。
シルビアはここ最近、かなり忙しそうにしている。
彼女に与えられた特別任務である、兄を捜索する為の手掛かりを探しているのだ。
創星教絡みの事件が多発して、皆が本来の目的に時間を割けていなかった。
私もそうだったな……
復讐が目的で無いとは言え、やっぱりお父様を暗殺した犯人は突き止めたい。
エドガーの話によれば、犯人は彼の兄であるディアスでは無いと言う。
サーナが嘘をついているのかとも考えたけれど、奴が嘘を言ったようには見えなかった。
だから、きっと奴も誰かから嘘を吹き込まれた可能性が高い。
でも、そんな簡単にお父様を殺せる相手なんて……油断をさせて不意をつける身近な者ぐらいしか……
いや、有り得ない。
あの時はウールとメフィルも居たし、あの2人がそんな下手をする筈がないんだ。
もしかしたら犯人は……お父様よりも強い何かなのかもしれない。
「ねぇ、ルカ」
「はい?」
「世界で最強格の存在って、ルカが知る限り幾つ?」
ルカはずっと谷底の国に居たけれど、少なくとも私よりずっと長生きをしている。
この辺の情報は、意外と詳しいかもしれない。
「う~ん……やっぱり魔王様と魔物の女王、あとはメトゥス大迷宮最下層のアラクネぐらいですかね?」
やっぱり、これに対する答えは大体同じか。
魔物の女王と呼ばれるファラエナ・レギーナという魔物は、大昔から生きていて人前には殆ど姿を見せない。
迷宮のアラクネは、そもそも迷宮から出てこないし、お父様と同格の力を持つ存在が犯人であるという可能性は無さそうだ。
「あ、あとリタさんとかも入るんじゃないですかね? ベリィさんから見て、どう思いますか?」
なるほど、確かにリタは人族最強と呼ばれるだけあって本当に強い。
けれどリタがお父様暗殺の犯人だとは考えられないし、そもそも……
「厳しいんじゃないかな。確かにリタは強いけど、お父様と一対一でやり合えばギリギリ勝てない気がする」
こうなってくると、いよいよ犯人が何者なのか益々分からない。
カンパニュラで保護して貰っているウールが目を覚ませば、きっと犯人が分かるはずなんだ。
やっぱり、それまで待つしか無いのかな……
「ベリィちゃん、どうしたの?」
ふと、家事がひと段落ついたシャロが部屋に入るなり、私が考え込んでいるのを心配したようでそう問いかけてきた。
「あ、大丈夫。お父様を殺した犯人、いよいよ本当に分からなくなってきちゃったなって……」
「そっか~……せめて何があったのかだけでも、ちゃんと分かるといいね……あ、もうアイテール帝国に行って第一王子に直接訊いちゃうとか!?」
「シャロ、それは……名案だね」
正直、ディアス・エヌ・アイテールと直接話してみたい気はする。
実力は私より上の可能性があるし、所有している禁断の神器、虚空剣ヴァニタスも危険なものだから、かなりリスクは大きい。
でも、彼に直接訊くのは一理ある。
「お二人とも……すごく、大胆なんですね……!」
ルカは頬をかきながら、若干引き気味に言った。
となれば、次の目的地はアイテール帝国だろうか?
いや、あの国は危険過ぎる。
もっと強くなって、入念に準備してから行ったほうがいいかもしれない。
あまり良い思い出は無いけれど、アルブ王国とは因縁のある国だ。
この目でその情勢を、しっかりと見ておく必要がある。
そういってまた一杯飲み干すと、リタは深く溜息を吐いた。
彼女の過去を聞き、私は途轍もなくやるせない気持ちになってしまった。
「そもそも、私にはそれしか残っていないからね。でも、最近こう思うようになってきちゃったんだ。自警団のみんなや、ベリィちゃんがいて、今が楽しいな~って」
話の中のリタと今のリタは、別人のようでありながらも、やはりどこか同じものを感じる。
あれ以来、リタはずっと孤独だったのかもしれないけれど、少なくとも私が出会ってからのリタは凄く楽しそうだ。
「私も、リタと一緒だと楽しい」
私からの言葉が思いがけなかったのか、リタは気持ちの悪い笑顔を浮かべる。
「ええっ! ふへへ、ありがと。でも……このままじゃ私、幸せになっちゃうよ……」
「リタは、幸せになりたくないの?」
「う~ん……怖いんだ。もしもこの幸せを、また失くしちゃったらどうしようって……私は、もう何も失いたくないんだ。だから、失って困るものは最初から無くしておきたい。でもさ、それでも、私はみんなが大好き。今の幸せが、ずっとずっと続いてほしい……」
考えてみれば、私も同じ気持ちだった。
アルブに居た頃の幸せを失って、今はシャロ達とまた楽しく暮らせている。
この平穏を失くしたくない。
私はもう幸せになってしまったから、いっそ戦いから逃げ出したいなんて思ってしまっている。
でも……
「私ね、小さい頃に勇者になりたいって言った時、お父様がすごく応援してくれたの。ずっと忘れてたけど、シャロがそれを思い出させてくれた。だから何度逃げ出したくなっても、大切な人達が幸せに暮らせるように私は戦いたい。その中には、勿論リタもいるよ」
「ベリィちゃん……」
「最初は復讐の為に始めた事だったけど、今はこの幸せを守る為に戦いたい。私、そんな勇者になりたいんだ。まあ……まだリタに比べたら私なんか弱いんだけど……」
慣れない事をして、最後が締まらない感じになってしまった。
リタを元気付けようと思ったのに、何だか恥ずかしい。
「そっかぁ、そうだよね。いや、ベリィちゃんは私よりずっと強いよ。過去ばかり見てないで、今の幸せを大事にしないとだね。ありがとう、ベリィちゃん」
「え? いや、私はそんな……」
リタの表情は完全に晴れた訳では無かったけれど、少なくとも前向きな気持ちにはなってくれたらしい。
私もまだ、けじめを付けなきゃいけないことがある。
いつか来る日の為に、もっと強くならなくちゃいけない。
その夜はリタに誘われ、シャロ、シルビア、ルカも連れて、過去の話に出てきた天体観測所に行った。
アストラ王国から見る星空は相変わらず綺麗で、特に街から離れた高台にあるこの場所は、より美しかった。
翌日はリタが昼から用事があると言うので、私はシルビアの家でのんびりと過ごしていた。
シルビアはここ最近、かなり忙しそうにしている。
彼女に与えられた特別任務である、兄を捜索する為の手掛かりを探しているのだ。
創星教絡みの事件が多発して、皆が本来の目的に時間を割けていなかった。
私もそうだったな……
復讐が目的で無いとは言え、やっぱりお父様を暗殺した犯人は突き止めたい。
エドガーの話によれば、犯人は彼の兄であるディアスでは無いと言う。
サーナが嘘をついているのかとも考えたけれど、奴が嘘を言ったようには見えなかった。
だから、きっと奴も誰かから嘘を吹き込まれた可能性が高い。
でも、そんな簡単にお父様を殺せる相手なんて……油断をさせて不意をつける身近な者ぐらいしか……
いや、有り得ない。
あの時はウールとメフィルも居たし、あの2人がそんな下手をする筈がないんだ。
もしかしたら犯人は……お父様よりも強い何かなのかもしれない。
「ねぇ、ルカ」
「はい?」
「世界で最強格の存在って、ルカが知る限り幾つ?」
ルカはずっと谷底の国に居たけれど、少なくとも私よりずっと長生きをしている。
この辺の情報は、意外と詳しいかもしれない。
「う~ん……やっぱり魔王様と魔物の女王、あとはメトゥス大迷宮最下層のアラクネぐらいですかね?」
やっぱり、これに対する答えは大体同じか。
魔物の女王と呼ばれるファラエナ・レギーナという魔物は、大昔から生きていて人前には殆ど姿を見せない。
迷宮のアラクネは、そもそも迷宮から出てこないし、お父様と同格の力を持つ存在が犯人であるという可能性は無さそうだ。
「あ、あとリタさんとかも入るんじゃないですかね? ベリィさんから見て、どう思いますか?」
なるほど、確かにリタは人族最強と呼ばれるだけあって本当に強い。
けれどリタがお父様暗殺の犯人だとは考えられないし、そもそも……
「厳しいんじゃないかな。確かにリタは強いけど、お父様と一対一でやり合えばギリギリ勝てない気がする」
こうなってくると、いよいよ犯人が何者なのか益々分からない。
カンパニュラで保護して貰っているウールが目を覚ませば、きっと犯人が分かるはずなんだ。
やっぱり、それまで待つしか無いのかな……
「ベリィちゃん、どうしたの?」
ふと、家事がひと段落ついたシャロが部屋に入るなり、私が考え込んでいるのを心配したようでそう問いかけてきた。
「あ、大丈夫。お父様を殺した犯人、いよいよ本当に分からなくなってきちゃったなって……」
「そっか~……せめて何があったのかだけでも、ちゃんと分かるといいね……あ、もうアイテール帝国に行って第一王子に直接訊いちゃうとか!?」
「シャロ、それは……名案だね」
正直、ディアス・エヌ・アイテールと直接話してみたい気はする。
実力は私より上の可能性があるし、所有している禁断の神器、虚空剣ヴァニタスも危険なものだから、かなりリスクは大きい。
でも、彼に直接訊くのは一理ある。
「お二人とも……すごく、大胆なんですね……!」
ルカは頬をかきながら、若干引き気味に言った。
となれば、次の目的地はアイテール帝国だろうか?
いや、あの国は危険過ぎる。
もっと強くなって、入念に準備してから行ったほうがいいかもしれない。
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