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3章
58話 エンシェントトレントの討伐 街の発展
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ラナから討伐部隊に抜擢された者たちがエルフの里へ向かうのを見送り、イザたちは銀狼達の住居を新たに建築し始めていた。
作業中にメンバーに不安を感じていた銀牙がイザに声をかけてきた。
「イザさん?トレントの討伐の件なんですが……あのメンバーで本当に大丈夫なんですか?」
銀牙が不安になるのも当然だ。
メンバーについては俺も不安だからだ。
「ケルを行かせたのは俺の案なんだよ。だけど心配するのは無理ないな。ミアはともかく、マティアとケルは人の常識もまだあまり知らないからなぁ。エルフとうまくやれるか……」
唯一ましと思われるミアも戦闘となると楽しさが勝って周りが見えなくなるところがあるが……
「その疑問には私がお答えしましょう」
ラナが話を聞いていたらしい。
「正直この街のものならエンシェントトレントと言えど誰が行ったとしてもあまり遅れを取る者はいないでしょう。ですので保険で真面目なハルピュイアの方々を付けたうえで、現状一番世間知らずで他種族との交流に不安を感じる三名を組ませました」
うわー。結構ラナって過激な教育するよな……。
子供が出来たら絶対スパルタママになりそう。
「イザ様どうかされましたか?」
イザの不敬な勘繰りを察したのかラナが声をかけてきた。
「い、いや!なんでもないよ。続けてくれ」
「三名を組ませた狙いは一つは先ほど言った他種族との交流を自分たちが前に立った状態で自ら進んで行ってもらいたいという点です」
確かに、マティアやミアは俺やラナの陰に隠れていたから自分から外部の人と関わるようなことはしてこなかったか。ケルもこの街に来てからもあまり皆と自分から交流する感じではなかったし、一緒に警備にあたってる銀狼達ともあまり気さくに話しているところを見たことはないな。元は強大なケルベロスだと言うのに気が小さいというか、周りを気にし過ぎるというか。
「二つ目は協力をすることを覚えてもらいたいという点です。三名とも元から備えている個人の能力が高いがゆえに戦いでは連携を取ろうとしません。ケルベロスさんはまだ人の姿と契約による進化で得た力のコントロールになれていないというのもありますが」
言われてみれば、ミアは単騎特攻大好きの戦闘バカだし、マティアは考えることが苦手だからデカい魔法1発でドーンとしたがるし、ケルは力を抑制することを気にしすぎて遠慮している節があるか。
ラナはみんなのことをほんとよく見てるんだな。
流石長年ラミア族長をやってきただけのことはあるな。
「そして最後に、エルフ族の里に力を示すためです。あの三名は個人の能力は高いです。なので戦闘を見れば非力な人間族という考えをかき消してくれるでしょう。少数で向かわせることによって、圧倒的な実力を見せておけば今後交易で対等な条件を出しても通りやすいはずです。初めは誰かさんが……ろくに交渉もせず、あっさりと 食料を渡してしまいましたからね?」
ラナはそう言いつつイザの方を見た。目は笑っているが明らかに笑っていないのが分かる。
「ご、ごめんなさい」
「今後は下に見られるような軽はずみな交渉は厳禁です。私がこの街の外部交渉担当に選ばれたからには、どんなところとでも対等に交渉できるアンダーグラウンドを確保して、この街が損をしないためにしっかり管理させていただきます♪」
イザはラナを交渉役に任せてほんとによかった。と思ったと同時に恐怖を感じた。
今後は適当な約束を取り付けないように慎重に決断しようと心に決めた。
「今回のトレント討伐でそんなに考えることがあるとは、流石ですねラナさん!」
銀牙は能天気でうらやましい。と思うイザだった。
そして四日後、討伐に向かっていた者たちが帰ってきた。
「ただいま戻りました!無事エンシェントトレントを討伐完了しました」
ミアが出迎えの皆の前に着くなり報告した。
「みんな無事みたいだしよかった。んじゃ詳しい報告は中で聞こうか」
「それがその……――」
ミアが言葉に詰まりながら後ろを振り返るので、視線の先を見ると、エルフ族が一人や二人ではなくかなりの数同行してきていた。
「え?この方達は……?討伐の礼を伝えに来たにしては多すぎるよな。これはいったいどういう状況なの?」
「実は――」
ミアの話を聞くとエンシェントトレントは1日もかからずに討伐は完了したそうだが、エルフ族が元々西の森に住んでいたのはトレントの封印を守るためだったらしく、その必要がなくなればわざわざそんな僻地で不便な暮らしをする理由も無いということで。
里の皆を受け入れて欲しいと言われたそうだ。
イザとラナはそれを聞いて頭をかかえた。
そしてゆっくりとラナが口を開いた。
「はぁ……ミアさん?」
「はい?」
「何故私かイザ様に先に一報を入れなかったのですか?」
「イザ様ならきっと全員快く受け入れるだろうと思いまして!」
ミアに悪気が無いのは分かるが上と報連相出来ないのは組織としてまずいな。
そう思いながらラナの方を見ると、明らかに怒っていた。
「ミアさん。確かにイザ様ならその申し出に対して首を縦に振るでしょう。で す が」
ラナの圧力にようやく怒られているのを理解したミアがおろおろし始めた。
「受け入れるにしても来る日時の報告は?エルフの方の人数は?その方達の住居は?食事の支度もありますよね?エルフの里の長の方とイザ様とでまず今後トラブルが起きないように取り決めや相談すべきことも山ほどありますよね?」
矢継ぎ早のラナの指摘にミアは戸惑っていた。
「そんなにミア殿を責めないでいただけませんか」
そんなミアに助け船を出したのはエルフの族長だった。
「申し遅れました。私はエルフ族を束ねております。アルウェンと申します。我々の受け入れをお願いしにまいりました。ミア殿には問題ないだろうと聞いておりましたが、さすがに街の長に筋も通さずに話を進めるのはいかがなものかと思い同行させていただきました次第です」
「いやいや、先ほどはお見苦しいところをお見せいたしました。ここではなんですのでお部屋をすぐに用意いたします。アルウェン様こちらへ。エルフ族の方からも数名同席を願います。ミア達も同席してください。銀牙さん他のエルフの皆様をホールの方へ案内して、街の皆にもてなす準備をするように伝えていただけますか」
こうしてイザとラナ、アルウェンとエルフ族の男性二名、それに討伐に向かった三名と給仕兼護衛のセバスも含めた9人で話を聞くこととなった。
「まず急に押しかけた我々を受け入れ、もてなして頂いたことに感謝いたします。こちらは里では一番の腕利きのエラルド。その隣は里で一番の知者アーヴェイン」
「どうも、エラルドと申します。そちらのお三方やハルピュイアの方々の足元にも及びませんでしたので腕利きという紹介は恥ずかしいのでやめていただきたいものです」
「紹介に預かりましたアーヴェインと申します。よろしくお願いします」
「俺はこの街の長をしているイザです。そしてこちらは交易担当のラナ。皆さんをもてなしている者はセバスです」
全員が挨拶を済ませたところでラナが話を切り出した。
「それで、エルフ族の皆様をこの街で受け入れてほしいとの話を先ほど伺いましたが」
「はい、単刀直入に申し上げます。どうか我々もこの街で一緒に暮らされていただけないでしょうか」
「先ほどミアから少し聞きましたが、詳しい理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ええ、先ほどミア殿がおっしゃられた通り、エンシェントトレント亡き今、我々にはあの森を守る理由はなくなりました。我々は初代里長の意思を継ぎ、エンシェントトレントが暴れ出さないように封印を守り続けてきたのですが、かの森は物資も乏しく、周囲は険しい山と川に囲まれた限られた土地でして。里を離れるものも後を絶ちませんでした。近年はエラルド以外の腕利きももう里には少なく、タイラントボアなどの強力な魔物の恐怖におびえる生活をしています。先日のお三方の戦いぶりを拝見し、この街の方達と共生出来れば我々も安全に暮らせるかもしれないと思い願い出た次第です」
「なるほど。確かに私たちの村では魔物の脅威は在りません。エルフの方々の事情も理解しました。ですが、ただで受け入れるつもりはありません」
「この街は我々に何をお望みでしょうか」
「まずは労働力です。そしてエルフ族の方は長命ですので教養高い方も多いと思いますので、読み書き等を教えていただける方も欲しく思います。最後に調和です。失礼を承知で申し上げますが、エルフ族の方は他種族を下に見る方が多いとお聞きします。私も大国の人の街に居た際は迫害を受けたこともあります。この街は多種族が住む街ですがみな平等に種族格差なく暮らしております。その調和を乱さず種族意識を持たずに暮らすこと。労働力の提供と教育事への従事、そして全種族平等意識を持った調和。この3点が条件になります」
ラナの話を受けてアルウェンは少し考え込んだ。
「……わかりました。労働力の提供と知識提供や指導は問題なく思います。3点目も以前の我々ならば中には厳しい反論を言うものも居たかもしれません。ですがエンシェントトレントの討伐の一件で人間族の方でもこれほどの強者が居たと知りほとんどの者が考えを改めたはず。我々も目を光らせるつもりではありますが、もし意にそぐわない発言や行動を示すものが現れた場合厳正な処罰を下して頂いて構いません」
「わかりました。では最後にイザ様なにかありますか?」
「そうだな。俺はみんなで分け隔てなく楽しく暮らしたいと思ってこの街をつくったから。そこだけを守ってほしい。それと、ここで暮らすならばあとでわかることだから先に言っておくけど。先ほど人間族と言っていたが、討伐に向かった三人は厳密には人間族じゃないんだ」
イザは三人の方を見る。
まずミアは口を開いた。
「私はイザ様との契約により、ラミア族から進化した元亜人族です」
三人の顔がそれを聞いて固まった。
「マティアはエーテロイド。人間じゃない」
続けてケルベロス。
「俺は元魔界の魔物ケルベロスです。イザ様との契約でこの姿になりました」
アルウェン達は予想外過ぎる三人の正体に言葉を失っていた。
「……」
エルフの知者アーヴェインが口を開いた。
「あ、あの……ケルベロスというと100年ほど前にニルンハイムの王都で暴れまわったのち、魔女アルマに封印されたという……」
「そう、そのケルベロス。名前長いから俺はケルって呼んでる」
「なんと……魔物の進化ですか……実に興味深い……!」
「魔物からの進化なら、あとはこの街では銀狼族は皆進化して暮らしてるぞ。あとはアラクネとハーピィとオーク。皆進化してるから元の種族の姿じゃないけどね。あ、それと一人だけエルフ族もいます」
「エルフ族ですか?」
「はい、リーンっていうんですけど――」
イザが言い切る前にエルフの三人が反応した。
「なっ!!!毒妖精が!?」
あー、そういえばエルロンも初見のときリーンをそう呼んでたな……。
あいつ一体里で何をしでかしたんだか……。
「あー、リーンから里を追い出されたって話も聞いてます。ですが、この街ではリーンの方が先住者です。邪険にしないと約束してください」
「あの子はこの街では問題を起こさずに暮らせているのですか……?」
んー。初日いきなり毒霧事件起こしてたけど、言わない方がよさそうだな、はは。
「まぁ。特に問題なく過ごしていますよ」
「そうですか、わかりました。問題が無いのであれば同族が居るのは嬉しい限りです」
こうしてエルフ族の受け入れも話がまとまった。
「んじゃこれからよろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
今来ているエルフ族は50名程で、まだ里の方に100名程残っているらしい。
直ぐには住居の準備も出来ないので暫く待ってもらうことにして急いで住居を増やすことになった。
エルフ族は家族で暮らす者が多いそうなので、家族ごとに家をつくることにした。
完成するとまるで住宅展示場のように、同じ形の家が連なり街という雰囲気になってきた。
かなり住民も増えたので商店などの施設なども作ることとなった。
居住区の中心辺りに
リーンが営む薬局。
エルド達の鍛冶屋兼武器防具屋。
アラクネからアトラクに進化した者達の被服店
エルフ族の営むパン屋と軽食屋
ハルピュイア達が営む八百屋。
銀狼達が営む肉屋
をそれぞれ設けた。
店舗が出来ると一気に街として発展してきたように思える。
作業中にメンバーに不安を感じていた銀牙がイザに声をかけてきた。
「イザさん?トレントの討伐の件なんですが……あのメンバーで本当に大丈夫なんですか?」
銀牙が不安になるのも当然だ。
メンバーについては俺も不安だからだ。
「ケルを行かせたのは俺の案なんだよ。だけど心配するのは無理ないな。ミアはともかく、マティアとケルは人の常識もまだあまり知らないからなぁ。エルフとうまくやれるか……」
唯一ましと思われるミアも戦闘となると楽しさが勝って周りが見えなくなるところがあるが……
「その疑問には私がお答えしましょう」
ラナが話を聞いていたらしい。
「正直この街のものならエンシェントトレントと言えど誰が行ったとしてもあまり遅れを取る者はいないでしょう。ですので保険で真面目なハルピュイアの方々を付けたうえで、現状一番世間知らずで他種族との交流に不安を感じる三名を組ませました」
うわー。結構ラナって過激な教育するよな……。
子供が出来たら絶対スパルタママになりそう。
「イザ様どうかされましたか?」
イザの不敬な勘繰りを察したのかラナが声をかけてきた。
「い、いや!なんでもないよ。続けてくれ」
「三名を組ませた狙いは一つは先ほど言った他種族との交流を自分たちが前に立った状態で自ら進んで行ってもらいたいという点です」
確かに、マティアやミアは俺やラナの陰に隠れていたから自分から外部の人と関わるようなことはしてこなかったか。ケルもこの街に来てからもあまり皆と自分から交流する感じではなかったし、一緒に警備にあたってる銀狼達ともあまり気さくに話しているところを見たことはないな。元は強大なケルベロスだと言うのに気が小さいというか、周りを気にし過ぎるというか。
「二つ目は協力をすることを覚えてもらいたいという点です。三名とも元から備えている個人の能力が高いがゆえに戦いでは連携を取ろうとしません。ケルベロスさんはまだ人の姿と契約による進化で得た力のコントロールになれていないというのもありますが」
言われてみれば、ミアは単騎特攻大好きの戦闘バカだし、マティアは考えることが苦手だからデカい魔法1発でドーンとしたがるし、ケルは力を抑制することを気にしすぎて遠慮している節があるか。
ラナはみんなのことをほんとよく見てるんだな。
流石長年ラミア族長をやってきただけのことはあるな。
「そして最後に、エルフ族の里に力を示すためです。あの三名は個人の能力は高いです。なので戦闘を見れば非力な人間族という考えをかき消してくれるでしょう。少数で向かわせることによって、圧倒的な実力を見せておけば今後交易で対等な条件を出しても通りやすいはずです。初めは誰かさんが……ろくに交渉もせず、あっさりと 食料を渡してしまいましたからね?」
ラナはそう言いつつイザの方を見た。目は笑っているが明らかに笑っていないのが分かる。
「ご、ごめんなさい」
「今後は下に見られるような軽はずみな交渉は厳禁です。私がこの街の外部交渉担当に選ばれたからには、どんなところとでも対等に交渉できるアンダーグラウンドを確保して、この街が損をしないためにしっかり管理させていただきます♪」
イザはラナを交渉役に任せてほんとによかった。と思ったと同時に恐怖を感じた。
今後は適当な約束を取り付けないように慎重に決断しようと心に決めた。
「今回のトレント討伐でそんなに考えることがあるとは、流石ですねラナさん!」
銀牙は能天気でうらやましい。と思うイザだった。
そして四日後、討伐に向かっていた者たちが帰ってきた。
「ただいま戻りました!無事エンシェントトレントを討伐完了しました」
ミアが出迎えの皆の前に着くなり報告した。
「みんな無事みたいだしよかった。んじゃ詳しい報告は中で聞こうか」
「それがその……――」
ミアが言葉に詰まりながら後ろを振り返るので、視線の先を見ると、エルフ族が一人や二人ではなくかなりの数同行してきていた。
「え?この方達は……?討伐の礼を伝えに来たにしては多すぎるよな。これはいったいどういう状況なの?」
「実は――」
ミアの話を聞くとエンシェントトレントは1日もかからずに討伐は完了したそうだが、エルフ族が元々西の森に住んでいたのはトレントの封印を守るためだったらしく、その必要がなくなればわざわざそんな僻地で不便な暮らしをする理由も無いということで。
里の皆を受け入れて欲しいと言われたそうだ。
イザとラナはそれを聞いて頭をかかえた。
そしてゆっくりとラナが口を開いた。
「はぁ……ミアさん?」
「はい?」
「何故私かイザ様に先に一報を入れなかったのですか?」
「イザ様ならきっと全員快く受け入れるだろうと思いまして!」
ミアに悪気が無いのは分かるが上と報連相出来ないのは組織としてまずいな。
そう思いながらラナの方を見ると、明らかに怒っていた。
「ミアさん。確かにイザ様ならその申し出に対して首を縦に振るでしょう。で す が」
ラナの圧力にようやく怒られているのを理解したミアがおろおろし始めた。
「受け入れるにしても来る日時の報告は?エルフの方の人数は?その方達の住居は?食事の支度もありますよね?エルフの里の長の方とイザ様とでまず今後トラブルが起きないように取り決めや相談すべきことも山ほどありますよね?」
矢継ぎ早のラナの指摘にミアは戸惑っていた。
「そんなにミア殿を責めないでいただけませんか」
そんなミアに助け船を出したのはエルフの族長だった。
「申し遅れました。私はエルフ族を束ねております。アルウェンと申します。我々の受け入れをお願いしにまいりました。ミア殿には問題ないだろうと聞いておりましたが、さすがに街の長に筋も通さずに話を進めるのはいかがなものかと思い同行させていただきました次第です」
「いやいや、先ほどはお見苦しいところをお見せいたしました。ここではなんですのでお部屋をすぐに用意いたします。アルウェン様こちらへ。エルフ族の方からも数名同席を願います。ミア達も同席してください。銀牙さん他のエルフの皆様をホールの方へ案内して、街の皆にもてなす準備をするように伝えていただけますか」
こうしてイザとラナ、アルウェンとエルフ族の男性二名、それに討伐に向かった三名と給仕兼護衛のセバスも含めた9人で話を聞くこととなった。
「まず急に押しかけた我々を受け入れ、もてなして頂いたことに感謝いたします。こちらは里では一番の腕利きのエラルド。その隣は里で一番の知者アーヴェイン」
「どうも、エラルドと申します。そちらのお三方やハルピュイアの方々の足元にも及びませんでしたので腕利きという紹介は恥ずかしいのでやめていただきたいものです」
「紹介に預かりましたアーヴェインと申します。よろしくお願いします」
「俺はこの街の長をしているイザです。そしてこちらは交易担当のラナ。皆さんをもてなしている者はセバスです」
全員が挨拶を済ませたところでラナが話を切り出した。
「それで、エルフ族の皆様をこの街で受け入れてほしいとの話を先ほど伺いましたが」
「はい、単刀直入に申し上げます。どうか我々もこの街で一緒に暮らされていただけないでしょうか」
「先ほどミアから少し聞きましたが、詳しい理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ええ、先ほどミア殿がおっしゃられた通り、エンシェントトレント亡き今、我々にはあの森を守る理由はなくなりました。我々は初代里長の意思を継ぎ、エンシェントトレントが暴れ出さないように封印を守り続けてきたのですが、かの森は物資も乏しく、周囲は険しい山と川に囲まれた限られた土地でして。里を離れるものも後を絶ちませんでした。近年はエラルド以外の腕利きももう里には少なく、タイラントボアなどの強力な魔物の恐怖におびえる生活をしています。先日のお三方の戦いぶりを拝見し、この街の方達と共生出来れば我々も安全に暮らせるかもしれないと思い願い出た次第です」
「なるほど。確かに私たちの村では魔物の脅威は在りません。エルフの方々の事情も理解しました。ですが、ただで受け入れるつもりはありません」
「この街は我々に何をお望みでしょうか」
「まずは労働力です。そしてエルフ族の方は長命ですので教養高い方も多いと思いますので、読み書き等を教えていただける方も欲しく思います。最後に調和です。失礼を承知で申し上げますが、エルフ族の方は他種族を下に見る方が多いとお聞きします。私も大国の人の街に居た際は迫害を受けたこともあります。この街は多種族が住む街ですがみな平等に種族格差なく暮らしております。その調和を乱さず種族意識を持たずに暮らすこと。労働力の提供と教育事への従事、そして全種族平等意識を持った調和。この3点が条件になります」
ラナの話を受けてアルウェンは少し考え込んだ。
「……わかりました。労働力の提供と知識提供や指導は問題なく思います。3点目も以前の我々ならば中には厳しい反論を言うものも居たかもしれません。ですがエンシェントトレントの討伐の一件で人間族の方でもこれほどの強者が居たと知りほとんどの者が考えを改めたはず。我々も目を光らせるつもりではありますが、もし意にそぐわない発言や行動を示すものが現れた場合厳正な処罰を下して頂いて構いません」
「わかりました。では最後にイザ様なにかありますか?」
「そうだな。俺はみんなで分け隔てなく楽しく暮らしたいと思ってこの街をつくったから。そこだけを守ってほしい。それと、ここで暮らすならばあとでわかることだから先に言っておくけど。先ほど人間族と言っていたが、討伐に向かった三人は厳密には人間族じゃないんだ」
イザは三人の方を見る。
まずミアは口を開いた。
「私はイザ様との契約により、ラミア族から進化した元亜人族です」
三人の顔がそれを聞いて固まった。
「マティアはエーテロイド。人間じゃない」
続けてケルベロス。
「俺は元魔界の魔物ケルベロスです。イザ様との契約でこの姿になりました」
アルウェン達は予想外過ぎる三人の正体に言葉を失っていた。
「……」
エルフの知者アーヴェインが口を開いた。
「あ、あの……ケルベロスというと100年ほど前にニルンハイムの王都で暴れまわったのち、魔女アルマに封印されたという……」
「そう、そのケルベロス。名前長いから俺はケルって呼んでる」
「なんと……魔物の進化ですか……実に興味深い……!」
「魔物からの進化なら、あとはこの街では銀狼族は皆進化して暮らしてるぞ。あとはアラクネとハーピィとオーク。皆進化してるから元の種族の姿じゃないけどね。あ、それと一人だけエルフ族もいます」
「エルフ族ですか?」
「はい、リーンっていうんですけど――」
イザが言い切る前にエルフの三人が反応した。
「なっ!!!毒妖精が!?」
あー、そういえばエルロンも初見のときリーンをそう呼んでたな……。
あいつ一体里で何をしでかしたんだか……。
「あー、リーンから里を追い出されたって話も聞いてます。ですが、この街ではリーンの方が先住者です。邪険にしないと約束してください」
「あの子はこの街では問題を起こさずに暮らせているのですか……?」
んー。初日いきなり毒霧事件起こしてたけど、言わない方がよさそうだな、はは。
「まぁ。特に問題なく過ごしていますよ」
「そうですか、わかりました。問題が無いのであれば同族が居るのは嬉しい限りです」
こうしてエルフ族の受け入れも話がまとまった。
「んじゃこれからよろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
今来ているエルフ族は50名程で、まだ里の方に100名程残っているらしい。
直ぐには住居の準備も出来ないので暫く待ってもらうことにして急いで住居を増やすことになった。
エルフ族は家族で暮らす者が多いそうなので、家族ごとに家をつくることにした。
完成するとまるで住宅展示場のように、同じ形の家が連なり街という雰囲気になってきた。
かなり住民も増えたので商店などの施設なども作ることとなった。
居住区の中心辺りに
リーンが営む薬局。
エルド達の鍛冶屋兼武器防具屋。
アラクネからアトラクに進化した者達の被服店
エルフ族の営むパン屋と軽食屋
ハルピュイア達が営む八百屋。
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をそれぞれ設けた。
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