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2章

53話 18代目国王

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全てが終わり王都は復興を開始していた。

不足しそうな食料等の物資の支援をするためにもイザたちは一度戻って村で採れた作物を持ち込み支援を行った。
数日後には中央街の瓦礫撤去もほぼ完了し、今日にも再建設にかかれそうだ。
住民はもちろん。ギルドをあげて冒険者たちも復興に参加していた。建設には人手もいりそうなのでエルド達も連れてきている。

瓦礫撤去を手伝いながらイザとラナは会話をしていた。
「アルマさんに会いに来ただけのつもりがとんでもないことに巻き込まれちゃったよなぁ」
「ですが一つの国を守ることができたのでよかったのではないでしょうか。イザ様を知るこの国の者は王も含めて皆大変感謝しておりましたよ。私達も鼻が高いです。ふふふ」

「そうですよ!イザさん達が居なかったらこの国は今頃……ランディスの……兄の手に落ちていたかもしれません……」
ガルは辛そうな顔をしている。

「ガル……ってあれ?お前今日王に呼ばれてたんじゃなかったか?」
「あ……忘れてました!!」

ガルは慌てて王城後の方へ走っていった。

「ふふふ、しっかりしたように見えましたがガルさんはやはりガルさんですね」
ラナはそんなガルの姿をみて笑った。

「ははは、そうだな。でもあいつは変わったよ。もう森で初めて会った頃の勢いだけの冒険者とは違う」

「ええ……」
二人は微笑みながらガルの背中を見送った。


王城はいまだ復興が手つかずのままだった。
バロン王が城の復興より街の復興を最優先せよ。と国民に訴えたからだ。

数日前――
中央街の復興が進み始めたころ、中央広場に人を集めて王が辞任を表明したことで国民は騒然としていた。


そして今日。
新たな王を選定するために王城前に国民は集まっていた。
バロンは民衆の前に出た。
「国民の皆、こんな状況の中、手を止め集まってくれたことに感謝する!突然の辞任、すまないと思っておる。だが今回の事件、責任の一端は私のもある。この国を新たに立て直すためにも新しい王を決めるべきだと私は思っている」

民衆はざわついていた。

「私も……王の時には余計な波風を立てぬように見て見ぬふりをしてきたこともある。今後この国がよりよい国になる為にも、ここでそれらすべてもはっきりとさせておこうと思う……」
バロンは少し黙ると覚悟を決めて口を開いた。

「この国は1000年前ラグナ王が起こした国家だ。その意思を継ぎ、いまでも万種調和国家とうたっている。しかしその実、獣人種以外への差別意識は未だに根強く、裏で亜人種への差別や奴隷制度も残っていることは知っている。皆も胸に手を当てて考えてほしい。思い当たることがあると思う。私もそうだ……余計な波風を立てぬようにと思ってみて見ぬふりをしてきた……。我々は獣人族の誇りという無駄なプライドを守るために、姿かたちが違うだけで種族に勝手に上下格差をつけようとしている。だがそれは間違っている。皆もそれは薄々気が付いているはずだ」

「でも……魔物から進化したっていう亜人なんて信用できるか!」
民衆から声が上がった。

「その考えが間違っていると言っているんだ。種族が違うから、見た目が違うからなんだ。魔物から進化した?その証拠はどこにある?獣人は人間から進化した?その証拠はどこにある!所詮獣人が己の種族を守るために言い聞かせてきた言葉に過ぎない」

「……今回事件からこの国を救ってくれた者たちが居る。その者たちのほとんどが人間種やエルフ、更に亜人種者たちだ」
バロンの言葉を聞いて民衆はどよめいている。

「その者たちは本来助ける義務もないこの国を命を懸けて守ってくれた。ここにいる者たちにその勇気があるか?あの強大なケルベロスを見て、立ち向かえる者がここに何人いる?獣人としての誇り?そんなものは自分の守るための言い訳にすぎぬと知れ」

民衆はバロンの言葉を聞いて静まり返っていた。

「だがあの状況でもケルベロスに立ち向かった獣人族もいた。その者は先ほど言った様々な種族の者たちと協力してこの国を救うためにケルベロスにさえも立ち向かい、更には敵の首魁を追い詰めるまでに至った」

「一体だれが……」
民衆は再びざわつき始めた。

「その者をここへ呼んでいる。ガルよ。前に出よ」

バロンに呼ばれて気まずそうにガルは前に出てきた。

「ガルってあのラグナ家三男の?」
「家督を継げないからって冒険者になったと聞いてたけど?」
「私もそう聞いてたわ。なんでも国を出てたって話も――」

「しずまれ!この者はかの者たちと協力してこの国を救うために立ち向かってくれた。家柄や家督など関係ない。ラグナ家のガルではなく、一人の人としてこの国を救ってくれたのだ。私はこの者をこの国の英雄としてたたえる……そして次の王に推薦する。私には……いや、歴代の王にも出来なかった本当の万種調和を果たせるのはこの者しか居ないと私は思っている。ガルよ何か言いたいことはあるか?」

「……正直俺は王にと言われてもピンときません。今までラグナの名からも逃げ、冒険者として生きてきた身です。ですが冒険者として活動する中である方達と出会い俺の中で考えが変わっていきました。初めは俺も獣人種以外を偏見の目で見ていました。しかしその方達はどれだけ姿かたちが違えど、同じ《人》として対応していました。力の差や外見の違いなど気にもしていません。そんな彼らと行動を共にしていくうちに俺の考えも次第に変わっていきました。そして種族の差をいちいち気にするなど愚かな考えだと思うようになったのです」

民衆はガルの演説を聞き入っていた。

「どんな種族でも互いに歩み寄ることが出来れば彼らと同じように手を取り合えるはずです。種族によって得意不得意があり、出来ることと出来ないことはあるでしょう。しかし協力することで互いの出来ない部分は補うことができます。この国は世界でも唯一の万種調和をうたっています。本当の意味でそれを実現するためにはもっと歩み寄って互いの種族を知る必要があると思います」


ガルは少し間をおいてバロンを見て頷いた。そして再び話始めた。
「俺がもし王になった暁には、まずは亜人種への奴隷制度の完全廃止。そして受け入れられぬ者もいるかもしれないので獣人以外の種族を守るために、他種族への強い差別には罰則を設けたいと思っています。今まで不文律として獣人族を守る風潮がありましたが、これからは逆です。王城へ雇い入れる種族も獣人種に限定しません。有能な者であればどんな種族でも雇い入れるつもりです。都市内でも同様に全ての種族に格差なく仕事を与えます。そしてラグナ家の貴族制も廃止します。初代王の血族だから厚遇するなどという風習は、先ほどの獣人族の奢りと同じ悪しき風習です。力や権利や権威は人の目を曇らせ悪しき方へ向かわせてしまいます」
ガルは二人の兄を思い出しながら寂しい顔をしながら語っていた。


「それでもこの俺を王にしていいと思ってもらえるなら……俺は王としてこれからこの国を良くしていくために努力していきます」

民衆は皆黙っていた。
ガルの言うことはもっともだが、それが逆に獣人としてプライドを持って生きてきた者たちにとっては深く刺さる内容だったからだ。

「私は賛成!」
「同じく賛成します」
「ですね」
ナック達三人が手を挙げた。

それに続いて迷っていた者たちもどんどん賛成していった。
そしてガルに対して大きな歓声があがった。

「決まりだな。反対する者も居ないようなのでこれからガル=ラグナを18代目ニルンハイム王と認める。初めは分からないこともあるだろう。私も今しばらく国を支える手助けをさせてもらいます。ニルンハイムをよき国にしてくれるとこを期待していますぞ。ガル王」
バロンはそう言うと手を差し出した。
「そんなっ!敬語は辞めてくださいよバロン様……これからもよろしくお願いします」

こうして二人が手を交わし大きな歓声が王都内に響きわたった。

後ろで見ていたルナとガラテアは涙を流しながらガルに拍手を送っていた。
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