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2章

41話 試作武器カドゥケウス

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イザ達はゲートの魔法で村に帰還した。

ドワーフ達と銀狼達がそれを出迎える。
はじめはアラクネ達を見て戸惑っていたが、説明するとすぐに受け入れてくれた。
そして王都での皆の現況を説明した。

「なるほどなぁ。魔人族まで現れてくるたぁ中々厄介な話になってるじゃねぇか」
「そうだな…。まぁでもこうしてアラクネ達が仲間になってくれたことで向こうの情報は十分確保できることだし順調順調!」

エルドやエルロンはイザが空元気で笑っていると直ぐに気が付いた。
やはりイザはバティスを倒したことで初めて人を殺したことへの責任を感じているようだった。

エルドはイザに気分を変えてもらうために試作しているある物をイザに見せることにした。
「なぁ旦那?一つ見て欲しいものがあるんだが来てもらっていいか!」
「なんだ?」

エルド達に連れられて工房に向かう。

「こいつを見てくれ!」
エルドはそういうと布につつまれた大きな長物をイザの前に差し出した。

「これは…?」
「まだ試作段階で完成してはねぇんだが。旦那に渡しておこうとおもってな」
イザは何だかわからないがエルドに言われるがままに布を開いて中身を確認する。

するとそこには杖が入っていた。
「これは杖か?」
「ああ、ただの杖じゃねぇぜ?俺ら5人の技術の粋を集めて作った杖だ。旦那たちが以前持ち帰ってきた高純度の魔鉱石をベースにして持ち手の部分にはアダマント使用した特注品さ」

イザは杖を手に取ってみた。
「へー。何だかこの杖…握ると魔力を吸われているような…?」

「あー…そこがまだ制御出来てなくて常に魔力を吸い続けちまうからちょっと厄介なんだが…。試作段階なんで勘弁してくれ」
エルドは頭を頬を指でかきながら答えた。

「だがな、その杖は使用者の魔力を吸って先端に付いた魔石に蓄えることで強力な魔法を放つことができるようにしてある。あっちの壁をみてみてくれ」
エルドが指さす方を見ると工房の奥の部屋の壁が大きく破壊され壁一面がほとんどなくなっていた。
「え…あれなに?魔物でも襲って来たの?」

「いや、あれは俺らがその杖を造ったときに試しにストーンバレット、つまり小さな石弾の魔法を試し打ちをしてみた跡だ。魔力に乏しい俺らであの威力さ。どういう意味かわかるだろう?」

イザは手に持った杖を眺めて息をのんだ。
「この杖…俺やラナが使ったらとんでもないことになるってことか…?」
「限界まで魔力を込めるととんでもないことになるかも知れねぇが、旦那達のような大量の魔力を最大まで込めようとするとまだ杖の方が耐えきれなくて壊れちまうだろうな。今後耐久面と吸魔の調整はしていくつもりだが、今は武器が無いよりもましだろうから持っていってくれ。そんじょそこらの金属剣くらいには負けない硬度だから魔法を使わない状況でも役に立つと思うぜ」
「なるほど、ありがとう」

「今は試作段階だから見てくれもシンプルだし魔力を吸い続ける厄介な代物だが、その呪いのような効果にあしらえて、伝説の賢者が持っていたとされる杖の名を借りたんだ。その杖の名はこう呼んでくれ。カドゥケウス」
(カドゥケウスって神話では起きてるものを眠らせ寝ているものを起こすとか何とかって話の杖の名前だったよな…?まぁ確かにこの勢いで魔力を吸い続けられたら眠りそうだけど…)

「カドゥケウスか…いい名前だな。確かにさっきの戦いでは何とかなったが、魔法の武器を持った相手や各上相手だとあの戦法は使えなそうだしな。助かるよみんな!」


イザのその話をきいてずっと疑問に思っていたことをエルロンは尋ねた。

「なぁさっきのバティスとの戦いで槍を防いだり、巨大な魔法を跳ね返したあれってなんだんだ?また新しい合成魔法なのか?」

イザはあっさり答えた。
「いや、槍を防いだのはただの空魔法。魔法を返したのは合成はしたけどただの風魔法だよ」
「…は?」

エルロンは先ほどの光景を思い返しながら少し考えてみたがやはり納得がいかない。
「いやいや、やはりどう考えてもただの風魔法ではないだろう!攻撃を防いだのが空魔法というは…何となく分からなくもない…か…?だがあの魔法はただの風魔法で返せる大きさではなかったぞ!?それに倍ほどの大きさにして返していたじゃないか!」


「風魔法だよ?ただ、風魔法と風魔法を合成した風魔法だけど」
エルロンやドワーフたちは全員首を傾げた。

「風を起こす風魔法と風を留める風魔法を合成しただけさ」

皆が声を揃えて突っ込んだ。
『いやいやいやいや、意味が分からん!』

「風魔法と風魔法でなぜあんなことができるんだ?」
イザは両手に魔法を発現しながら説明を始めた。
「まずこっちが風が外に吹いている状態。こっちは風が内に吹いている状態。これを交互に何重にも重ねたんだ」

「何重にも重ねて何の意味があるんだ…?」

「風が外に向かう層と風が内に向かう層を何重にもすることで、強力な風が舞っている層と真空の層を無数に作り出してみたんだ。うまく調整して真空の層で火球を受けると、真空では火は消えるからそこで止まるだろう?そして威力が弱まったところで風の魔法で押し返す。更に風を適度に送り込むことで火の勢いを高めることができるから相手の魔法の威力を高めて返せたんだ」

『……』
全員あっけにとられて言葉も出なかった。

イザは頬を指でかきながら若干困りながら話を続ける。
「…火の性質を知っていたらそんなに不思議なことじゃないと思うけど…?」

「はぁ。聞いた俺が悪かった。イザさんの常識にはつい行こうとするのがそもそも間違いなんだ」
エルド達はエルロンの言葉に深く頷いて同意した。

(皆のこの反応…また俺変なこと言っちゃったのかな…)

工房での話を終えて杖を預かり再び皆と相談を始めた。
新たに武器を得たのでイザは満足していた。
エルドがイザに試作した武器を渡したことで少しイザの気は多少は紛れたらしい。
だがまだ話の節で時折顔に影を落としていた。

エルロンやドワーフ達はもちろん、先ほどの戦闘の結末を見ていたアラクネ達もイザが何を考え悩んでいるかを想像するのは簡単だった。

そこにアラクネの一人が声を発した。
「イザ様。私は心配するものおこがましいと思いましたが一つだけ言わせてください」

イザは黙ってアラクネの話に耳を傾けた。

「イザ様のおかげで我々は誰一人失うことなくこうして今生きています。不当な従属からも開放してもらい、こうして住むところまでも提供してもらっております。今まで亜人ということでずっと迫害を受けてきた我々を仲間と言っていただけたことも本当に…本当にうれしかったのです。バティスの言葉から察するに、今回生き延びていたとしてもいずれ我々は処分されていたと思います。イザ様のおかげで救われた命もある。ということを知っていてください」

アラクネの言葉でイザは心に重くのしかかっていた錘が少し軽くなったのを感じた。
「…ありがとう。俺の行動で救われた命もあるという言葉で少し気が楽になったよ」
「そ、そんな礼を言うのは我々の方ですっ!」

イザは確かに少し笑顔を取り戻したようだが。まだ少し影があるのをエルロンたちは感じていた。
だが今はそっとしておくことにした。


「よし、本題にはいろうか!」
イザはイスカリオテの情報をアラクネ達に確認し、知っていることは全て教えてもらった。
イスカリオテのボスはベルモッドというそうだ。
常にフードを被っていたので種族までははっきりとは分からないが背格好からみて魔人族か人間族もしくはエルフ族だろうとのこと。

そしてもう一人ベルモッドの側近のランスという魔人族の存在。
ランスは魔人族にしては珍しくあまり好戦的ではなく常に冷静。10年ほど前から強行されてきたアラクネ達の仕事に対してもあまり口を出しても来なかったそうだ。
それゆえほとんど接点もなく何を考えているのかもわからないので、どういう人物かあまり分からないらしい。

王都のとある家の地下と大聖堂の裏にある墓地付近、そして城内地下に敵の施設への出入口があることも教えてもらった。
攫って来た手練れたちは隷属の首輪をはめられベルモッド達の指示に従うようにしてあり、昨日までで既に100人ほど囚われていたらしい。
ナック達の容姿を説明して囚われていたか確認を取ってみたが見覚えがないらしい。
もし囚われているならばアラクネ達が関与していない別の部隊から攫われた可能性が高いそうだ。

そしてアラクネ族と同じように従属されて強制的に従わされている種族が他にも2種、ハーピィ族とオーク族もいるそうだ。

イスカリオテの拠点に入る経路も確認できたのでイザたちも拠点に突入する計画をはじめることとなった。




その頃
ベルモッドの自室にランスは現状を報告に来ていた。

「偵察に向かわせていたハーピィからの情報によるとどうやらバティスはやられたようです」
グラスを片手に報告を聞いていたベルモッドは手を止めた。
「あいつが…?」

「はい。どうやら敵の中にバティスをも上回る魔法の使い手が居たようで…」
「…ということはアラクネ達も…?」

「…おそらく」
「まぁいい。処分する手間が省けた。今ここでバティスを欠いたのは少々手痛いが、お前が居たら問題はないだろう」
(エルロンの他は冒険者になりたての人間と人狼族の獣人と聞いていたが…バティスをも上回る魔法の使い手か…ふふふ、興味深い…)

「奴らが正面からバティスを倒したとは思えないが、奴を討つほどの者ならばこちらの情報も得ている可能性もあるな。後手に回ると厄介だ。冒険者の確保はもういい、十分戦力は確保した。そろそろ王都を攻め落とすためにこちらから仕掛けるとしよう」
「…かしこまりました。すぐに行動に移ります」
「頼りにしているぞ」

ベルモッドはグラスの飲み物を傾けながら考えに耽っていた。
(バティスを討った者の存在は気掛かりだが…。計画がうまくいけば例えどんな強者であれど、人一人の力程度ではどうすることも出来まい。束の間の勝利に酔いしれるがいい。最後に勝利するのは俺だと言うことを分からせてやろう。ふふふ)


ベルモッドの部屋を出たランスは囚われた者たちが居る部屋に向かいながら微かに口元に笑みを浮かべていた。
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