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1章

31話 商店と料理人

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ライナスは剣を納めると先ほど斬り跳ねたナターシャの首飾りを手に取った。

「おい、マーレ。この首飾りを鑑定してみてくれ」
「わかった」

「何故私の首飾りを……?」
「何もなければいいがな……まぁちょっと気になったんでな」

「見えた。遠隔視の魔法が掛けられてる。それも魔力不可視化と隠蔽スキルまで使って」
「!?」
「やっぱりか」
鑑定しなきゃ分からないような魔法を感で見抜くとかギルマスやべぇー……。
ほんとこのおっさん何者なんだ。

「そのネックレスは生前の妹から貰った私の誕生日プレゼントなのよ!?」
「俺にはもらう前から掛けられていたのか、マナリスに入ってから掛けられたのかはわからねぇ。だがマナリスから監視されてたんだろうな。お前は裏切ると思われていたのかも知れねぇ」
「……私はいいように使われていただけって事みたいね……バカみたい!」
ナターシャは床を叩きながら嘆いた。

「ナターシャ。お前の冒険者復帰は認めるが、監視されていたってことはお前が裏切ったことは知られているはず。この冒険者ギルドではお前の護衛までは手が回らないからエラルドについていって王都の――」
「それには及びませんよ」
エラルドがライナスの言葉を遮った。

「どういうことだ?」

エラルドは続けてハルト達のことを説明した。

「…………にわかには信じられねぇな」
「そうだね……。流石に荒唐無稽すぎる」
ライナスとアイデンリヒトは難しい顔をしてとても信じられないと言った様子だ。当然の反応だ。

「面白そうじゃない♪本当にあるのなら私も行ってみたいわぁ♪」
「私もいってみたい」
逆にレイラとマーレはワクワクしているようだ。

「ハルト。あの扉を今ここで出せるか?」
「たぶん大丈夫だと思う」

ハルトが壁の前に手をかざし扉を出現させた。
「中を確認してみてください」
ハルトが扉を開いて向こう側へ手をかざした。

「おい、ヘイゲル」
「かしこまりました」
そういうとヘイゲルは恐る恐る扉の向こうへ入る。
そこには目を疑う世界が広がっていた。
ヘイゲルはすぐさま再び扉を通り先ほどの部屋に戻ってきた。

「ハルト様の言っていることは事実のようです」
「……驚いたな」
「なるほど、これが先ほどナターシャを王都へ行かせなくとも問題ないといっていた訳か」
「はい。ハルトが受け入れてナターシャにはその世界で暮らしてもらうというので、ハルト達と共にこちらに来たときに冒険者として活動するだけならナターシャにマナリスの手が伸びる可能性は限りなくなくなるかと」
「たしかに……それならこの街を拠点にしたままでも問題なかろう。ハルト、ルナ、ルシア。ナターシャのことをよろしく頼む」
「そんな!頭をあげてくださいよライナスさん!俺らは別にそんな大層なことをしているつもりはありませんって」

「異世界を造り?その異世界と行き来し?更に動物や魔物を進化させ?これで大層なことをしていないと?」
ライナスの圧が強い。

「そういう意味じゃありませんってー!ナターシャさんにうちの街で暮らしてもらうことですよ!街は作り始めたばかりなので人が増えることは俺にとってもありがたいので、別に守るためにとかそう言ったわけでなく、一緒に暮らす住人として歓迎するって意味です」

「ふむ。ナターシャの件はわかった。して、噂を流すという話をエラルドはしていたが、その中に街の存在をほのめかして交易をという話があったな?」
「はい。先ほど言った通りできたばかりの街なので物資も乏しいので交易をして色々得られたらなぁと」
「未知の食材や加護の力で作った鉱石か……」
ライナスはそう言うとアイデンリヒトの方を見た。

「ふふ。分かりました。ハルトさんにはこの街の危機を2度も救っていただいております。褒賞をわずかばかりの金貨だけとし、領主の器が小さいと思われても困ります。ですのでアルレンセスの街と交易を許可し、更に商店を1つ確保してハルトさん達に提供しよう」
「え!?いいんですか?」
「ええ。この街としてもいい物資が手に入るならば利点もありますからね。ただし、民衆にハルトさんが行き来できるということは絶対に!知られないようにすること。噂の都市と交流がある商人から分けてもらっているとでもしておいてください」

もし知れたら利益を得ようと工作する者や強盗、窃盗等事件が起きかねないか。
そして、商店を出すことを許可した領主も噂の都市と繋がっていると思われる可能性もあるか。

「わかりました。店員は街のキャトラン達に任せてみようと思います。それと……一つだけお願いがあるんですけど……」

「ん?なんだね?私にできることならなんでも。という話をしたからね。叶えられることならば」
「街にまともな料理を作れるものが居ないので、腕のいい料理人もしくは料理の指導をしてくれる方を紹介していただくことは可能ですか?」
「そんなことでいいのか?」
「そんなことって、これは重要です!」
「ふふっ。わかったよ。ならいい人材がいる。ヘイゲル」
「はっ」
「すぐに戻ってライラたちに声をかけておきなさい」
「かしこまりました」

「ライラさんってあのメイドの?」
「そうだね。彼女は今はうちのメイド長だが、もともと料理の腕を買って雇っていたから腕は保証するよ。ついでに数人ヘイゲルが腕のいい者を選んでくれるだろう」
「いいんですか!?」
「ああ、私はヘイゲルさえいれば身の回りのことで困ることはないからね」
領主様ありがとうございますー!
ハルトは心の中で涙を流しながら両手を握り感謝をした。

「本当に料理人だけでいいのかい?この街にハルト君の屋敷を構えるくらいなら答えてやれるが?」
「いえいえ!そこまでしていただかなくても大丈夫です!」
ありがたいけど、これ以上恩を売られると何を頼まれても断れなくなっちゃう……!

「ならこちらに来たときには商売女を数名、宿泊先に手配してあげようか?」
アイデンリヒトはニヤニヤしながらそう告げた。

商売女……?って娼婦ってこと!?

「え、遠慮しておきます!」
「なんだい、英雄色を好むというものなのに」
「俺は英雄じゃないですし、流石にそういうのはちょっと……!」

「そうですよ♪サキュバスの私が居たら商売女なんて不要ですよ。ね♪」
ナターシャがハルトの腕を抱きながら胸を押しつけてきた。
「あーーー!!!またご主人様に!!ダメですー!ご主人様は私のです!!!」
ルナが反対の腕に引っ付いた。

「あははは。確かに不要みたいだねっ」
その様子をみてアイデンリヒトは大笑いしている。

「だれかたすけてぇー!」

誰も止めるでもなく、皆はハルトの困っているさまを見て笑っていた。
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