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明星/カラスの北斗七星 編
40.ロスヴァリス
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渓谷の国、ロスヴァリス。
既に滅んでいる為、現在では死の国なんて呼ばれたりしているけれど、深い霧に包まれている渓谷は、この世のものとは思えない程に幻想的で美しい。
「ここが……ロバスリス……!」
シャロはその光景に圧倒され、口を半開きにしたまま目の前の景色を眺めている。
名前は惜しかった……ロスヴァリスね。
「この先の洞窟に、以前魔物と人々が暮らしていた町の跡地がある。そっちに行けば、この子の居場所の手掛かりがあるはず」
私は収納からケルベロスの霊魂を収めた陶器の入れ物を取り出し、洞窟に向かって歩き出した。
「見つかるといいよな……」
「あっ、待って二人とも!」
恐らく、この国には今でも魔物が棲みついている。
どの程度の魔物かは分からないけれど、ウィリディスの魔物と同等ぐらいなら問題は無い。
ただ、シャロと出会った時に戦ったホーンスパイダー並の魔物が沢山いた場合、二人を守りながら戦うのは厳しいかもしれない。
とは言え、ここはかつて人と魔物が友好的な関係を築いていた国であり、他の場所に生息している魔物と比べて温厚な性格であるという可能性もある。
そうなった場合、このツノで威圧感を与えてしまうのは逆効果だ。
念の為、フードを被っておこう。
洞窟の中に入って少し進むと、突然視界が開けて辺りが明るくなった。
上を見上げると、中心部あたりに光源が見える。
詳しい事は分からないけれど、強い光を放つ鉱石のようなものだろう。
おかげで、洞窟の中は火が無くても多少明るくなっている。
洞窟内には、おそらく過去に使われていたであろう民家の跡地が点々と残っていた。
その殆どは倒壊しているけれど、100年放置されたにしては多少状態が良いようにも見える。
そして洞窟の中だというのに、地上では見ない植物が沢山あった。
その植物達は自ら発光しているようで、キラキラとした不思議な粒子を出しながら揺れている。
「死の国って呼ばれてたから、どんな怖い場所なのかと思ってたけど、なんかめっちゃ幻想的で綺麗だな~。思ったより平和そうだし」
「うん、そうだね」
シルビアの言う通り、洞窟内の倒壊した民家の瓦礫や背の高い植物の裏から、こちらをじっと見ている気配が幾つかある。
恐らく、ここに棲む魔物達だろう。
直ぐに襲ってこないあたり、警戒しているのか?
「キュッキュ、キュキュキュイキュイキュイ! キュキュウキュイ、キュイキュキュイ!」
私の頭とフードの間からひょっこりと顔を出したルーナが、気配に向けて何かを言っている。
たぶんこれは、私たちは敵じゃないという和解の言葉。
すると、隠れていた魔物達がゆっくりと姿を現し、私達の元までやってきた。
「ベ、ベリィちゃん……これ、大丈夫かな?」
「たぶん、大丈夫」
見たところ魔物はコボルト達のようで、犬のような頭と小柄な身体をしている。
また、寄ってきた魔物達からは敵意を感じる事がなく、武器を持たないまま私達の前まで来ると、その場に座ってみせた。
「キュイキュキュキュイッキュキュキュイ、キュキュキュイキュイ」
ルーナがコボルト達に指示のようなものを出すと、コボルト達は一斉に頭を下げ、何を言っているのか分からない不思議な言葉を発した。
「ルーナ、もしかして今この子達に、頭を垂れて蹲え。みたいなこと言った?」
「キュイ! キュイキュイキュイキュイ!」
「ああ、私が魔王だから頭が高いぞって伝えたかったのね。通訳ありがとう。よく分からないけど」
どうやら、ルーナはコボルト達に自分達との上下関係を分からせたらしい。
その後、ルーナはコボルト達と何かを話しており、暫くしてから私にその内容をジェスチャーも使って伝え始めた。
何となく理解出来たので、自分の頭の中でざっくりと整理してみる。
私たちがここへ来る前、一人の人間と数体の魔物を引き連れた魔族がやってきた。
奴らは祭壇に祀られた大切なものを奪いに来たようだったが、魔物達のボスがそれを迎え撃とうとした。
結果はボスの力では敵わず、祭壇の大切なものは盗られてしまったらしい。
一人の人間と魔物使いの魔族、間違いなくブライトとフルーレだ。
そうして祭壇に祀られた大切なものとは、このケルベロスの魂。
やはり、ブライトはロスヴァリスからこの子の魂を持ち出していたんだ。
そうと分かれば話が早い。
コボルト達に祭壇まで案内してもらい、この子を返せば良いだけだ。
「ルーナ、コボルト達に祭壇までの道案内をお願いしてもらえる?」
「キュイ!」
そうすると、ルーナは再びコボルト達と話し始める。
会話が終わると、ルーナは私の方に向き直って首を横に振って見せた。
ルーナ曰く、どうやらコボルト達はこの場から離れることができないらしい。
何でも、ボスから今はそうするようにと指示を出されているのだとか。
しかし、代わりにコボルト達はルーナに祭壇への行き方を伝えてくれたようだった。
ルーナは自信満々で「キュイ!」と鳴き、私達を先導するように歩き始める。
「えっと、ありがとう」
私はコボルトに礼を言い、三人でルーナの後を追いかけた。
既に滅んでいる為、現在では死の国なんて呼ばれたりしているけれど、深い霧に包まれている渓谷は、この世のものとは思えない程に幻想的で美しい。
「ここが……ロバスリス……!」
シャロはその光景に圧倒され、口を半開きにしたまま目の前の景色を眺めている。
名前は惜しかった……ロスヴァリスね。
「この先の洞窟に、以前魔物と人々が暮らしていた町の跡地がある。そっちに行けば、この子の居場所の手掛かりがあるはず」
私は収納からケルベロスの霊魂を収めた陶器の入れ物を取り出し、洞窟に向かって歩き出した。
「見つかるといいよな……」
「あっ、待って二人とも!」
恐らく、この国には今でも魔物が棲みついている。
どの程度の魔物かは分からないけれど、ウィリディスの魔物と同等ぐらいなら問題は無い。
ただ、シャロと出会った時に戦ったホーンスパイダー並の魔物が沢山いた場合、二人を守りながら戦うのは厳しいかもしれない。
とは言え、ここはかつて人と魔物が友好的な関係を築いていた国であり、他の場所に生息している魔物と比べて温厚な性格であるという可能性もある。
そうなった場合、このツノで威圧感を与えてしまうのは逆効果だ。
念の為、フードを被っておこう。
洞窟の中に入って少し進むと、突然視界が開けて辺りが明るくなった。
上を見上げると、中心部あたりに光源が見える。
詳しい事は分からないけれど、強い光を放つ鉱石のようなものだろう。
おかげで、洞窟の中は火が無くても多少明るくなっている。
洞窟内には、おそらく過去に使われていたであろう民家の跡地が点々と残っていた。
その殆どは倒壊しているけれど、100年放置されたにしては多少状態が良いようにも見える。
そして洞窟の中だというのに、地上では見ない植物が沢山あった。
その植物達は自ら発光しているようで、キラキラとした不思議な粒子を出しながら揺れている。
「死の国って呼ばれてたから、どんな怖い場所なのかと思ってたけど、なんかめっちゃ幻想的で綺麗だな~。思ったより平和そうだし」
「うん、そうだね」
シルビアの言う通り、洞窟内の倒壊した民家の瓦礫や背の高い植物の裏から、こちらをじっと見ている気配が幾つかある。
恐らく、ここに棲む魔物達だろう。
直ぐに襲ってこないあたり、警戒しているのか?
「キュッキュ、キュキュキュイキュイキュイ! キュキュウキュイ、キュイキュキュイ!」
私の頭とフードの間からひょっこりと顔を出したルーナが、気配に向けて何かを言っている。
たぶんこれは、私たちは敵じゃないという和解の言葉。
すると、隠れていた魔物達がゆっくりと姿を現し、私達の元までやってきた。
「ベ、ベリィちゃん……これ、大丈夫かな?」
「たぶん、大丈夫」
見たところ魔物はコボルト達のようで、犬のような頭と小柄な身体をしている。
また、寄ってきた魔物達からは敵意を感じる事がなく、武器を持たないまま私達の前まで来ると、その場に座ってみせた。
「キュイキュキュキュイッキュキュキュイ、キュキュキュイキュイ」
ルーナがコボルト達に指示のようなものを出すと、コボルト達は一斉に頭を下げ、何を言っているのか分からない不思議な言葉を発した。
「ルーナ、もしかして今この子達に、頭を垂れて蹲え。みたいなこと言った?」
「キュイ! キュイキュイキュイキュイ!」
「ああ、私が魔王だから頭が高いぞって伝えたかったのね。通訳ありがとう。よく分からないけど」
どうやら、ルーナはコボルト達に自分達との上下関係を分からせたらしい。
その後、ルーナはコボルト達と何かを話しており、暫くしてから私にその内容をジェスチャーも使って伝え始めた。
何となく理解出来たので、自分の頭の中でざっくりと整理してみる。
私たちがここへ来る前、一人の人間と数体の魔物を引き連れた魔族がやってきた。
奴らは祭壇に祀られた大切なものを奪いに来たようだったが、魔物達のボスがそれを迎え撃とうとした。
結果はボスの力では敵わず、祭壇の大切なものは盗られてしまったらしい。
一人の人間と魔物使いの魔族、間違いなくブライトとフルーレだ。
そうして祭壇に祀られた大切なものとは、このケルベロスの魂。
やはり、ブライトはロスヴァリスからこの子の魂を持ち出していたんだ。
そうと分かれば話が早い。
コボルト達に祭壇まで案内してもらい、この子を返せば良いだけだ。
「ルーナ、コボルト達に祭壇までの道案内をお願いしてもらえる?」
「キュイ!」
そうすると、ルーナは再びコボルト達と話し始める。
会話が終わると、ルーナは私の方に向き直って首を横に振って見せた。
ルーナ曰く、どうやらコボルト達はこの場から離れることができないらしい。
何でも、ボスから今はそうするようにと指示を出されているのだとか。
しかし、代わりにコボルト達はルーナに祭壇への行き方を伝えてくれたようだった。
ルーナは自信満々で「キュイ!」と鳴き、私達を先導するように歩き始める。
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