魔王の娘は勇者になりたい。

井守まひろ

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明星/カラスの北斗七星 編

幕間 帰省

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 いつ振りだろう?
 アンタレス村はオレがいた頃と変わっていなくて、みんなも元気そうだった。
 “獣”の話を聞いてから心配していたが、不幸中の幸いってやつか死者はまだ出てないし、と言うか村人みんな知り合いだから、誰か消えたら直ぐに分かる。

「おかえりマット、久しぶりだな!」

「お、ケンさん久しぶり~!」

「マット! その服似合ってるな!」

「立派な自警団っすから!」

 道を歩いていると、そこかしこから声を掛けられる。

 ここは平和な村だから滅多に事件が起こらないし、シリウスに出てからは帰ってくることが無かった。

 そんな平和な故郷を荒らす魔物を、オレは絶対に許さない。

 とは言え、腹が減っては戦はできぬと、これから飯を食べに行くところだ。

 その前にオレは寄るところがあるから、エドちゃん達には先に飯を食ってて貰うことになった。

 やってきたのは、小さい木造の家。
 ここはオレの幼馴染、リリアンの家だ。

 リリアンは可愛くて優しくて可愛い、オレの大切な人。
 村を出るときも、リリアンは笑顔で送り出してくれた。

 ……そんな彼女からの手紙で異変を感じたのは、つい数日前のことだった。

 どうやら、最近怖い夢を見るらしい。

 何かに食べられて飲み込まれてしまうような、自分が自分では無くなってしまうような、そんな夢。
 “獣”事件の恐怖心から悪夢を見ているだけかもしれないが、やっぱり心配だ。
 だからこそ、この任務はオレがやりたかった。

 トントンとドアをノックし、リリアンの名前を呼ぶ。

「リリアン、マットだぜ~!」

 家の中からドタドタと駆けてくる足音がし、数秒後にドアが開かれた。

「マット!」
「ただいま、リリアン」

 リリアンは突然オレに抱きつき、大きな声で泣き始めた。

「おかえりいいい! 会いたかったよおおお! 怖かったあああ!」

「ちょ、びっくりした~。もう大丈夫だぜ! オレが来たからな!」

 そう言えば、子供の頃もリリアンのことはオレが守ってやってたっけ。

 小さい頃から獣操魔法が使えたオレは、村の子供で一番強かった。
 もちろん動物や魔物を操るだけじゃなく、オレはオレ自身も強かったからな。

 騎士になる事が夢だったから剣術も練習して、いつの間にか村で一番強くなっていた。

「それで、調子はどうよ?」

「うん、それがね……」

 オレはリリアンの家に上がり、彼女から近況を聞いた。

「相変わらず、怖い夢ばかり見るの。でも、最近それが夢じゃない気がしてきて……」

「それって、どーゆう?」

「……夢遊病みたいな、感じじゃないかなって」

 夢遊病、寝ている間に自分の意思とは関係なく動いてしまうやつか。

「でも、夢遊病ってことは実際に体験していて、それを覚えてるってことっしょ?」

「うん……覚えてる、気がするんだ。私……この前、気付いたら夜中に、村外れの牧場にいて……牛も鶏も血だらけで倒れてたの……それが、怖くて……」

 その話だと、まるでその時は意識があったかのような言い方だ。

「それは、はっきり覚えてるのか?」

「ううん、その後また気付いたらベッドにいたから、夢だったのかもって、そう思いたくて……でも、家畜は本当に死んでたんだ……」

 嫌な予感がしていた。
 “獣”の事件が起きている今、リリアンはこの状態だ。

 だが、リリアンが“獣”の正体というのは無いと思っている。
 人が魔物に変身するなんて、そんな事は……

 ふと、バーン・フォクシーの顔が浮かんでしまった。
 イヤ、だとしてもアレは変身者の意思があるし、第一リリアンは何も知らないのだから関係は無いだろう。

「うん、話してくれてありがとな。一先ずオレ達は“獣”の調査に行くけど、リリアンの事もオレが守るからよ!」

「マット……大好き!」

 そう言って、リリアンはまたオレに抱きついた。

 大好き?
 大好きって?

 え、もしかして、オレ告白された?

「オ、オレもだぜ。リリアンのことが一番大事だからな!」

 それからオレはリリアンと分かれ、エドちゃん達と合流した。

 嫌な予感は、当たらない事を願っていた。
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