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9 再会 (ローランド視点)
しおりを挟む俺は生まれた時から前世の記憶があった。
前世は地球という星の日本という国の生まれだった。
前世の俺は身体的には女として生まれた。
だけど俺は自分自身の事を男だとそう認識していた。
幼子の時はどういうものが男で、どういうものが女かも良く分からない。
だけど、良く一緒に遊んでいた男の子と自分も同じだとそう思っていた。
前世での俺は、成長して行くにつれて、生活していく上で、自分の身体がおかしいと気づいて、お兄ちゃんに相談した。
俺にはいつチンコが生えてくるのかな?って、「何言ってんだ? お前。お前は女なんだからそんな事ありえないだろう?」そう言われて、その時自分は男では無いのだと、自分は皆と違うんだ。どこかおかしいんだ。と、そう思った。
そこからは自分の本心を隠そう、隠そうと精一杯だった。
それまで仲良かった男の子の友達と遊ぶのを止めた。
女の子の仕草を研究して、自分が思っている事を必死に隠した。
身体は女なのに、自分は男だと思う。
どうして女な自分を受け入れられないのだろう。
こんな風に考えるなんて自分はおかしい。
本当は男だって気付かれてはダメだ。
だって俺の身体はどう見ても女だから。
こんな事、知られたら恥ずかしい。
心は男なのに、身体は女。だけど、好きになったり気になったりするのは男の子だった。
俺は自分の本当に思っていた事を誰にも言えなかった。
俺の見た目はどんなに頑張っても女だった。
それは成長すればする程、当たり前になった。
子供の頃は短い髪型ならば男に間違われる事はあったとしても、歳を重ねて行くにつれて、俺はどんどん女になっていった。
本当は男だという事を隠している事への罰のように俺の身体はどんどん女になっていった。
そんな俺はその現実から逃げる様に二次元の世界に夢中になった。
漫画、ゲーム、小説の世界に夢中になった。
特に夢中になったのはボーイズラブの世界。
その世界は男が男に恋するのも普通だった。
そして、そう言うモノを好む女性が多い事を知った。
男の子と男の子の恋愛ものの漫画を好んで読む人種を腐女子というらしい。
俺は思った。
俺もこの世界ならば普通に男が男を好きになる事を応援できるんだ。
俺は現実で恋愛する事は無理だと諦めていた。
男の子の事が好きな俺は身体が女だから、自分の本心を隠せば普通に恋愛は可能だったかもしれない。
だけど、俺は自分の女の子としての身体がどうしても恥ずかしかった。
俺は男なのに、胸が膨らんでいる。
俺は男なのに……。
好きになった相手に自分の女な身体を見られるなんて絶対嫌だし、女の子扱いをされるのも嫌だった。
普通に恋愛するのは怖い。
それは自分が女だと思い知ってしまうから。
だから余計に俺はBL本にBLゲームに夢中になったんだ。
この物語の中に自分を重ねれば俺は男として、男が好きな事を応援できる。
男として男性に恋が出来る。
高校の時、幼稚園と小学校時代に仲良かった男の幼なじみと再会した。
彼の名前は真白という。
俺より背が高くなってしまったが心はあの頃と変わっていなくて優しかった。
運命の再会だった。
幼い時、彼と走り回って遊ぶのが好きだった。
ゲームや虫取りして遊ぶのが好きだった。
泣き虫な彼を俺がいじめっ子から守ってあげていた。
あの時、俺はアイツよりも身体も大きかったし、自分の事も男だと疑ってなかった。
真白は俺が女だと知っていた。
だけど再会してからも真白は俺を女扱いしなかった。
男扱いと言う訳でもないけど、自然に話してくれた。
BL漫画や小説の話も少し嫌がりながらも聞いてくれた。
俺は真白を好きだった。
この思いは知られてはならないと思っていた。
俺は真白を抱きしめたかった。
抱きしめられたいんじゃない。
抱きしめたかったんだ。
そんな前世を持つ俺だが俺には後悔があった。
真白は若くして交通事故で亡くなった。
もちろん俺は最後まで思いを告げる事は出来なかった。
その二年後、自分も病で死に、こうしてこの世界に転生したのだ。
俺は今世、男として生まれた事を心から喜んだ。
心と身体の性別が同じ、その事に俺は本当に心から喜んだ。
俺は今世ではこの身体で精一杯生きようと思った。
そして、驚いたのはそれだけではなかった。
この世界は前世の世界で俺が夢中になっていたBLゲームの世界だったんだ。
それに気づいたのは5歳の時、アボット公爵家の嫡男であるローガン様と会った時だった。
この世界は前世の世界よりも女性の割合が少ない。
そして魔術が発達している。
そして、ある特別な種族だけ魔法が使える世界。
そのBLゲームは乙女ゲームの様に一人の可愛らしい男の子が、イケメン男子を次々と落としていくゲーム。
その中のメイン攻略対象がローガン・アボット様だった。
確か、俺こと、ローランド・ダグラスも攻略対象の一人だった筈だ。
俺はゲームと同様、学院に入学した。
自分はこの世界ではちゃんと恋愛出来るだろうか……。
前世辛い思いをしていた俺はすっかり恋愛に臆病になっていた。
それにこの世界はあの夢中になっていたBLゲームの世界。
別にあの時の様に、自分は主人公達を見ているだけで良い、そう思っていた。
俺は今世では人よりもちょっとばかりチート能力を持っていた。
多分それは転生者の特典なのだと思う。
それは鑑定の能力に近い。
相手の能力(ステイタス)を見る事ができるのだ。
体力や魔力、特殊能力も数値や言葉で可視化して見える。
だけどそれも、自分よりも巨大な力なモノの数値は見る事が出来ない。
それにはモザイクがかかるんだ。
そんなチートな能力以外に、俺は魔術、剣術、体術と一通りこなす事が出来る。
それは幼い頃から行ってきた訓練や努力の成果なのだと思う。
特に俺は男として、当たり前に筋力をつける、そう出来る事が嬉しかった。
前世では女の子のフリをしなければ……、本当の自分が知られてしまう。そんな風に思い、思うがままに動けなかった。
周りの女子と違う行動を取る事が怖かった。
だから今世、当たり前の様に訓練に取りくめる、この姿が、この立場が嬉しかった。
そんな事もあり俺は同い年の奴らよりも特に体術や剣術に優れていた。
嫡男ではあったが、騎士を目指す事も親は期待した。
俺は男扱いしてもらえる、その当たり前の事だけで嬉しかったから将来はどうでも良かった。
学院は一応、ゲーム通りに騎士科に入学した。
ローガン様と同じクラスだが、ローガン様はゲームの印象とは少し違った。
ゲームのローガン様は周りとは距離を置くクールなイケメン。
だけど、主人公のマリンちゃんだけに、心を開いていて優しい……そんな方。
だけど、このクラスでのローガン様は誰にでも優しく、平民にも偉そうじゃない。
クラスの人気者。
どういう事だろう……?
俺は腑に落ちなかったが、遠くからその様子を見ていた。
動きがあったのは次の年。
ローガン様と俺はクラスが別れた。
ある日、授業が一緒になりその時にはゲーム内のローガン様の様になっていた。
周りとは距離を取り、別人の様にクールなローガン様に。
去年とは別人のローガン様に……。
そして、あの噂だ。
ローガン様は婚約者以外の別の男爵令息と急接近していると。
もう二人は心が繋がっている恋人同士の様だと……。
それはゲーム通りだった。
俺は目の前でゲームのままの二人を観察できる。
それはファンとしてはとても嬉しい事……なのに。
あのローガン様は、本当に去年のローガン様と同一人物なんだろうか?
俺はなんだかそれはゲーム通りなのに、それは本当に正しいのか分からなかった。
そして、俺とローガン様は三年生になった。
マリンちゃんも二年生に、そして騎士科の授業中にある人物と再会した。
名前はライム君。
うちの使用人であるトーマスの一人息子。
うちにも数回遊びに来た事がある。
俺の弟であるデニスは内向的で我儘だった為、同年代の遊び相手にと親父に命じられトーマスに連れて来られたんだ。
俺はその時、訓練に明け暮れていた。
ある日俺は、裏庭で居眠りをしていたライム君を体力作りとして走り込みをしていて見つけた。
平民が親の仕えている貴族の家に来たというのに、抜け出して居眠りをかますなんて大した度胸だと思った。
だけどフワフワな黄緑色の髪が綺麗で、寝顔も天使みたいで可愛くて、思わず触れたくなって……。
動悸が激しくなり俺は慌ててその場を後にした。
トーマスからライム君の話はたまに聞いていた。
だけど、身分も違うし、ライム君は家に仕える訳でもないらしいしもう逢う事もないと思っていた。
この時俺は、彼の事はすっかり忘れていた。
幼い頃の記憶なんてそんなものだ。
俺は男として強くなる事に夢中だったから……。
そしてある授業中での再会。
クラスメイトと軽く手合わせをしている最中の事だ。
少し離れた所に人物が浮かび上がった。
こちらをジッと観察している目、手合わせをしていたクラスメイトが何か言っているがごちゃごちゃとうるさい。
彼は気配を消している様だが数値が可視化して見える俺には隠れても無駄だ。
しかもどういう事なのか、彼のステイタスは小さくなったり大きくなったりと止まらない。
とにかく普通の生徒ではない事は確かだ。
魔力の数値はモザイクがかかっている。
という事は俺よりも数値が上だという事……。
全体的に様々なステイタスにモザイクがかかっている。
B Lゲームとは別のゲームも絡んでいて、その中での裏ボスなのでは? 実は闇落ち前なのでは? と勘繰ってしまう程、モザイク塗れのステイタス。
種族の欄すら黒くモザイクで塗りつぶされている。
ま、待てよ? 人族じゃないって事か?
印象に残る淡い黄緑の髪がフワフワ揺れているその生徒から俺は目が離せなかった。
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