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3章

61話 出張、金狐の小麦亭

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街に戻ったイザを先に戻って準備を勧めていたラナが出迎えた。

「エルド達には調理器具をすぐにでも新調できるように鋳造と鍛造の準備を始めてもらっています。街の者に伝えて店舗の建設準備も手配しております。直接どのようなものが欲しいのかお伝え願いますか?」
さすがラナだ手回しが早くて助かる。

「じゃあラルドとターレスとハンナは工房へ行って調理器具の方を頼めるかい?あたしは残りの者と建物の方をみてくるよ」

こうして調理器具と建物を急ピッチで仕上げることとなった。
それぞれ実際に使う人の意見を聞きながら作業を進めていく。2日で必要なものもそろい建物も完成した。

完成した建物を前にマレーナは感心していた。
「はぁ~!大したもんだね!これ程のお店を王都で建てようとしたら1週間じゃきかないよ!すごいねこの街は!」

「ええ、調理器具もこちらの要望以上の物をすぐに拵えてもらえました。包丁の切れ味も素晴らしいです。エルドさん達の技術力は王都の鍛冶ギルドを遥かに凌ぎますね……」
ラルドは厨房に並んだ調理器具を見て驚いていた。

「コンロは従来使っていたと聞いている薪をくべる物も用意したが、エルドとリーンが特別に拵えたこっちも使ってみてくれ」
「これはなんだい?」
「これは魔石を組み込んだコンロとオーブンで、普通の火を使うよりも高温に調整も可能で、さらに安定した火力で調理ができるはずさ」
「はぁ~。魔導コンロと魔導オーブンってことか。こんなの王都で注文したらとんでもないお金が掛かっちまうよ……」
金狐の小麦亭のメンバーは目を輝かせていた。

「よし、物は試しさね!みんないっちょ腕を振るってみるよ!」
『はい!』

こうして新たなキッチンと調理器具、それとこの街で採れた肉や野菜を使って料理を始めてもらった。
イザ、ラナ、アルウェン、マティア、セバス、フェル、ミーシャが初めての客として試食を担当することとなった。
このメンバーは街の代表と、元々の店の味を良く知る者をイザが独断と偏見で選んだ。
マティアはどうしても食べたいと無理やり参加してきた。

「お待たせしました~♪こちら始まりの村の野菜を使ったスープになります♪」
ミーアが運んできたスープを口にして皆驚いた。
味も確かにうまいが、何だか体に力がみなぎる気がする。
その後も運ばれてくる料理も格別な味で文句のつけようがなかった。
デザートまで出て、全ての料理を食べて全員満面の笑みを浮かべていた。
フェルとミーシャに感想を聞いたが王都でいつも食べている料理よりもおいしいくらいと言っているので問題はなさそうだ。

二人に感想を聞いた後、アルウェンがまず口を開いた。
「私は人の街に居たこともあるがこれ程美味しい料理を口にしたのは初めてです。感服しました」

「ええ、アルウェンさんが言うように確かにどの料理もとても美味しかったです。ですが……」
ラナはそう言うとスープが入っていた皿に目をやった。
皆ラナが言わんとすることを理解していた。全員スープの味を忘れられなかったのだ。

マレーナがそれに気が付いたようで声をかけてきた。
「スープを食べたときの不思議な力が気になるんだろう?」
「ええ、このスープは一体……」
「そのスープを作ったのはこの子さねっ!」
マレーナがリディの背中をバンと叩いて紹介した。

「このスープ君が……?」
「は、はい!お口に合いませんでしたか……?」
「いや、このスープは十分美味しい。だがそれ以上に不思議な力を感じるんだ。いったい……?」
マレーナがニヤリと笑って説明を始めた。

「この子!実はユニークスキルで食才というスキルを持っているのさね!」
「しょくさい?」
「そのスキルは食材の質を最大限に活かせる調理を可能にするスキルらしくてね。こんなスキルを持っていていままで調理をさせなかったなんてもったいない!ガル王には感謝だねほんと!」

食材を最大限に生かすだけでこれ程不思議な力がみなぎるものなのだろうか。
気にはなったが今は料理の味がもてなすには十分なものとわかったのでよしとしよう。

「マレーナさん。そして金狐の小麦亭の皆さん。明日のもてなしの料理はこれで安心して任せることができます。来てくれて本当にありがとうございます」
「そんな礼なんてよしてくれよ。あたしらもこれだけの設備でこんなにいい食材を料理できるのは料理人冥利につきるってもんさねっ!」
金狐の小麦亭の皆は笑顔を浮かべ、マレーナの言葉に深く頷いた。

「もしこの街でそろわない必要な食材や調理量があればセバスに言って街に連れて行ってもらってくれ。彼も俺と同じくゲートが使えるから王都にはすぐに向かえる」
セバスが微笑んだ。

「では、イザ様とアルウェンは私と一緒に明日の打ち合わせとまいりましょう。お二人は下手に軽はずみな発言や交渉で安請け合いしない為にも、みっちりと交渉の相談に付き合っていただきますよ?」
段取りを踏まない行動をした前科がある二人を見ながらラナがいつもの怖い笑いを浮かべていた。
そんなラナを見てアルウェンとイザは苦笑していた。
リーンはそんな二人を見てニヤニヤしていた。

「リーンさん?当然ですがあなたにも同席してもらいますよ?」
一瞬でリーンの顔が青ざめた。

今夜は長い夜になりそうだ……。
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