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明星/カラスの北斗七星 編
50.孤独な星
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あれから私は、ブライトの知り合いの医者に助けてもらい、丸一日休んだだけで全快できた。
女神教代表、オーディー・ムーンチャイルドとの戦いによって、どうやら私は刻星剣ホロクラウスを完全に使いこなせるようになったらしい。
奴の領域内でグランシャリオを使った時、ホロクラウスの魔力を通じて新たな魔法の情報が流れ込んできた。
これが他の聖剣にも存在するのかは定かでは無いけれど、恐らく刻星剣ホロクラウスに刻まれた天体魔法の最終奥義。
まあ、滅多に使う機会も無いかな。
そもそも、これ一撃だけで私の魔力は殆ど空っぽになっちゃう。
魔力の出力を調節して、発動時の魔力ロスをゼロに近い状態まで持っていければ、まあ、自分の重力魔法ぐらいは多少使えると思う。
それ以降、聖剣の資格者として相応しいように……と言うのは建前で、宗教団体を使ってまで私を拉致しようとした糞国王が二度と私に手出し出来ないように、メトゥス大迷宮とかいう超危険な魔物だらけの迷宮に潜り込み、死ぬ気で実戦経験を積んだ。
迷宮は下層へと行けば行く程、あのオーディーの領域内で戦った霧の中の魔物とは比にならないぐらい強い奴もいる。
それらがうじゃうじゃといる中、極力魔法を使わずに剣だけで倒して行く。
そんな事を続けていた訳だし、そもそもシリウスから迷宮までかなりの距離があるから、もう身体はボロボロ。
それでも、これぐらいやらなきゃ強くはなれない。
家族からはめちゃめちゃ心配されたけど、キツくやめろとは言われなかった。
あの頃の私は、かなり気が狂ってしまっていたんだと思う。
母上も父上も、何かを察したのかもしれない。
そんな生活が落ち着いた頃、私は親友の異変に気付いた。
そうだな、これはもう気付いた時には遅かった。
様子のおかしいブライトに、最近顔色が悪いけど大丈夫? と訊ねたんだ。
そしたら、大丈夫だってそれ以上は言ってくれなかった。
それから直ぐのこと、私の刻星剣ホロクラウスが盗まれた。
私は聖剣を肌身離さず持ち歩いていたから、当然学舎にも持ってきていたわけで、私が居眠りでもしている間に持ち出される可能性か十分にある。
けれど、この頃の私は他の生徒からめちゃめちゃ怖がられていた。
誰が流したのか、私がメトゥス大迷宮に入っては傷だらけで帰ってくるという話が学舎で噂になっていた。
本来、メトゥス大迷宮は各国の優秀な騎士団ですら命を落とす危険性のある場所だ。
そんな所に一人で入って、何度も生きて帰ってくる私のことは、もはや単なる化け物としか思えなかったんだろうな。
そんなわけで、他の生徒が私から聖剣を盗むというのは考えにくい。
だって、得体の知れない化け物に殺されたら嫌じゃん。
だからさ、これを盗めるのなんて一人しか居ないんだよ。
「なんで……私のホロクラウスを盗んだの? 何に使ったの?」
俯きながら聖剣を返してきたブライトに、私は少し強い口調で問い詰めた。
「……ごめんなさい」
「謝るだけじゃ分かんないじゃん! ねぇ……ブライトは、何しようとしてるの?」
「……」
凄く不安だった。
これからもずっと親友でいるはずのブライトが、どこか遠くに感じてしまっていた。
「ごめんね、リタ」
そんな声で謝らないでよ……
そんな……苦しそうな声、聞きたくなかった。
結局、ブライトは何も話してくれなかった。
程なくして、ブライトは学舎にも来なくなった。
あんな事があったのに、やっぱり私はブライトのことが大好きだから、あの子が心配で彼女の家に行ったんだ。
そうしたら、もう既に家庭が崩壊していた。
魔導士であるブライトの両親は、廃人のようになってしまっていたんだ。
何とかして事情を聞き出すと、どうやらブライトはあの国王に仕えている両親のことが許せなかったらしくて、女神教の一件から両親に暴力を振るうようになっていたとのこと。
そうして暫くは、家にも帰っていないとの事だった。
どうして、こうなっちゃったんだろうな。
ブライトとはまた会えそうな気がするけれど、何だか会うのが怖いような気がして、私は毎晩一人で泣いていた。
数日後、朦朧とした日々を何となく過ごしていた私は、ふと星が見たくなった。
場所はいつもの天体観測所。
ブライトとは、ここで星を沢山観たな。
ぼーっと星を眺めつつも、私はまた彼女と会える事をどこか期待していた。
もしかしたら、ブライトも此処に来るのではないか?
怖いけれど、またブライトと話がしたい。
今ならまだ、仲直り出来るかもしれない。
そんな淡い期待を、私は今でも持っている。
「やあ、リタ。元気?」
不意に聞こえた声は、間違いなく彼女のものだった。
振り返ると、私服姿で普段と変わらないブライトの姿がある。
少し違ったのは、私の刻星剣ホロクラウスと良く似た黒い剣を持っていたこと。
「ブライト……今までどこに行ってたの!?」
「まあ、色々ね。やらなきゃいけない事が見つかったんだ。この腐りきった世界を変える為に、先ずは今の王政に終止符を打たなければならない」
普段と変わらない、なんて思ったのを撤回した。
ブライトの目は、もう覚悟を決めていたんだ。
「待ってブライト、それ国王を殺すって事?」
これ以上何かを言っても、彼女を止めることは出来ないかもしれない。
それでも……それでも、どうにかしたかった。
「何か問題でもある?」
「駄目に決まってるじゃん。ねえ、一回落ち着いて話そうよ。ブライトが怒る気持ちも分かる。でも、世界を変えたいなら他に方法が……」
「リタはさ、強いからそんな事が言えるんだよ」
「……え?」
ブライトの表情が冷たい。
彼女の私を見る目は、友人に向ける目では無かった。
「今のリタなら、もうアストラ王国を転覆させるぐらいの力はあるんでしょ? だから余裕を持てる。リタがいる限り、たぶん国王は下手な動きが出来ない。でも、それじゃ駄目なんだよ。アイツだけは、殺さなきゃいけないんだ」
頭が真っ白になりかける。
私って今、ブライトからそんなふうに思われてるの?
友達とかじゃなくて、そんな……単なる抑止力みたいな言い方……
涙が、溢れてきてしまった。
「だからワタシは、国王を倒せるだけの戦力を手に入れる。この黒星剣ホロクロウズはその為の……リタ、どうしたの?」
ブライトは話を止めて、泣いている私に問い掛けた。
「ブライト……私たち、友達……だよね?」
暫しの沈黙の後、俯いていたブライトが口を開く。
「そういうのが、鬱陶しいんだよ」
私は、どこで間違えちゃったんだろうな。
その会話以降、去って行くブライトを私は止めることが出来なかった。
悔やんでも悔やみきれない。
私は未だに、ブライトと親友に戻れるんじゃないかと、淡い期待を抱いて日々を過ごしている。
女神教代表、オーディー・ムーンチャイルドとの戦いによって、どうやら私は刻星剣ホロクラウスを完全に使いこなせるようになったらしい。
奴の領域内でグランシャリオを使った時、ホロクラウスの魔力を通じて新たな魔法の情報が流れ込んできた。
これが他の聖剣にも存在するのかは定かでは無いけれど、恐らく刻星剣ホロクラウスに刻まれた天体魔法の最終奥義。
まあ、滅多に使う機会も無いかな。
そもそも、これ一撃だけで私の魔力は殆ど空っぽになっちゃう。
魔力の出力を調節して、発動時の魔力ロスをゼロに近い状態まで持っていければ、まあ、自分の重力魔法ぐらいは多少使えると思う。
それ以降、聖剣の資格者として相応しいように……と言うのは建前で、宗教団体を使ってまで私を拉致しようとした糞国王が二度と私に手出し出来ないように、メトゥス大迷宮とかいう超危険な魔物だらけの迷宮に潜り込み、死ぬ気で実戦経験を積んだ。
迷宮は下層へと行けば行く程、あのオーディーの領域内で戦った霧の中の魔物とは比にならないぐらい強い奴もいる。
それらがうじゃうじゃといる中、極力魔法を使わずに剣だけで倒して行く。
そんな事を続けていた訳だし、そもそもシリウスから迷宮までかなりの距離があるから、もう身体はボロボロ。
それでも、これぐらいやらなきゃ強くはなれない。
家族からはめちゃめちゃ心配されたけど、キツくやめろとは言われなかった。
あの頃の私は、かなり気が狂ってしまっていたんだと思う。
母上も父上も、何かを察したのかもしれない。
そんな生活が落ち着いた頃、私は親友の異変に気付いた。
そうだな、これはもう気付いた時には遅かった。
様子のおかしいブライトに、最近顔色が悪いけど大丈夫? と訊ねたんだ。
そしたら、大丈夫だってそれ以上は言ってくれなかった。
それから直ぐのこと、私の刻星剣ホロクラウスが盗まれた。
私は聖剣を肌身離さず持ち歩いていたから、当然学舎にも持ってきていたわけで、私が居眠りでもしている間に持ち出される可能性か十分にある。
けれど、この頃の私は他の生徒からめちゃめちゃ怖がられていた。
誰が流したのか、私がメトゥス大迷宮に入っては傷だらけで帰ってくるという話が学舎で噂になっていた。
本来、メトゥス大迷宮は各国の優秀な騎士団ですら命を落とす危険性のある場所だ。
そんな所に一人で入って、何度も生きて帰ってくる私のことは、もはや単なる化け物としか思えなかったんだろうな。
そんなわけで、他の生徒が私から聖剣を盗むというのは考えにくい。
だって、得体の知れない化け物に殺されたら嫌じゃん。
だからさ、これを盗めるのなんて一人しか居ないんだよ。
「なんで……私のホロクラウスを盗んだの? 何に使ったの?」
俯きながら聖剣を返してきたブライトに、私は少し強い口調で問い詰めた。
「……ごめんなさい」
「謝るだけじゃ分かんないじゃん! ねぇ……ブライトは、何しようとしてるの?」
「……」
凄く不安だった。
これからもずっと親友でいるはずのブライトが、どこか遠くに感じてしまっていた。
「ごめんね、リタ」
そんな声で謝らないでよ……
そんな……苦しそうな声、聞きたくなかった。
結局、ブライトは何も話してくれなかった。
程なくして、ブライトは学舎にも来なくなった。
あんな事があったのに、やっぱり私はブライトのことが大好きだから、あの子が心配で彼女の家に行ったんだ。
そうしたら、もう既に家庭が崩壊していた。
魔導士であるブライトの両親は、廃人のようになってしまっていたんだ。
何とかして事情を聞き出すと、どうやらブライトはあの国王に仕えている両親のことが許せなかったらしくて、女神教の一件から両親に暴力を振るうようになっていたとのこと。
そうして暫くは、家にも帰っていないとの事だった。
どうして、こうなっちゃったんだろうな。
ブライトとはまた会えそうな気がするけれど、何だか会うのが怖いような気がして、私は毎晩一人で泣いていた。
数日後、朦朧とした日々を何となく過ごしていた私は、ふと星が見たくなった。
場所はいつもの天体観測所。
ブライトとは、ここで星を沢山観たな。
ぼーっと星を眺めつつも、私はまた彼女と会える事をどこか期待していた。
もしかしたら、ブライトも此処に来るのではないか?
怖いけれど、またブライトと話がしたい。
今ならまだ、仲直り出来るかもしれない。
そんな淡い期待を、私は今でも持っている。
「やあ、リタ。元気?」
不意に聞こえた声は、間違いなく彼女のものだった。
振り返ると、私服姿で普段と変わらないブライトの姿がある。
少し違ったのは、私の刻星剣ホロクラウスと良く似た黒い剣を持っていたこと。
「ブライト……今までどこに行ってたの!?」
「まあ、色々ね。やらなきゃいけない事が見つかったんだ。この腐りきった世界を変える為に、先ずは今の王政に終止符を打たなければならない」
普段と変わらない、なんて思ったのを撤回した。
ブライトの目は、もう覚悟を決めていたんだ。
「待ってブライト、それ国王を殺すって事?」
これ以上何かを言っても、彼女を止めることは出来ないかもしれない。
それでも……それでも、どうにかしたかった。
「何か問題でもある?」
「駄目に決まってるじゃん。ねえ、一回落ち着いて話そうよ。ブライトが怒る気持ちも分かる。でも、世界を変えたいなら他に方法が……」
「リタはさ、強いからそんな事が言えるんだよ」
「……え?」
ブライトの表情が冷たい。
彼女の私を見る目は、友人に向ける目では無かった。
「今のリタなら、もうアストラ王国を転覆させるぐらいの力はあるんでしょ? だから余裕を持てる。リタがいる限り、たぶん国王は下手な動きが出来ない。でも、それじゃ駄目なんだよ。アイツだけは、殺さなきゃいけないんだ」
頭が真っ白になりかける。
私って今、ブライトからそんなふうに思われてるの?
友達とかじゃなくて、そんな……単なる抑止力みたいな言い方……
涙が、溢れてきてしまった。
「だからワタシは、国王を倒せるだけの戦力を手に入れる。この黒星剣ホロクロウズはその為の……リタ、どうしたの?」
ブライトは話を止めて、泣いている私に問い掛けた。
「ブライト……私たち、友達……だよね?」
暫しの沈黙の後、俯いていたブライトが口を開く。
「そういうのが、鬱陶しいんだよ」
私は、どこで間違えちゃったんだろうな。
その会話以降、去って行くブライトを私は止めることが出来なかった。
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