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2章

45話 側近ランス

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ラナ達潜入組は首飾りで操られているふりをして息をひそめていた。

リーンが待つのに飽きたようで小声でラナに話しかける。
「ねぇ。いつまでこうしているの?こっちから動いちゃダメなの?」
「いま私たちが動くと、ここに居る人達にかなりの被害が出る恐れがあります。敵に動きがでるまで待ちましょう。イザ様達がうまくいっていたら敵も焦って行動を起こすはずです」
「…そうね。あの人達ならもうここへ向かってきてるかもしれないわね。何なら敵幹部の一人や二人もうやっつけちゃってるんじゃないかしら?」
「ふふ、イザ様ならありえますね」
「……」
二人が話している横でミアは器用にも立ったまま寝ていた。



一方イザとエルロン
「へっくしょん!」
「おいおい、こんな時に風邪か…?」
「いや、大丈夫だ」

二人は墓地の地下から一直線に伸びる地下通路を駆け抜けていた。
暫く行くと大きな扉に差し掛かった。

「この先が敵の拠点か?」
「そうだといいんだがな。開けるぞ」

大きな扉をエルロンが開ける。
扉はかなりの重量なようで大きくきしむ音をたてながら開いていく。

部屋に入り二人は落胆した。
「なんだ、ただの小部屋か…」
「誰もいないな…物資や武器が沢山あるようだ。ここは倉庫か?」

「ええ、ここは備蓄倉庫になっております」
「!?」
二人は声のする方を即座に振り向くと距離を取って臨戦態勢を取る。

「素晴らしい反応です。流石はバティスを倒した方たちですね」
そこにはスーツ姿の魔人族と思われる男が立っていた。

魔人族の男は丁寧に自己紹介を始めた。
「イスカリオテ内ではランスという名を名乗らせて頂いております。以後お見知りおきを。そちらはイザさんとエルロンさんですね」
(妙な言い回しだな?イスカリオテ以外では別の名を名乗っているということか…?それにしてもこいつの魔力…いまはかなり抑えているようだが明らかにバティスの比じゃないな)


「俺達のことは調査済みと言うことか」
「ええ、先日よりあなた方の動向は調査させていただいておりました。一つ私とも手合わせをお願いできませんか」
そういうとランスは微笑み軽く頭を下げた。

「望むところだ」
エルロンは弓を構えながらそう言い切る。

「しかしこの部屋では少々手狭、広いお部屋に案内いたします。私についてきてください」

「お前を信じてついていけというのか!イザさんこいつは罠だ!」
エルロンは余りにも冷静で紳士的な敵の態度に逆に違和感を感じ警戒を強めた。

「そう思われても致し方ありませんが、私はそういった無粋なことには興味ありません。私が興味あるのは…強者のみです」
イザを見ながらランスはそう言った直後、魔力が跳ね上がったのを二人は感じ取った。

イザは口元に微笑を浮かべながら答えた。
「狙いは俺ってことか。わかった、案内してくれ」
「あいつを信用していいのか!?」
「信用したわけじゃ。でも悪意は感じられない。奴の言葉に嘘は無いと思う」
「…わかった」
エルロンは渋々弓を収めた。
「だがお前に背中を預ける気はない、前を歩いてもらおうか」
「構いませんよ。ではこちらへ」

二人はランスに案内され通路を進み奥へと向かう。
ランスは敵である二人に完全に背を向け前を歩いているが全く隙が無い。
その様子を見て二人はこの男はバティスよりもかなり格上の存在だと認識した。

少し歩くとかなり広い部屋に到着した。
壁には多くの傷があるのが確認できる。
どうやらこの部屋は訓練場のようだ。

「私のわがままに付き合っていただき感謝いたします」
ランスは軽く会釈をした。

「でははじめようか!」
エルロンは弓を構えて臨戦態勢をとる。
しかしイザがエルロンの前に手を出してそれを制止した。
「エルロン。ここは俺一人で」
「なっ!俺も戦う!相手は魔人族なんだぞ!?」

「まぁ俺を信じてくれ」
「…わかった。危なそうだと思ったら手を出させてもらうからな?」

「ああ、それでいい」

イザは前に出てランスと向かい合った。
「もしかして…あなたは魔力を制限されておられませんか?」

二人はランスがそれに気が付いたことに驚いた。
「ふふ、その反応。私の感は当たりのようですね」
「ああ、こいつで魔力を抑制してるんだ」
イザは手にはめたグローブをランスに見せた。

「なるほど、初めて見る魔道具です。これは興味深いですね…」
ランスは魔力抑制グローブを見て感心している。

「でははじめようか」
「その魔道具を付けたままでよろしいので?」

「ああ、問題ないだろう?」
イザはにやりと笑った。
それを見てランスも笑い返した。
(どうやらこちらの意図も読まれていましたか)

「そうですね。ではこちらから行かせていただきます」

そういうとランスはいきなり周囲に無数の炎の剣を召喚してイザに飛ばしてきた。

「なっ!二重破棄!」
それを見てエルロンは驚いている。

イザにに無数の炎の刃が襲い掛かる。しかしイザの体の周囲ですべて停止し、消滅した。
体を見るとオーラのようなものを纏っているのが見える。イザは例の風魔法を纏っていたようだ。

「素晴らしい。この程度では微動だにしませんか。ではこれならどうでしょうか」

今度はランスは両手に魔力を集中させ地面に両手をついた。
直後床から尖った岩が無数に生え、イザに襲い掛かった。
流石に先ほどの魔法のバリアでは岩は防げないのでイザは風魔法を使い飛びのいて回避する。

(飛びのいた瞬間、足に風魔法を纏い追撃を避けるために上空で横に回避…ですか。魔法を掌以外で発現させるとは…流石に優秀ですね)

「では最後に、これを貴方ならどうさばくか…私に見せてください」
ランスは体全身に魔力を纏うと両手を上に掲げた。
すると巨大な黒い塊を精製した。

「なんだあれは…闇魔法…!?」
エルロンは見たことがない魔法に戸惑っている。

「半分正解です。これは闇魔法ですがその中でも特殊な重力魔法。私の一番得意とする魔法です。触れたらどんなものでも押しつぶす巨大な塊だと思ってください。ではいきますよ」
話し終えるとランスはイザに向かって巨大な重力球を放った。

イザは右手を前に出して受け止める姿勢を示した。
「!!奴の話を聞いてなかったのか!?触れたら危険だ!避けろイザさん!!」

(いえ、貴方は避けませんよね。はじめから私の考えに気が付いていた様子。見せてもらいましょうその力の深淵を)

重力球はイザの間近まで迫っていた。
周囲の岩や瓦礫は重力球に触れると一瞬にして砂と化していた。
イザは手を掲げたまままだ動かない。

エルロンはもうだめかと思い目を閉じた。

イザに直撃したと思った次の瞬間。
重力球は大爆発を起こした。
爆風を必死でこらえ、おそるおそるエルロンが目を開けると。重力球は消え、無傷のイザがそこには立っていた。

「一体どうなったんだ…?」
ランスもどうやって重力球を消したのか分からなかったようで腕組みをしながら顎に手をあて考えていた。
「…私にも説明をお聞かせ願えますでしょうか」

「ふぅ。結論から言うと今、俺は魔法を使ってない」
「どういうとこでしょうか…」

「重力球ってことはブラックホールみたいなものだろう」
「ぶらっく…ほーる?」
ランスは聞きなれない単語に首を傾げた。

「えーと、つまり何でも重力で吸い寄せる穴ってこと。火や水みたいな魔法を発現させても重力の影響を受けるからおそらくどんな魔法でも無意味。空属性で転送を使えば処理できなくも無いだろうけど、もし空間自体も重力で歪められるとしたら失敗する可能性がある。まぁ今やったことがうまくいかなかったら、一か八かゲートを使って何処かに転送しようとは思ったけど、うまくいって良かった」

「あの一瞬で私の魔法の特性を見極めたことは流石です。ですが魔法を使わずに私の魔法をどうやって相殺したというのですか…?」

「重力球って言っても所詮は魔力で作り出したものだろう?なら極限まで魔力を送ればいずれ魔力が飽和して内部から崩壊するんじゃないかと思ってね」

(確かに…私の魔法の許容限界を超える力が加われば理論的には可能かも知れませんが…それにはとてつもない魔力が必要なはず…。それに…思いついたとしても確証がない中でそれを実行する覚悟と判断力…私が思っていた以上の方ですね。実に興味深い…ふふふ)

「…恐れ入りました。私の完敗です」
ランスは会釈をしつつそう言うと奥の扉へと歩き出し始めた。

「お、おい!逃げるのか!?」
「私の目的は達しました。やり残したことがあるのでここで失礼させてもらいます」

エルロンが止めに行こうとしたが、イザがそれを抑制した。
「行かせてやれ」
「なっ!?敵の幹部を討つチャンスなんだぞ!?みすみす逃すなんて!」
当然だが、エルロンは納得がいかない様子。
だがイザが黙って見送っているので渋々エルロンも納得した。

「では、私はこれで。イザ様また後程お会いできるのを楽しみにしております」
そう言うとランスは扉を開け、去って行った。

ランスが去ってから二人は奥へと進み始めていた。
「なんであいつをそのまま行かせたんだ?」
「あいつは俺達を試しに来ただけだろう。あれだけの魔法を放つときでさえも敵意も殺意をまるで感じられなかった」
「そうかもしれないが…だからといって…」
(それにあいつからは悪意も感じられなかった。もしかすると…)


二人は大部屋を出て再び奥へ進みだした。

奥へ進む道中で二人は通路の壁にあるドアを見つけたので入ってみることにした。
部屋の中には大量に積まれた箱が所狭しと積み上げられている。
奥にはもう一つ部屋があるようだ。
ひとまず箱の中身を確認してみると上質な織物や羽細工ばかりが入っていた。
手に取ると織物からは微かに魔力も感じられた。

「これらは組織の資金源だろうな。この量から察すると街に流通している織物の大半はここで作られていたんだろう。おそらく…アラクネ達はこれを造らされていたんだろうな。微かにだがあいつらの魔力を感じる」

奥の部屋を覗くとアラクネの体躯に合わせて拵えたと思われる機織り機が所狭しと並べられていた。
イザの予想は的中したようだ。

こんな狭いところで何年もアラクネ達は労働を強制させられていたのだと思うとイザは憎しみがこみ上げてきた。
それと同時に一つ疑問も浮かんでいた。

(アラクネ達が作る織物や、他にも従属させた多くの者の手を使って長期間資金を集めていたのか。ただ魔道具の首飾りを揃える為だけにしては準備期間の長さから見てもおかしい。裏で手回しするのに多少の金は必要だろうが、これほど長い期間をかけて準備し大量の資金を集めていた理由はなんだ…?)

今考えても答えは出ないのでひとまず部屋を出て先に進むことにした。
少し進むとまた扉が見えてきた。


今度は鉄の扉だ。
エルロンが開けようとしたがあちら側から鍵が掛けられているらしく、びくともしなかった。
「壊しますか?」
「いや、ここで大きな音を出すのもまずいだろう。いまはおいておこう」

イザがそう言い、先を急ごうとしたとき
『ガチャン』
と音を立てて、扉が開き始めた。
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