8 / 20
8 ローランド、様? (ライム視点)
しおりを挟む俺は昼休みに屋上で一人弁当を食べていた。
仕事として学院に通っているが、今日の昼ぐらいは一人、周りの事を気にせずに過ごしたかった。
もちろん、調査するのに休み時間はフルに使う必要があるだろうが今、何も考えたくなかった。
なのに……。
「こんにちは、えーとライム君、だっけ?」
昼間気配を消してまで見に行った相手が空いた扉から笑顔で顔を出してそんな事を言っている。
なんだか俺の中の第六感が、この人と関わると碌な事がなさそうだと告げていて、頭をリセットしようと思ってココに来たって言うのに……。
屋上は元々、立ち入り禁止の筈だ。
それに夜間に俺以外は入れない様に普通の人には見えない結界魔法をココにはかけていたのに……。
この人はそんなモノ関係ないみたいだ。
それに俺は自己紹介してないぞ、なんで俺の事を知ってるんだ?
やはり転生者と言うだけあってコイツも特殊能力でもあるのか?
「はい……、何でしょうか? ローランド様」
顔はあげられないまま、俺は気弱い後輩の振りをした。
「俺の事、なんか調べてる? てーか君も普通の平民じゃないよね……(不気味なんだよな……ゲームにはこんな奴いなかったし、ステイタスはそんなに高くないけど、なんか見るたびステイタスの値が違うし、何だろう? 何者なんだ?)」
俺の居る位置とローランド様には結構な距離がある。
小声で呟いた所は俺には聞こえないと思っている様だが、生憎俺の聴覚は並じゃないんだよな。
というか、コイツが言うにはこの世界はやはりBLゲームの世界って奴なのか?
あの乙女ゲームみたいなヤツか?
そんで俺はどうも登場人物には居なかったって事かな?
まあ多分、俺はモブだろうしな。
ローランド様がそのBLゲームに詳しくて転生者だとしたなら、仲間にしとかないとやり難く、なるだろうな……。
だけど、コイツがやな奴だったなら関わってしまうと更に良くない事が起こりそうだ……。
「あー、思い出した。君、トーマスの一人息子だよね? 家に何回か来た事あるよね?」
ローランド様が驚いた様に自分の口元を押さえながらそう叫んだ。
うわー、しかも、トトさんの事がバレている。
そりゃそうだ。
トトさんはダグラス伯爵家の使用人だ。
しかもかなりの親バカで俺が幼い時から俺の姿絵を持ち歩いている。
それは前世の写真ほどは精度は良くないが、俺は数回ダグラス伯爵家にお邪魔した事があるし、俺が会った事はなくても、見られていた事はある可能性もあるよな……?
「あれ? でも確か君って俺より年上じゃなかった? っけ? その制服は一年生だよね?」
「あっはい、まあ」
どうやって誤魔化そうか……?
「ああ、デニスの使用人候補か何かで入学したのか? 親父からは何も聞いてねーな」
なんか、急に言葉を崩してきたな……身内だし、自分の方が立場が上だと分かったからか……?
「ていうか、君、平民なのに魔術師科なんだなー、魔力あるんだ? それもトーマスから聞いてねーな、それならもっと早くから家で教育すべきだったかな……」
そこまで知られてしまったのなら俺は別にしてはいけない事をしている訳ではないし、ローランド様は、手っ取り早く味方につけといた方が良いかもしれない。
それにローランド様はゲーム内容を知っている様だった。
ローガン様やマリン様はそのBLゲームの登場人物だった様だし、変にガムシャラに調べるより良いかもしれない。
もちろん、ゲーム内容と事実は違う事もある。
俺やローランド様の様な転生者がいる事でゲーム内容と全然違う状況が作られてしまう事もあるだろう。
それにこの方を怒らせてしまうと、トトさんが大変な目にあうかもしれない。
「ローランド様って前世の記憶がありますよね?」
そう俺が言うと一瞬驚いた様に眉を上げたと思ったら不気味な程にニヤリと笑った。
「なるほどなるほど、ライム君も転生者か……。俺、そう言うBL小説好きだわ。この世界のBLゲーム、好きだったけど、俺は元々、アニメでも漫画でも脇役が好きなんだよね。いいね、モブ受け。でもライム君は平民だし、ある意味ポジション的にはヒロインだよね? 隠してるみたいだけど、可愛い顔隠せてないし」
いつの間に近くまで来ていたのか、俺の前髪を掻き上げてローランド様が目を合わせてきた。
久しぶりに顔に触れられてビックリした俺は慌てて後ろに下がったが直ぐにフェンスにぶち当たった。
そりゃ屋上の端で食べてた訳だし当たり前なんだが……。
てーか手は振り払えたが、状況は変わってない、俺を上から囲い込む様に俺の頭上にはローランド様の両腕がある。
まんま壁ドンな感じだ。
なんかローランド様が強者で俺が弱者な感じだ。
とりあえず、公爵様の依頼は話してしまおう。
話して協力してもらった方が良いだろう。
どうしてもダメな状況になっちまったとしたら、トトさんつれて、他国に逃げるまでだ。
「そうか……コレはゲームの裏設定なのか? てーか、ライム君の前世も日本なんだな。面白いな向こうでも知り合いだったらすげーよな」
公爵様の依頼の話をして、前世俺が日本人で、ローランド様も日本人だった話を聞いた所で、次の授業の五分前の鐘がなった。
運よく、ローランド様は俺の調査に協力して下さるみたいだ。
思っていたより嫌な人じゃなくて良かった。
「ローランド様、ありがとうございます。また後で……」
っと言っても22時以降は約束出来ない。
流石に俺の身体の変化については話せない。
あの姿の俺は身体的にも人恋しくなっていないとも言えない。
もちろん、ガロン以外とそんな事する気はねーし、あんなデカイ俺にローランド様が妙な気を起こす事もないだろう。
だけど……。
念の為だ。
寮で話すとしても、20時ぐらいまでにしとかねーとな。
「ああ、俺、自分は範囲外で壁で良かったんだけど……まあ、参加もありかもしんないね。寮部屋で待ってろよ」
そう言って俺の頭を撫でてからローランド様は先に屋上を出て行った。
ローランド様の言っていた意味は分からないが、俺を見る最後の目つきが獰猛な肉食獣の様な顔で、……ちょっと怖かった。
280
お気に入りに追加
487
あなたにおすすめの小説

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる