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3章

64話 情報収集メンバーの決定

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夕食が済み、ホールでゼルメリス魔導王国へ向かう相談を始めていた。

まずイザとラナは昼間の話を皆に説明した。
「――というわけなんだ。皆の意見も聞かせてほしい」

リーンとアーヴェインの二人をエーテロイドの情報を探るために調査に向かわせようとしたのだが、二人だけでは何かあったときに心もとないのでサポートとしてついていくメンバーを選出するためだ。

銀牙が手をあげて質問をした。
「イザさんとマティアさんが行っちゃだめなんですか?」
その低レベルと思える質問に即座にミアが突っ込んだ。
「あなたはバカですか?魔導王国は魔法に特化した国ですよ?お二人の力が知れれば騒ぎになるのは明らかです」

「でも、ゼルメリス魔導王国って魔法の力が強いものは絶対的に認められるんですよね?それなら魔力が高い人が行った方が情報も得やすいと思うんですけど?それにゲートが使えない人だけで行くと連絡が取り辛くないですか?」

(こいつあまり普段から考えてないけど、たまーに確信をついてくるな)
イザが懸念していたところを銀牙がずけずけと掘り下げてきた。

「確かに銀牙さんの言うことにも一理あります。ですがリスクも高まります。まず先日のアルマ様の話からエーテロイドのすべてがマティアさんのように友好的ではないということ。もしイザ様やマティアさんが赴いて敵対しているエーテロイドに見つかれば、狙われる可能性もあります。それにこの街は新興都市としてニルンハイムとイャーリスと友好関係を構築し、公になったばかりです。世間ではこの街のうわさが知れ渡っている頃だと思います。その街の住人が王国に来たと知った場合、あちらの国がどう出るかわかりません。幸いミーシャさんがゼルメリス魔導王国のご出身だということなのでまずは詳しい情報をお聞きしましょう」

ラナの話を聞いて皆頷き、ミーシャの話に耳を傾けた。
「えーっと、今までナックやフェル、ガルにも内緒にしていましたが、私の生家はゼルメリス魔導王国にあります」
それを聞いてフェルは開いた口がふさがらないでいた。

「魔導王国では皆さん知っていると思いますが、人種や年齢をあまり気にしません。住民や国に来た者の評価はほぼすべて魔力量や魔法適正で決まります。これはアーヴェインさんもご存じだと思いますが、あの国では仕事に従事したり制限区画への出入りをするためには魔術院を卒業し魔導士として認められることが絶対条件です」

「そうですね。私も魔導士として認められてようやく王都中心部への出入りが認められました。あの国ではそれが絶対のようです」

「魔術院は基本3年制ですが、飛び級もあり私の姉の様に1年で卒業することも可能です。私は姉よりも出来が悪いので2年半かかりましたけどね……えへへ。私の実家は皆魔導士として都内で活動していますが、私は出来のいい姉と常に比べられるのが耐えられずに家出して冒険者となった身なので、そこをあてにしていたのなら協力は出来そうにありません……。姉なら会うことが出来れば力になってもらえるかもしれませんが……」
明るく話しているように見せているが自分の過去を離すミーシャの表情を見てフェルは心配していた。
「ミーシャ……」

「姉は恐らく魔導研究所で務めています。当然そこにも魔導士でなければ立ち入ることは許されておりません。私の姉を頼るにしても、あの国で調べ物や人探しをするにしても、最低でも魔術師として認められるのが必須だと思います」

「まずは魔術院を卒業するしかないってことかぁ……」
イザはすぐにはどうこうできなそうだと知り難しい顔をした。

「この街にいる者で魔導士の階級を得ているのは私とアーヴェインさんだけですか?」

「ああ、たぶん二人だけだな」
イザは全員の顔を見渡したが、該当する人はいなそうだ。

「では魔導士の区画は私達二人で探索して、他の方に魔術院に入ってもらうというのはどうでしょうか。この街の方ならば1年もあれば十分に魔導士の階級を得ることが出来ると思います」

(うーん。確かに魔法に長けたハルピュイア達やラミア達、更に言えばラナやリーンなら1年もかからずに卒業できそうではあるけど、長いことこの街を空けてもらうのはリスクも高いしちょっと困るな)

イザが悩んでいたら、セバスが手をあげて発言の許可を求めてきた。
「私から一つ提案をよろしいでしょうか?」

「許可するー」

「その魔術院への潜入調査を私とガラテアさんにお任せいただけませんか?」
(魔人や悪魔って教会が敵視しているといっていたけど魔導王国は大丈夫か。確かにセバスは魔力の扱いにはかなり長けているから胡麻化すのは容易だろうしな。でもガラテアは……)
イザはガラテアの方を見ながら考えていた。
「ガラテアさんの魔力が少ないので学院を短期間で卒業できるのか、と思っておいでですね」

「……まぁね。ガラテアは確かに剣の腕はこの街でも随一だし。戦闘面では何も心配はしてないけどね」

「おや?イザ様はお気づきではなかったのですか?彼女は常に魔力を制限されていますよ」

「え?」
イザはその言葉に驚いてラナやリーンの顔を見た。
二人とも手を振って、知らなかったといった素振りをしていた。

「ガラテア。本当なのか?」

「はい。私は幼いころから魔力の扱いが苦手で暴発することがあるのでアルマ様から魔力を抑え少量の魔力でも戦える魔法剣を勧めてもらいました。それから常に私が一番コントロールしやすい量に魔力を無意識で制限するのが癖になっていますね」

(俺はともかく、ラナやリーンすらも気が付かないほど制御ができるってすごくないか?それに気が付くセバスも優秀過ぎない?)
「因みに魔力を解放って今できるか?」

「どうでしょう……。これまで一度も全開にしたことが無いので……。やってみます」
そういうとガラテアは目を閉じ集中し始めた。
みるみるガラテアの魔力が高まっていくのが分かる。
皆、想像以上のガラテアの魔力に驚いていた。

「も、もういいよ!」
ガラテアはイザの声を聴いて魔力を元の大きさまで抑え始めた。

「ふぅ……。やはり魔力を最大限に放出するのは扱いが難しいですね」

「ラナに匹敵するほどの魔力を感じたけど……因みにガラテアは進化とかはしてないよな?」

「はい。私は人間種のままですね。進化はしておりません――」
(ほっ。流石に人間種は進化はしないよな)
「進化はしませんでしたが、ユニークスキルの魔勇者というスキルが解放されました。これにより魔力の総量があがったようです」
「えっ」
全員それを聞いて固まった。
(えっ?魔勇者?勇者じゃなくて?なんかファンタジーの敵軍勢に居そうな感じなんだけど大丈夫?)

「まさか勇者のスキルをお持ちだったとは……ガラテアさん。貴方は転生者ですか?」
「さぁ……私は幼いころにアルマさまに拾われたとしか……」

「ラナ?前にも聞いた気がするけど転生者って?」
「稀に現れる別の世界から前世の記憶を持ってこの世界に魂だけが渡ってきた者たちです。世界が危機に直面したときに、人間に転生した者の中に勇者のスキルを持って生まれる者がいるという話を聞きます。魔勇者というのは初耳ですが……」

「なるほど、それでガラテアが転生者なんじゃないかって思ったってことか。でもガラテアは記憶も無いってことは違うのかな?」

「すみません」

「ガラテアが謝ることじゃないさ。むしろガラテアのおかげでゼルメリスに調査に行く計画が立てれそうだから助かるよ」
(セバスなら転移魔法が使えるし、二人ともしっかりしてるからうまくやってくれそうだな。リーンとアーヴェインだけで行かせると不安すぎるしな……)

「よし、んじゃセバスとガラテアはリーンと一緒に魔術院に。アーヴェインは魔導師しか入れない制限区画で調査して念話で皆と連絡を取り合ってくれ。ミーシャは冒険者としての活動もあるし、この街の物でもないから無理しないで大丈夫だ。情報をもらえたことを感謝するよ」

「私もいつか実家には戻って話をしなければと思っていましたし、イザさん達にはお世話になっているのでいずれ協力させていただきます」

「ああ、そのときはよろしく頼む。んじゃ皆ゼルメリス魔導王国での情報収集は一旦彼らに任せるとするから街の中での仕事の引継ぎや彼らの活動へのサポートを頼む」

こうしてエーテロイドの情報収集へ向けた作戦がまた動き始めた。



ゼルメリス魔導王国 王の間――

玉座に座る女性。
額には角を生やし、鱗を纏った尻尾を携えている。
女性はひじ掛けに置いた手の指を動かし、退屈そうにため息を付いていた。
「はぁ……」

そこへ一人の老人が慌てた様子で駆け込んできた。
「魔王様!確認が取れました!」

その言葉を聞いて魔王と呼ばれた女性はニヤリと笑いながら言葉を返す。
「ほう?で?どうだった?」

「はっ!例の一件に関わっていた者の一人が賢者の落とし子とみてほぼ間違いないとのことです」

魔王は玉座からゆっくりと立ち上がると笑みを浮かべる。
「ふふふ。私にも運が向いてきたようだな」
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