魔王の娘は勇者になりたい。

井守まひろ

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陽光/月と太陽 編

幕間 風の休息

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 ベリィが団長のところに行ったと思えば、裏庭を覗くと何かの特訓をしていた。

 ベリィは凄い。
 あんな事があったのに、もう立ち直って前を向いている。

 あーしは兄ちゃんが失踪した後、暫く立ち直れなかった。

 実力もメンタルも、ベリィはあーしよりずっと強い。

 ベリィだけじゃない。
 シャロだって、いつも笑顔でベリィやあーしの事を気に掛けてくれる。

 それに比べて、あーしはどうだ?
 何か役に立ったのか?

 兄ちゃんに関する手がかりも掴めず、助けたいのに実力も足りず、シャロのようにベリィを元気付ける事すら出来ていない。

 このままじゃ駄目だ。

 少しでも多くの人を助けて、少しでもみんなの役に立って、死ぬときは悔いがないようにしたい。

 それなのに、あれから毎日裏庭で特訓に励むベリィを見ていると、あのままどんどん強くなって、あーしはどんどん引き離されていくのかなって……

「うわあああん! もうメンタルもたないっスよ~!」

 そうやって泣き付くあーしを、エドさんは若干困りながら慰めてくれた。

「ま、まあ元気出せ……周りと自分を比較して、悲観的になる気持ちは分かるよ。お前はよくやってる」

「エドさん……エドさ~ん!」

「き……気分転換に、聖堂でも行くか?」

「デートっスか!」

「聖堂な」

 そんなわけで、あーしは珍しくエドさんからの誘いで遊んでいる。

「どっどど どどうど どどうど どどう」

「聖堂は……?」

「別に聖堂行かなくても遊んでれば元気になるっスよ~! せっかく美味いパン買いましたし、ちょっとあそこでゆっくりしてきましょ!」

 自警団を出たあーしは、エドさんを連れて真っ先にパン屋へと向かい、新作のパンとみんなへのお土産を買った。

 そして今、困惑するエドさんを少し強引に河原のベンチへと座らせ、その隣にあーしも腰を掛けた。

「ま、まあ機嫌が直ったなら何よりだが……」

 任務の時は真面目なエドさんだけど、プライベートではこうして色々と付き合ってくれる。

 口下手だけど優しくて、何かと頼りになる先輩だ。

「そういえば、エドさんってベリィのことめっちゃ気に掛けてますよね? マジで小さい子が好みなんスか?」

 以前から、少し気になっていた。
 初めてベリィと会ったとき、魔王の娘だと知りながらもベリィを見逃そうとした。
 今思えばベリィに非は無いし、あれはあーしが悪かったと思う。

 しかしそれ以降も、エドさんは常にベリィを助けるようなことを言って、アルブからシリウスに帰ってきた後も、あーしにベリィのことを何度か聞いてくる。

「そんなわけないだろ。ベリィは、ただ……俺の妹みたいなものなんだ」

 ……え?

「…………え?」

「なんだ、その顔は?」

「あ、いや……エドさんって、ベリィのことを自分の妹だと思い込んじゃうようなヤバい人だったんだなって……」

「誤解だ! そういう意味で言ったわけじゃない!」

「えー、じゃあどーゆー意味なんスか~?」

「……お前には、もう話しておくべきかもな」

 エドさんはそう言うと、やけに真面目な顔でその理由をあーしに打ち明けた。

「……そんな」

 その話に、あーしはただ驚くことしかできなかった。
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