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陽光/月と太陽 編

6.自警団

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 町へ戻ると、シルビアの泊まっていた宿の前で、エドガーと男がもう一人立っていた。

「シルビア、どこに行っていたんだ?」

 シルビアのことを待っていたであろうエドガーは、少し困った様子で溜息を吐いた。

「あ、いや……ちょっと、さ、散歩?」
「まあまあエドちゃん、なんか丸くおさまったみたいだし? 結果オーライじゃん」

 もう一人の男は、シルビア擁護しているようだ。
 エドガーはそれに対し、呆れた様子でもう一度溜息を吐く。

「まあ、そうだな……朝食を食べたら町を出て、今日中にシリウス帰るぞ」
「はいぃ……了解です」

 シルビアにそう言ったエドガーは、私に目を移して少し困ったような顔をした。

「悪かったな、迷惑をかけたみたいで」

 シルビアは悪くない。
 私が勝手に喧嘩を仕掛け、むしろ迷惑をかけてしまったのはこちらだ。

「ううん、こちらこそごめんなさい。えっと……ベリィ・アン・バロル、魔王ローグの娘だよ。シリウス自警団、だったよね?」

 エドガーやシルビアの様子を見て、悪い人達では無いという事が分かった。

 魔王の娘である私を見逃してくれたのだから、少なくとも私にとって敵ではない。

「改めて、シリウス自警団のエドガーだ。ベリィ、俺は君の事を信用している。この国で困った事があれば、自警団に相談してくれ」

 エドガー、思ったよりもずっと優しい人だった。

「え……エドさんが……女の子に優しい……」
「エドちゃん……まさかそういう……」

 ……何だ、あの二人の反応は。

「お前ら少し黙ってろ。別にそんなつもりは無い」

 これまでとは比にならないエドガーの圧に、シルビア達は子犬のように縮こまった。
 なんだか、愉快な人達だ。

「はぁ……こわ……そうだ、あーしはシルビア・フォクシー。昨日も言ったけど、自警団に二人しかいない聖剣使いの一人! よろしくね、ベリィ、それと……」

 シルビアは私から視線を外し、シャロに目を向ける。

「アタシ、シャーロット・ヒル! カンパニュラ出身の盾使い! シャロでいいよ!」
「よろしく、シャロ!」

 シャロとシルビア、この二人は気が合いそうだ。

 本当に、お互い誤解が解けて良かった。

 私のせいで色々と迷惑をかけてしまったけれど、自警団の人達は優しいな。

「ところで、ベリィ達はどこ行くの? もしシリウス方面に行くなら、一緒に行かない?」
「はぇ?」

 シルビアからの提案に、思わず私は調子外れな声を出してしまった。

 確かにこれから向かうのはシリウスだし、大人数で行動すれば危険も少ないだろう。

 しかし、シャロはともかく私が一緒で良いのだろうか?

「迷惑をかけた詫びもしたい。馬を貸すから、歩いて行くよりも早く着けるはずだ」

 エドガーはぶっきらぼうに言ったが、その声は優しかった。

 確かに、馬を貸してもらえるならば移動が楽になる。

 シャロの方を見ると、彼女もそれが良いらしく、馬という言葉に目を輝かせている。

 旅を始めてから、優しい人達とばかり出会う。
 いつかシャロにも、自警団の人達にも、ちゃんと恩を返さないとな。

「私が一緒でも大丈夫なら……助かる。よろしく」

 シリウスまで自警団の人達と同行することになった私達は、一度自分たちの宿に戻り、荷物をまとめてから朝食を摂った。

 そういえば、もう一人いた自警団の男性は誰だったのだろう。

 去り際に確認した時、彼は何か話したそうにしていたが、結局何も言わないままエドガーと行ってしまった。

 見たところ彼も良い人のように思えたので、別に深く知る必要は無いだろう。

 それから私達は自警団と合流し、シリウスに向けて出発することになった。

「マドレット・ウルフ、自警団真紅の一等星、赤狼せきろうって呼ばれてんのがオレだから、よろしくちゃんだぜ! 気軽にマットって呼んでくれよな!」

 唐突に自己紹介をされた。

 もう一人いた自警団の男性、背中に赤い一等星を宿した犬の紋章が描かれた服の人だ。

 そう言えば、エドガーの背中には黒い一等星の犬の紋章がある。
 これがシリウス自警団の紋章なのだろうか?

「ウルフ、さっさと二人の馬を出せ」

 エドガーの指示で、ウルフは召喚魔法を使った。

「サモンズ」

 ……何も起こらない。

 元々いた三頭の馬は、自警団の三人が乗ってきた馬だ。
 私は何気なく馬を数えてみたが、その数に変わりはない。

「あれぇ? 小屋にお馬さんいねーのかな?」
「おかしいな。向こうで何かあったのか?」

 エドガーはそう言って首を傾げ、少し考えてから私達に目をやった。

「すまない二人とも。うちで管理している馬が出払ってしまっているらしい。そっちさえ良ければだが、二人乗りでも構わないか?」

 シリウスのほうで何があったのか気になるけれど、それなら尚更向こうに早く向かったほうが良いだろう。

「うん、それで平気。ありがとう」

 連れて行ってもらうのに贅沢は言えないし、私達としては何の問題もない。

 私はエドガーの馬に、シャロはシルビアの馬に乗り、プロキオンの町を出発した。
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