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2章

28話 不穏な気配

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夕食時を過ぎてもガル達は帰ってこなかった。
イザは嫌な予感がしていた。

「流石に遅すぎるな、何かあったら念話するように伝えてたけど、連絡がない。こちらから呼びかけても反応がないし、サンドワーム程度にあいつらがやられるとは思えないけど、少し確認しに行ってくるか」

「では俺も同行しよう。こいつとの手合わせにもそろそろ飽きてきたところだ。たまには魔物相手に発散させてもらおう」
「あー!ずるい!では私も!」
「はいはい、んじゃ二人とも付いてきて」

「ラナとリーンはここで待機して、もし二人と銀狼達が入れ違いで戻ってきたら教えてくれ」
「了解しました。皆さんお気を付けて」

「んじゃ砂漠まで。ゲート!」
3人はイザのゲートで北の砂漠まで転移した。


「うう、流石に夜の砂漠は冷えるな…もう少し着こんでくればよかった」
「私の服をお貸ししましょうか?」
(いやいや気持ちはありがたいけどこの子のバカなの?お前の服ってそれ一枚じゃん?)
「いや、いいよ、これでなんとかなる」
そういうと火と風の魔法を組み合わせて体に暖かい空気の層を纏わせた。
二人にも寒さ対策の風を纏わせる
「これは…すごいですね」
「よし、手分けしてみんなを探すぞ!」


魔力感知の距離を最大まで広げてみたが森から砂漠の近辺までには弱い魔物以外の反応がない。
感知範囲を北側に絞ってみた。
すると砂漠の北方に大きな魔力の反応が感じられた。
「これか?」
「ここから5キロほど北に行ったところに大きな魔力を感じますね」
「ミアも感じたか」

「お前らそんなに遠くまで感知できるのか。すごいな…」
「えっへん!私はイザ様の一番やりですから!」
「はいはい、そういうのはいいから。んじゃ急いでいくよ~!」
そういうとイザは3人の周囲を風で包み北に飛んだ。


「先ほど感じた大きな魔力はこの辺りだと思うんですが…」
「もう一度探知してみるか」
そういうとイザは魔力感知をはじめた。
「…ん?これって真下か?どうして砂の中に…」

「おいあれっ!あの砂丘のそばの岩肌!」
エルロンが指す方を見ると狼のような影が見える。
「あっ!銀狼ですっ!」
ミアが駆け寄った。

「酷い傷、一体何が…?」
「おい大丈夫か?何があったんだ!?」
「う、うう…イザ様。銀牙様とがるさんをどうかお助けください…」

「ちょっと待ってろ。今回復薬を…」
リーン特製の薬草から抽出した高濃度ポーションを銀狼の口に流し込んだ。
するとみるみる傷がふさがっていく。

「落ち着いたか?で…何があったんだ?」
「実は…朝一で村を出立して昼前まで我々はサンドワームを狩っていたのですが、昼の時間も近づいてきたので一度村に帰ろうとしていた際に、ドラゴンに襲われて…」
「ドラゴン!?」
3人は驚いた。
とくにイザは初めて聞くドラゴンの存在に驚いていた。

「それで…何で銀牙達がここの地下にいることになるんだ?」
「ドラゴンは我々を見つけるなり急にブレスを吐いて襲ってきまして…。その際にドラゴンの吐いたブレスの衝撃で、ここから少し行った場所の辺りの岩盤が崩落し、全員流砂にのまれてしまいました。…近くに居た私だけはガルさんが投げ飛ばしてくれたので流砂にのまれずに済んだのですが…最初のブレスで受けたダメージが大きく動けずにその岩陰で倒れてしまいました。面目ないです」

「無事ならいい。流砂か…厄介だな。どうしたものか」
「全部吹き飛ばしちゃえばいいのでは?両手の上に火球を構え始めるミア」
「まてまてまて!また流砂が起こるかもしれないし、下手したら下にいる奴らが生き埋めになっちゃうだろう!」

「これだからノウキンは…」
「あーん?何か言ったか?私に1度も勝てない雑魚エルフ?」
「ほう?次やったら私が勝つと思うが死にたいのか?駄蛇?」
エルロンとミアがバチバチ火花を散らし始めた。

「はいはい、喧嘩はみんなを助けた後でね!とりあえず今は周囲を手分けして探索して下に降りられる場所を探そう。」
4人(3人と1匹)は手分けして周囲を確認したがそれらしい入り口は見当たらなかった。

「念話がつながらないとこを見ると魔力の阻害をされてるみたいだし、どうしたものか…」
(ん、砂漠の北側ってことはここは最初に出てきた研究所の近くか、あそこの研究所ならこの辺りの地下にも繋がっているかもしれないな)

「みんな集まってくれー!ゲート!」
イザがゲートと唱えたが転送門が発動しない。

「あれ?おかしいな魔力の阻害は受けていないし魔力も十分感じるのに…。もう一度…ゲート!」
やはり門は開けない。

「それってもしかしてゲートを開く先が魔力阻害エリアってことでは?」
「そうか!なるほど、んじゃやっぱりあそこと繋がってる可能性が高い!それなら…。ゲート!」

イザのゲートにより4人は研究所跡地の広い洞窟まで飛んだ。

「ここは…?」
「ここは俺がこの世界に来たときに飛ばされてきた場所。おそらく俺の祖父が建てた研究所かな?」

「イザ様のおじい様ですか…?かなりの年月が経過しているように見えますが…」
「そうだな、俺もよくわからないんだ。ここで使われてる文字も読めないしなぁ」

ミアとエルロンがひそひそ話している
「これって何千年も昔からある遺跡って感じなんだけど…どうおもう?」
「ああ、とても2世代前の人間が作ったものとは思えんな…」
「やっぱイザ様は人間の見た目してるけど魔族だったり…?」
「なんだか俺もそう思えてきた」
先ほどまで険悪だった二人がなぜか意気投合している。

「おーい!聞こえてるぞ!俺はれっきとした に ん げ ん だ!」


「それにしても見たこともない技術体系が使われているようだが…」
「向こうの世界に近いかもしれないね」
「イザ様のおじい様っていったい何者なんですか?」
「さぁ?変わったじいちゃんだったけど、マティアたちを作ったってこと以外この世界でのことはさっぱり…」

そんな話をしつつ歩き始めるとエルロンが例の光る石見て驚いていた。
「こんなに純度の高い魔鉱は見たことがない…!」
「ん?そうなの?ってかこれって魔鉱だったの!?」
「ああ…!鉱石には俺もあまり詳しくないが、魔鉱石回収の護衛依頼は何度か受けたことがある。こんなに魔力を帯びているのは初めて見る…これがとてつもなく純度の高い魔鉱だということは素人の俺でもわかる…」

「うそっ!?」
背後でミアが叫んだ。

「今度はミアか。どうしたんだ?」
「イザ様これ見てください!!」
イザが近づくとミアがそこらへんに生えていた草を見て驚いていた。

「なんだ?その草食えるのか?」
「おそらくですが…薬草の古代種ですよ!!現在世界中で栽培されている薬草はこの薬草が元になった物といわれているんです。ラミアの里でも薬草を栽培していましたが、薬草は冷暗所でなおかつ魔力が豊富でないと育たないんです。古代種は必要な魔力もかなり多いので栽培が困難と聞いていたのに…こんなに群生しているなんて!!そのまま使えるのはもちろん…薬の素材としては大変希少素材です!」
「そんな貴重な物だったのか。とりあえず二人とも、今はみんなを探すのが先だ」
「…そうですね」

研究施設が並ぶ通路をガル達の力を微かに感じる方へ歩いていく。
「高度過ぎる研究所不気味だが…それにしても妙だな…」
「ええ」
「私も2人と同じ違和感を先ほどから感じています…」
「?3人ともどうしたんだ?」

イザだけは3人の言っている不思議さに気が付かなかった。
「イザさんは気持ち悪くないんですか?」
「何が?」
「この研究所?の中、奥に行けば行くほどほとんど魔素を感じないんです…」
「そういえば…なんか体がすこし軽い気が?」
イザは右肩をぐるぐる回して体の調子がいつもよりいい感覚を感じていた。

それを聞いて3人は戸惑った。
「え?逆です!魔素がないから魔素を取り込んで活動が出来ないのでいつもよりも体が重いですよ」
「俺も同感だ。この中はどうも調子が狂う」
「私も不気味さに毛が逆立っています」

(空気中の魔素がないのは向こうの世界の環境に近いから俺は動きやすく感じるってことなのかな?)
「とにかく奥に進みましょう。微かにですが仲間の匂いが奥から感じられます。こっちです」

銀狼の鼻を頼りに進んでいくと鎖が複数掛かっている大きな扉の前にさしかかった。
その扉は以前イザが嫌な予感がするからといって開けずに放置した扉だった。
この先に仲間が居るのでは開けないわけにはいかない。
イザは鎖を風魔法で断ち切り扉に手を触れた。
イザが手で触れると扉は自動的に開き始めた。

扉が完全に開くとマティアに会ったときのように部屋に明かりがともっていく。
うっすら見え始めたがどうやらみんな無事なようだ。

「よかった。無事みたいだな」
「これはどういった仕組みなんだ…?光魔法にしては魔力もほとんど感じない…」
「俺もよくわからないけど電力の代わりに魔力で動いてるんじゃないかな?」
「?でんりょくというのが何かわかりませんがすごい技術ですね。」
(マティアの時と同じなら部屋の中央の柱にエーテロイドが……あれ?居ないな?)
「そんなことよりもみんなの救出が先だ」

4人は手分けして全員を回復させた。
ある程度体力が戻ってきたようなので話を聞くことにした。
「ドラゴンにやられて流砂に飲まれて地下に…か」
「はい。そして地下に落とされた後に暫くして暗闇で何者かに攻撃を受けて..」
「おれらが来たときには扉はしまっていたし開閉した痕跡なんてなかったぞ!?」
「それにここに来るまで誰とも出会わなかったですよね。まさかまだこの部屋のどこかに!?」
そういうとミアは身構えた。

「いや、俺はずっと魔力感知をしているがこの部屋には俺らの他には誰もいない。きっと俺らが来る前に去ったんだろう」
(おそらく俺とミアが砂漠で最初に感知した大きな魔力の主がそいつだろうな…。ドラゴンからの奇襲で怪我を負っていたのと不意な暗闇なのを差し引いてもこいつらが全員手も足も出ずに一方的にやられる存在で、しかも転移魔法が使えないこの研究所跡を自由に出入りできる者…一体何者なんだ)


「少しでもいい、ガルは流砂から落ちた後のことで何か覚えていないか?」
「申し訳ありませんが俺は何も…暗闇の中で一撃喰らっただけで気を失ってしなったようで…」
「匂い…」
銀牙が呟いた。
「匂い?」
「いや、…微かに匂いがしました。何処かで嗅いだことのある匂いですが、何の匂いだったかは…」

「匂い?…ひとまず帰ろうか、みんな心配している」


帰路で少し薬草と鉱石を採取して持ち帰ったらリーンとエルドたちが興奮して今からでも洞窟に連れていけと騒いでいたので王城から帰ったら連れていくと約束してどうにかその場を収めた。

先ほど起こったことを話し合ったが、結局ドラゴンは黒い竜鱗を纏った竜だったこと、何者かが暗闇の中で魔力を一切感じさせずに皆を気絶へ追いやったこと。その中で銀狼の1体が攻撃される際に『このままでは世界が終わる』という言葉を聞いていたらしいことが分かった。
(世界が終わるというのはどういうことなんだ…もしかするとマティアと同じエーテロイドか…?)

今はとりあえずラナたち村に残る者たちにこれらの謎の存在やドラゴンに対しても警戒するように告げた。


翌朝、ガル達は別行動なので先に王城がある王都ニルンハイムへ向かった。
そして夕方、イザとエルロン、マティア、銀牙はベルンの宿へ向かった。

出発前に洞窟内部から皆が持ってきてくれた魔鉱石で高純度の魔石を試作したからと、1つだけエルドから預かってきた。
これだけの純度ならもしかするとゲートの魔法や、複合魔法を封じ込めても耐えうるかもしれないとのことだった。
リーンたちにも同じものを1つ預けてあるらしい。

そしてリーンからエルドが預かっていたものもついでに受け取った。

これは昨日の薬草から抽出したポーションらしい。従来のポーションとは純度が違うので、もし四肢を失ったとしてもこのポーションなら治療できるかもしれないとのことだ。
(四肢を失うって想定の時点で勘弁だけど、ようは瀕死の重傷でも完治できる超高級ポーションってことか。いざって時のために大事にとっておこう)

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