魔王の娘は勇者になりたい。

井守まひろ

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陽光/月と太陽 編

幕間 夜風と人形

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 暗い部屋の中で目を覚ました自分が、泣いていることに気がつく。

 まだ夜は明けていなかった。

 そうだ、夢を見ていたんだ。
 昔、兄ちゃんと遊んでいた頃の夢である。

 最近、あーしは兄ちゃんの夢ばかり見ていた。

 兄ちゃん、今どうしているんだろう。
 大丈夫かな?

 きっと生きているよね。
 あーしは兄ちゃんを信じている。

 少し夜風に当たろうと、隣で寝ている二人を起こさないようにそっと部屋を出た。

 真夜中の空は綺麗で、誰もいないカンパニュラの街を星々が優しく照らしている。

 そう言えば、ベリィの故郷である魔族達の国、アルブ王国は雪国らしい。

 寒い国は空気が澄んでいて、もっと夜空が綺麗に見えるのだろう。

 あーしが旅をする目的は兄ちゃんを探す事だけど、自警団としてベリィの故郷も何とかしてあげたいと思っている。

 その為に、あーしはベリィと一緒に来ることを決めたんだ。


 そろそろ家に戻ろうと思っていた頃、不意に視界の端で何かが動くのが見えた。
 直ぐにそちらへ目を移すと、それが何なのかハッキリ確認できた。

 人の背丈と同じぐらいある、木製の人形だ。

 人形が独りでに動くなんて、どういう原理なのだろうか?
 それに人形が入って行ったのは、ゴーストの出そうな狭くて暗い路地だ。

 正直、あーしはゴーストが苦手である。

 過去に自警団の任務でゴーストの事件を担当した際、ビビり過ぎて失禁したことがあるが、この事は墓場まで持っていくつもりだ。

 とは言え、自警団としてこれを見過ごすわけにはいかない。

 正義感で無理やり恐怖を抑え込み、あーしは腰に携えていた短剣を手に、人形が入って行った路地へと向かった。

 路地を覗くと、人形はその先の角を左に曲がろうとしていた。

 あーしは急いで人形を追いかけ、それが歩いて行った角を曲がり短剣を構える。

 ……そこに人形は居なかった。

 代わりに居たのは、ダイアウルフ……のゴーストだった。

 ダイアウルフのゴーストは、あーしを捉えると凄い勢いでこちらに走ってくる。

「ちょ、待て待て待て待て待て!」

 まずい、ゴーストは魔法じゃないと倒せない魔物だ。

 あーしは聖剣以外の魔法が全然使えないから、聖剣を部屋に置いてきた今ではゴーストと戦うことが難しい。

 これもあるからゴーストは苦手なのだ。

 逃げる隙は無い。けど、迎え撃つことなら出来る。

 魔法は使えなくても、武器に魔力を込めるだけなら可能だ。

 魔力の扱いは苦手だけれど、短剣に目一杯込めてみる。

 ゴーストは目の前だ。

 動きはあーしのほうが速い……いける!

 ……ゴーストは、斬った時の感触が無い。

 けど確かに、足元で消滅していくダイアウルフのゴーストの姿がある。

 ゴーストが消えた後、そこには呪符のようなものが落ちていた。
 あーしが拾い上げようとすると、それはまるで燃焼するように消えてしまったのだ。

 呪符があるという事は、何者かがあのゴーストに細工を施していたことには違いない。

 一先ずシャロの家に戻ろうと、路地を出たその時だった。

「シルビア?」
「ひぃっ!」

 ……ゴーストを見た直後のこれだ。
 これに関しては、あーしは悪くないと思う。

「ベ、ベリィ……」

 あーしを心配して来てくれたのだろう。
 けど、ゴーストを見た後にツノ丸出しのベリィは、心臓に悪すぎた。

「シルビア、大丈夫……?」

 ああ、よりによってベリィの前で失禁してしまった。

 その後、事の顛末をベリィに話したものの、失禁したことを揶揄われたのは言うまでもない。
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