魔王の娘は勇者になりたい。

井守まひろ

文字の大きさ
上 下
40 / 134
明星/カラスの北斗七星 編

或る司祭の独白① 不調和

しおりを挟む
 幼い頃から、ワタシは優秀だった。

 物心ついた時には、空間魔法という上位の魔法が扱えていた為、周囲の大人達を困らせていたのは言うまでもない。

 そんなワタシが、初めて他者の才能に感激したのは、学園に入った頃だった。

 人よりも魔力量が多く、秀でた魔法が扱えるワタシよりも、優秀な魔法使いは存在しない。
 少なくとも、同年代では……そう、思っていた。

「リタは上級騎士の家系なのに魔力少ないんだぜ! かわいそー!」

「魔法も使えないのに騎士とか笑える~!」

 リタ・シープハード、同じクラスにいた、騎士の家の内気な少女だ。

 彼女は他人よりも魔力量が極端に少なく、消極的な性格も相まって他の生徒からはよく虐められていた。

 馬鹿だと思った。

 リタを虐める連中も、やり返さないリタも、全てが馬鹿だ。

 お前達にリタを虐める資格なんて無い。
 リタは、お前達の誰よりも優秀で、最強なのだから。

「行こう、リタ」

 ワタシが手を引いてやらなければ、リタは逃げようとしない。
 ワタシがいなければ、何も出来ない。

 それでも、彼女は……

「ホロクラウス?」

「うん……私が選ばれたんだって。でも、元々はシープハード家に伝わるものだし、私なんかで良いのかなって……本当なら、ルークが持つべきだと……」

「そんなことないよ! リタは頭が良くて魔力の扱いは上手いし、それにルークだってそんな事言う子じゃないでしょ?」

 彼女の家は、少し複雑な家庭環境だった。

 リタの父親は彼女が幼い時から酒癖が悪く、騎士のくせに遊んでばかりで、遂には家族を捨てて何処かに行ってしまったらしい。

 そうして母親が再婚した相手の騎士には、ルークという連れ子がいた。

 彼らは優しい人だが、リタは少なからず気を遣っている。

「そうだけど……私、自信無いよ……」

「全く、リタは自分の凄さを分かってない! リタ以上に術式の扱いが上手い人なんてこの世に存在しないんだから、そこは誇るべきだよ! 聖剣だって、リタのそういうところを選んだんじゃない?」

「え、ええ……あ、ありがと……私は、そんなに大したものじゃないんだけどね」

 ワタシは、リタのことが羨ましかった。
 あの頃は嫉妬をする余地も無いほど、彼女に憧れを抱いたのだ。

 リタは天才故に、周りと馴染めない。
 それでも、ワタシだけはリタの凄さを知っていた。

 彼女は最強の剣士であり、ワタシにとって唯一無二の一番星だった……



 そんな、昔の事を考えていた。

「ブライト、少し良いか?」

「やあ、ザガン。この間はご苦労だったね」

 やって来たのは、創星教の同志であるザガンという魔族の男だ。
 彼は先日のシリウス事件で、大いに活躍をしてくれた。

「いや、俺のミスで国王には届かなかった。申し訳ない」

「何も本気で国王の首を討ち取ろうだなんて考えていなかったよ。キミのおかげで良い記録が取れた。本当に感謝している」

 ワタシが欲しかったものは手に入った。
 気掛かりなのは、あの盾使いの娘が持っていた大型の盾だ。
 正体不明で能力も未知数な以上、神器と同等の脅威になり得る可能性がある。

「そうか。ところで、例の件はどうする? 俺も出るか?」

「いいや、ザガンには頑張って貰ったし、アレはフルーレだけに任せるよ。今回は連中とまともにやり合う必要は無いからね」

「わかった。また何かあれば言ってくれ」

「うん、ありがと」

 ザガンは魔法の腕が良いけれど、真面目過ぎるがためにワタシから休みを与えなければ休もうとしない。

 働いてくれるのは嬉しいが、大切な仲間に無理をして欲しくは無いのだ。

「さてと……」

 既に次の準備は出来ている。
 ワタシはワタシが信じる正義の為に、必ず成し遂げてみせるのだ。
 例えリタであろうとも、ワタシの邪魔立てはさせない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~

鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合 戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる 事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊 中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。 終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人 小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である 劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。 しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。 上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。 ゆえに彼らは最前線に配備された しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。 しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。 瀬能が死を迎えるとき とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...