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陽光/月と太陽 編

28.首都防衛戦

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 あーしは昔から、魔法が使えない事がコンプレックスだった。

「ルビちゃんさ、戦闘中に色々と考えちゃう癖があるよね」

 自警団に入ってから、あるとき団長に言われたことだ。

「なんて言うかな。魔法が使えないのに、無理に魔法を使おうとしてるんだよ。そうすると、聖剣魔法への意識が散漫になっちゃうんだよね。
聖剣は自分の法陣で魔法を構築してくれるから、無理に魔法への意識を向けなくても、ちゃんと応えてくれる」

 分かっている。
 分かってはいるのに、つい癖で自分から魔法を構築しようとしてしまうんだ。

「聖剣に選ばれたんだから、ルビちゃんは十分凄いんだよ。もっと自分のことも、聖剣のことも信じてあげてね」

 それから、あーしはずっと疾双剣ヒスイと向き合ってきた。
 ヒスイは、あーしの故郷であるアンセル村で守られてきた聖剣だった。
 しかし幼い頃、村は盗賊に焼かれて壊滅してしまったんだ。

 あーしがヒスイの資格者だと知ったのは、村が焼かれて生き残ったあーしが、隠されていたヒスイを手にした時だった。

 それでも、いくら聖剣に選ばれたからって、兄ちゃんみたいに上手く魔法が使えるわけじゃない。
 兄ちゃんは魔法が上手かったから、あーしもいつか使えると思って頑張ってきたんだ。

 それなのに……

「クソッ! クソックソッ! 数が多すぎるんだよ!」

 いくら斬っても減らないアンデッドの軍勢に、あーしはイラついていた。

「邪魔だ! そこ退いてろよ!」

 正直、国王軍が足手纏いだ。
 だからと言って、あーしらで全て倒し切れるわけでもない。

 もっと速く、速く動くんだ。
 団長やベリィなら、あの一帯の敵はもう片付いている。

 あーしも聖剣使いなら、それぐらいしてみせろよ!

「ヒスイ疾風斬り!」

 聖剣に思い切り魔力を流し込み、直線上に捉えた敵を一気に片付ける。

 駄目だ、これでも足りない。

「はーい、退いた退いた~! 仕事前に酒を一杯ひっかけるつもりが、気付けば一本丸々いってたリタ様が聖剣魔法を使うぞ~!」

 団長がまた余計なことを言って、聖騎士団と国王軍を煽っている。
 あの人も騎士の家生まれなのに、仲良く出来ない余程の理由があるのだろう。

「いくぞ~、トゥインクルス!」

 団長が剣を正面に突き出すと、忽ち放たれた光が広範囲に飛び散り、バチバチと音を立てて点滅した。
 遠目から見れば綺麗だけれど、近くで見ると敵の身体が砕け散る様子がもろに見えて気持ち悪い。

 それにしても、刻星剣ホロクラウスの天体魔法は威力が桁外れだ。

「聖剣魔法一発で数百体ってとこか。敵の数がわからない以上、無闇矢鱈に撃てないな」

 これはあまり知られていない事だけど、団長は魔力の量が他人よりも極端に少ないらしい。
 どれだけ強くても、聖剣魔法が使える回数は5回程だと聞いた事がある。
 つまり、あと4回で団長は魔法が使えなくなるのだ。
 聖剣自体にも魔力は宿っているけれど、聖剣魔法は使用者と魔力をリンクさせなければ発動出来ない為、使用者が魔力切れになってしまっては使えない。

「リタさん! ちょっと前に出るぞ!」

 そう言って団長の横を駆け抜けて行ったのは、副長のジャックさんだ。

「スピアリーファ!」

 ジャックさんは植物魔法という、その名の通り植物を操る魔法が使える。
 放たれた無数の葉が槍のように敵を貫き、次々とアンデッド達が倒れてゆく。

「行くぞウルフ! ジャックさんに続け!」

「応!」

 エドさんとマットさんも、それに続きアンデッド軍の中へ走って行った。

「サンダーボルト!」
「サモンズ!」

 エドさんは自身の雷魔法を剣に乗せ、次々に敵を斬り裂く。
 マットさんは獣操魔法モンステイマー使いだから、テイムした魔物達を一斉に出して攻撃を仕掛ける。

 そうだ、自警団の人達は、あーし以外みんな魔法が使える。

 だからって、あーしが魔法を使おうとするな。
 魔法を意識するな!

 ヒスイを信じて、ヒスイに魔力を注ぐことに集中しろ!

 団長が言っていたように、丁寧に、丁寧に……!

「オェッ……!」

 まずい、変に意識しすぎて魔力が逆流した。

 やはり魔法が扱えないあーしには、魔力の流れが分からない。

 それでも、やるしかないんだ!

「こんちきしょおおおお!」

 あーしは聖剣使いなんだ……疾双剣ヒスイが選んでくれたんだ。

 だから……

「青いくるみも吹き飛ばせ! すっぱいかりんも吹き飛ばせ! 全部全部、あいつら全部吹き飛ばせええ! 応えてくれよ! 疾双剣ヒスイ!」

 自棄になった。
 ただひたすらにヒスイを振り回して、目の前の敵を斬り続けた。

 そうしていると、だんだん風の流れが見えてきて、ヒスイの刀身が緑色に光り出した。

 聖剣魔法の呪文というのは、聖剣が教えてくれるものだ。
 今、ヒスイがあーしに教えてくれた。
 疾風斬りを超える、新しいヒスイの風魔法……

「ヒスイ、爆空斬り!」

 ヒスイを薙いだ刀身の先から、耳を 劈つんざくような爆音が鳴り響く。

 そこから広がった衝撃波は風の刃となり、約百体もの敵を一瞬で真っ二つにしてしまった。

「風が、分かった……今、風を感じた!」

 そうか、ヒスイは風を司る四霊聖剣だ。
 一番大事なのは、あーし自身が風を感じ、読み取ること。

 今になって、漸くヒスイと通じ合えた気がする。

「ルビちゃん、遂に化けたね」

 遠くのほうで、団長があーしにそう言ってくれた。
 感覚が研ぎ澄まされた今なら、より広範囲の情報が五感を通して入ってくる。

 このまま行けば、あーしも戦力になれそうだ。

「あら、これはお祭り騒ぎですね」

 唐突に聞こえてきた声は、この戦場で場違いに感じるほどの可憐な声。
 見ると、団長の横で車椅子に乗ったセシル様と、その使いであるケイシーさんの姿があった。

「うわぁっ、びっくりした! カンパニュラのセシル様ですよね? え、転移してきました?」

 突然現れたものだから、団長も驚いている。

「ケイシーの付き添いであれば行っても良いと、お父様から許可を頂けましたので。さあ、わたくしも協力いたしますね。ケイシー、背中は預けました」

「はい、セシル様」

「パペティア!」

 そうして出現した無数の人形達が、アンデッドを一体一体、手早く片付けて行く。
 やっぱり、セシル様の魔法は凄い。

「これが傀儡操縦魔法か~、私も負けていられないな」

「リタさん、ですよね。 アストラ王国最強と呼ばれる、刻星剣ホロクラウスの資格者。共に戦えて光栄です」

「いやいやいや、こんな形でお会いするなんてびっくりです! ご協力、感謝しますよ~!」

 セシル様に団長、これは勝機がある!
 あーしだって、少しでも敵の数を減らしてやる!

「ヒスイ爆空斬り!」

 もう一度発動した聖剣魔法で、今度は先程よりも多くの敵を斬ることができた。

「それにしても……この数、らちが明きませんね。少し本気を出しましょうか。リタさん、少々皆様に避難して頂きたいのですが、お願いできますでしょうか?」

「あ、わかりました!」

 セシル様の頼みに、団長は何が始まるのかとワクワクした様子で、皆に退いてもらうよう指示を出した。

「それでは……パペティア・ギガント」

 詠唱から数秒後、大きな地震と共に出現したのは、白い身体に青色のラインが入った巨人型の……人形だった。

 その様子に皆が騒めく中、膝をついていた巨人はゆっくりと立ち上がり、敵を踏み潰して前進し始めた。

「一気に焼き払います。熱いのでご注意くださいね」

 巨人は立ち止まったかと思えば、両手を重ねるように前へ出した。
 すると重なった両手の形は変形し、その中心に光が集中し始めた。

「パペティウム熱線!」

 瞬間、巨人の手に集まった光が一筋の熱線となり、多くの敵を焼き払った。

 これが傀儡操縦魔法、スケールがまるで違い過ぎる……

「すごいなこりゃ。私も頑張るぞ~! スタアメイカ・エクスプロージョン!」

 続けて団長も魔法を発動し、大量のアンデッドを爆発させた。

 既に送り込まれてくる敵の数が、団長達の倒す数に追い付いていない。
 もうこの二人だけで良いのではないかと思えてしまう。

 これで数に終わりが見えてきた。

 それでも、未だに放たれている強大な威圧感がある。
 ベリィのお父さん、魔王様のものだ。

「ベリィ、シャロ、そっちは任せた!」

 届くか分からないけれど、あーしはそう声に出して、再び敵の方へと駆け出した。
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