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2章

18話 魔法発動の原理

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今後、この森を離れ人の街に出るにあたって、エルドたちが色々装備を準備してくれるようなのでそれまでは魔法やスキルを磨くことにした。

リーンが元々住んでいた辺りに薬草採取用の小さな洞窟があるというのでその洞窟に案内してもらい魔法の練習をすることにした。
森で魔法の練習をするわけにもいかないし何よりも目立つところで大きな魔法を放つことをラナが認めてくれなかった。初めは洞窟でさえ納得してくれずにリーンに案内してもらい現地を確認して、ここなら…と渋々認めてくれた。


まず今までにやっていた2種の複合魔法をもっと整理してみることにした。
魔法には動と静があることも理解し特異属性も聖以外イメージが付く今なら使える魔法も増えるし、複合属性の理屈もより分かる気がした。

何故同じ属性の複合魔法でも違う結果になるのか、魔法はイメージという点で複合魔法も1つの魔法として発していたイザはあまり意識していなかったが。実際は結果が違うわけだから妙な話だ。
でもこれは動と静という魔法の性質で理屈が分かる。

火の動と水の静で水蒸気に、火の静と水の静でお湯に。
普段植物の成長を促すのに使っている木の魔法もそうだ。
水の静と土の静。これははじめ植物の成長を促すのに使っていた魔法だ。
ぬかるみを作り出したのは水の動と土の静。
このように同じ属性でも動と静の組み合わせ次第で魔法は無限の可能性を秘めているようだ。

向こうの世界では化学が発展していたので理屈に明るいイザはこれらの魔法の複合のイメージも容易に行えたために複合魔法が可能なようだ。
ラナが練習に付き添っている(厳密には無茶しないかの監視)のでついでにラナにもこの原理とイメージを説明してみた。

ラナは元々魔法が得意だったので適正も多く、更に唯一イザと契約してから合成のユニークスキルを獲得していた。
試しにタイラントボア退治にいつも使っていた風と雷の魔法を複合させた魔法を練習してもらった。初めは複合属性なんて考え自体がなかったので2属性を同時に出すことも苦労していたが、数日掛けて徐々にそれが出来るようになり、風の刃に雷を纏わせて飛ばすまでにはそれほど日数はかからなかった。
というのもラナはこの練習を始めてから統一というユニークスキルを得たことも関係しているかもしれない。

リーンにも試してもらったがリーンには合成魔法は使えなかった。スキルの獲得にも至らなかった。同じ名づけの契約をしているのに他の者に発現しないのには何か理由があるのかもしれない。
ただ、魔法合成は特別であっても、2属性以上を同時に扱うというのは原理さえ理解してしまえば俺以外にも問題なく扱えるようだ。
リーン、ラナだけでなく戦闘において魔法を主体としていない銀牙やミアも、個人差は在れど、魔法を同時に発現させることは可能となった。


ではなぜ同時発動や複合発動が広まっていないのかというと、世間一般では魔法は複数属性に適正があったとしても1属性を極めた方がいいというのがこの世界の定説らしい。

それはこのスキルのせいだろう。
俺のスキル欄にもある属性マスタリーのスキルだ。各属性のマスタリースキルがありそれぞれにLvがある。つまり1つの属性に特化した方がいいというのは間違っていない。

だが同時に複数の魔法を使えるのであれば話は別だ。同時に扱えばその分倍速で多属性の経験を積んでいくことができる。
つまり複数の属性を使い続けた方が魔法の上達は早いということだ。
ただし理屈はそうでも、ラナいわく普通の人にはそう簡単なものではないらしい、そもそも魔法はイメージの力。複数の物を同時にイメージしようとしてもイメージがぶれて魔法として発現しなかったり、魔法を同時発動や合成するという考え自体がありえないこと。
よって目の前でそれが可能であると見せつけられでもしない限り常識を打ち破れないのでそもそもイメージが出来ない。つまり出来ないことが当たり前のこの世界の住人にはこんなことは到底不可能だそうだ。


複合魔法はさらに少し厄介で、魔法を1つ使用する場合の消費魔力が10とすると2種複合魔法の場合は10+10=20だけでなく合成にも20、さらに発現させるときに2倍の魔力を消費するので消費するらしく1度魔法を生成するのに4倍以上の魔力を消耗するらしい。
つまりあれだけ広大な農場を3種複合を連発して管理している俺が異常だと言われた。

だがこれがわかったらさらに複合して一気に全属性を高めてみたいと思ってしまうものだ。
ラナは2属性でも今まで誰も思いつかなかったのに全属性を合成なんてありえないといいつつも、イザ様ならやってしまいそうと納得していた。

火と水と風と土と雷。5属性に動と静があるので32通りの複合がある。更に光と闇と空と聖、そして無数の魔法が存在するという無属性(聖はいまだに謎だが…)。組み合わせることによって可能性は未知数だ。
以前は冒険者たちに二重破棄を勧めたが、イメージしやすい魔法では破棄しても問題ないという話で、もしイメージが付きづらい魔法を作りだそうとする場合はこの限りではない。
光や闇、空はまだイザでもイメージを付けづらいのである程度使いやすい名前を決めて魔法名だけでも詠唱することにした。ゲートの魔法がその例だ。

この、イメージ次第で様々な応用ができるという点。それは想像力が高ければ高いほど魔法の資質が高いという厨二優位な世界。つまりあちらの世界の科学知識と、さらにファンタジーで固めたオタク知識の両方を吸収しているイザは、この世界での魔法適正は飛びぬけている。

ただし特異魔法だけは少し違うようだ。イメージは確かに重要だが光や闇といった特殊な属性の場合抽象的なので特性の理解とイメージが難しい。
例えば光であれば明かりを灯す魔法、闇であれば影を操ったり呪いを施す魔法。
といったようにその属性の指す意味でとらえられる魔法として発現させるのは簡単だが、攻撃魔法等の実用的な魔法に運用するのが難しい。
火や水などの具現化可能なものと違い、光や闇などをその場に留めておくイメージは科学を知っているものの方が難しくなる。
実際イザは光や闇属性を単体で攻撃に使うことは出来なかった。
銀牙は闇属性が使えるので確認したところ闇の属性魔法をミアの火炎球のように飛ばすことが出来ていた。
コツを聞いてみたが何となくできていたのでわからないらしい。
銀牙は意外と天才肌なのかもしれない。
特異属性はこの世界の住人よりも向こうから来た者のほうがイメージすることが難しいのかもしれない。

空間属性もおなじで俺はゲートと名付けた転移の魔法はすんなり使えたが、同じ適性のあるラナは習得に数日かかった。これはギフトで与えられた適正が弱く、適正不足だったからかとはじめは思っていた。
だが俺が見本として何度かゲートを使用して見せたら習得が早くなった。
つまり実際に見たことでゲートの魔法を想像しやすくなり、安定して魔法のイメージが出来るようになったということだ。
俺が初めからゲートの魔法をすんなり使用できたのは、実際にこの世界に転移してきた経験や、あちらの世界のフィクションで散々使われているのでワープや転移のイメージ完成していたことが大きかったのだろう。

この世界に異世界から現れるものが極まれに現れるそうだがその誰もが魔法の適正が高いらしい。
それも元々居た世界の技術がどれだけ進歩していたかで魔法のイメージを固めやすいことが起因しているのだろう。



ここまでである程度魔法の原理と条件は理解してきたつもりだが、そこで一つだけ気になることが出来た。
この世界ではこれだけ魔法が発展していて、魔法の自由度が高いのに回復魔法というものは存在しないらしい。

厳密には治癒の魔法を扱えるものはいるにはいるらしいがそれは無属性だということ。
要は固有魔法。血族で受け継いだり、運よく適正があれば扱えたりする程度。

治癒系の魔法を使えるものは大きな国でも数名。なのでもし使えるものが居たら国家魔術師として召し上げられ、国によっては爵位を与えられるほど希少だという。

いくら魔法と言えど再生などは生命の理に反するので、現実離れだと言われれば確かにそうだが。ではなぜ科学技術や医療がさほど進歩していないのだろうという疑問も生まれてくる。
医療は、先ほど挙げた治療魔法以外の部分。つまり一般では薬草などの薬を扱う薬師が担っているらしい。
確かに薬草からポーションなどの回復薬を作れるのはすごい技術だが、それは外科の範囲のみしか適応されない。
外傷を治すのに使えるが病気は治せないらしい。
魔法でどうにも出来ないのであれば、魔法以外でどうにかしようと考える者が現れてもおかしくないはずだが病気を治す医者という職業は存在しないらしい。

この辺りの詳しい話もどこかで聞けたら学んでみたいものだ。



次にスキルについて色々試しながら考えてみることにした。

魔法の適正と違いスキルは基本的に後天的に努力で身に着けられるそうだ。例えば耐性。毒耐性や睡眠耐性は向こうでハードワークをしていたので身についていた。リーンも毒に耐性が高いのは変な薬品を実験していて身に着けたらしい。
つまりどんなスキルでも努力次第で習得することができ、ある程度成長速度に適正差はあっても伸ばせるようだ。
とどのつまり、スキルだけで言えばこの世界のどんなものでも最強になれる可能性があるということだ。
だがラナに言わせれば、それは長寿種族以外は知ったところで意味がないし、例え長寿な種族であっても非現実的な考え方だと言われた。

数百年薬の研究をつづけたリーンがやっと毒耐性Lv3なので、現実的には望んだスキルを得て、そのスキルだけを伸ばしていくというのは、生まれ持った適正がなければ不可能に近く。
さらに、後天的に何でも得られるという思想は原初神を冒涜する行為ととられかねないので絶対に口外するなと釘を刺された。
原初神とは、この世界に存在する10の種族の中の神族とは違い、この世界を作ったとされる本当の神のことだ。

定説では魔法の適正やスキルはこの世界で生まれる際に神に与えられた能力だそう。
種族によっては種族神という存在も信じられているそうで、種族により持っている適正が違うのは種族神の恩恵といわれているらしい。
後天的にどんな能力でも開花できるという考えは神の冒涜に当たるとされているようだ。


聖教会はもちろん、神族と悪魔族以外の大抵の種族は、この原初神の存在を信じているそうだ。
神族は自分たちこそが絶対の存在と考えており、悪魔族は魔神の存在を信じて居るらしい。
竜族も竜神の存在を信じているものもいるらしいが唯一神を押すものも多く、さらにどちらの派閥もあまり信仰に厚くないそうだ。


「合成魔法やスキルの話を下手にすると、地動説をとなえて断罪されてしまったガリレオみたいになりそうだな。気を付けないと…」
「がりれお?」
「いや、なんでもない。…とにかくこれらの話を体外に漏らすのはやめておくよ」
「その方が懸命だと思います。イザ様の知識は常識破りなことばかりなので…」


こうして色々試したり考察したことをリーン、ラナ、ミア、銀牙たち戦闘に長け魔力が高いものに色々試してもらったが、ミアと銀牙は魔法を同時に発現させるのは苦手なようで安定するまでには時間がかかりそうだ。
リーンは2属性、ラナは3属性までなら安定して発現できるようになった。
ラナは契約によってスキルと適正属性も多く発現したので複数の複合魔法を操れるようになるのにもそう時間はかからなかった。



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