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7 俺以外の転生者 (ライム視点)
しおりを挟むローガン•アボット様とマリン・サバンサ様について調査を始めなければ、……だけどあまり目立ちたくはない。
親しい人を増やすと秘密も漏れやすくなるし、ツレを増やすと行動を起こし難くなる。
俺は手っ取り早く自身のチート能力を使った。
カムイの姿の時にある魔道具を作った。
素材も夜間森に入ったり、休日の昼間に王都の町で調達したりした。
俺がカムイの姿に、筋肉質なチート野郎な姿には何故なれるのか未だに分からないが、まあ使わない手は無いからな。
この姿になると俺は本当にチート野郎になる事が可能になる。
ある意味怖いモノもない感じだ。
そう、その作った魔道具とは所謂盗聴器のようなモノだ。
俺は夜間、カムイの姿で寮を抜け出し、あらゆる所にその魔道具をしかけた。
もちろん、非常識な所にはしかけていない。
一般的な談話室、空き教室、屋上、食堂、などなど一般的に生徒達が噂をする場所だ。
まあ、情報収集は、俺自身がこの学園に来た目的だしな。
俺は寮で夜間に集めた声を聴いていた。
その中で気になる情報を言うヤツがいた。
そこら中の盗聴器からその声は聞こえてきた。
『ひひっ、やっぱり王道学園様々だな、腐男子冥利に尽きるってもんだ。 思った通りこの世界はBLゲームの世界だったんだ! ヒロインでゲームの主人公、マリン君も居るし、攻略対象の一人でメイン攻略者のローガン様も居る。俺も攻略対象ではあるが、俺は壁の様に脇役が良いから、なるべく大人しくしとかないとな』
先程もこの声が入っていたな。
何だか興奮した様な口ぶりで呟くその声は所謂前世で言う所の腐女子の男版みたいな感じだった。
前世の幼なじみが丁度、こんな風に話していたんだ。
そう俺の前世の幼なじみは腐女子と言う奴だった。
俺は前世も今世もノンケのつもりだったが、前世でも男同士の事も知識だけはあったんだ。
てーか、アイツ(幼なじみ)に今の俺は知られたくねーな。
アイツは俺の事も思い切り妄想対象だった。
あの時は俺が男を好きになるなんて絶対に有り得ないなんて豪語していたが……。
今はしっかり男好きな身体になってしまったんだから……。
って言ったってガロン以外に抱かれる気も今はないし、一応今では性欲もある程度抑え、一人で抜く程度に済ます事が出来ている。
ガロンから少しずつ離れて、そこら辺も何とか折り合いをつけたんだ。
そりゃ、夜は辛い。
カムイの姿になった俺はどんなに頑張ってもいつもの姿よりも性欲は強いんだ。
それに引っ張られて少しばかり性格も変わってしまっている様な気さえする。
そもそも俺は女の子が好きだった筈……と言っても女性の身体に興味があった訳じゃない。
前世も今世も……。
前世は地味で気弱な性格、地味な見た目とあって、女性と積極的に関わる方じゃなかった。
今世は自分の秘密が漏れないように、平凡な安定した暮らしを築く為、必死で……ガロンに会うまで……それどころじゃ無かった。
俺はいったい誰に言い訳をしているんだ。
クヨクヨと相変わらず、気弱な俺だ。
多分、夜、身体の変化があるとしたって性格はそんなに変わっている訳じゃない。でもカムイの姿になるといつもよりも普段の俺より出来る事が増える分だけ、気が大きくなるんだろう。
ここ2年でカムイとして過ごす事も当たり前になってきた。今となってはどちらが本当の俺なんだか分からない。
ってーか、そんな事より……。
俺は今、この腐男子? って奴が言っていた言葉をもう一度聞き直した。
コイツははっきりBLゲームと言った。
この世界にBLと言う言葉はない。
ていうかこの世界は俺がいた前世の世界より男同士の恋仲や結婚が当たり前の世界だ。
というか割合的に女性が少ないから、女性と付き合えたり結婚できたりするのはお貴族様か、平民でも見た目や稼ぎの良い奴だけだ。
魔術で、男同士でも子供も産む事が出来るらしい。
魔力が高い男性しか難しいとの話らしいが……。
だから男同士の恋人同士が居たとしても、こんな風に騒ぐ奴なんていない。
コイツも、俺と同じ……転生者か?
俺は次の日、盗聴器魔道具から聞こえた、腐男子である声の奴の居る科と、名前を調べた。
そして、あの腐男子の転生者は騎士科の三年生、ローランド・ダグラス様だと分かった。
俺が昔、トトさんの仕事場のダグラス伯爵家で、遊び相手をしていた伯爵家のご子息、デニス・ダグラス様の兄だそうだ。
デニス・ダグラス様とは幼い頃、数回お会いした。と言ったってデニス様はまだ6歳、あの当時10歳だった俺よりも身長が高くて、俺の方が年上だとは思われてない様だった。
始めはかなり馬鹿にされたり揶揄われたりしたが、身分差もあるし、俺は大人しく従い相手をしていた。
まあ相手は幼子だし気にもしていなかった。まあ顔も整っていたし、デニス様は可愛かったしな。
まあお貴族様だし、俺は使用人の子供だし、まんま偉そうだったけど……。
ローランド様は俺の2歳年下の18歳らしい、という事は当時は8歳だったという事なんだよな?
だけど……会った事はなかったな。
そんな風に思い俺はこっそり授業を抜け出し騎士科の授業中である訓練所に来ていた。
魔道具を使いちょっとだけ魔法をコントロールする術を身につける事ができる様になった俺はこの姿でも、こうしてこっそり騎士科の授業を覗く事だって出来た。
と言っても気配を消す程度の事しか出来ない。
へっぽこな魔法。
簡単な魔術よりも劣ってしまう程度の魔法だ。
しかも能力値の高い者には簡単に見破られてしまうだろう。
今日の魔術科の授業は選択授業で他の科の授業を見学したり参加しても良い事になっている。
他の科でも似た様な授業がたまにある。
若い内はまだ自分の目指したい方向も分からない。
何が向いているかも分からないからだ。
やってみて初めて、やりたかった事が分かることもある。
そうして今更ながらやりたい事が見つかり、別の才能の開花がみられたり、他の科の講師の進めで別の科に移動する生徒も居るらしい。
中々自由な校風な様だ。
だから俺の存在がこの騎士科の生徒や講師に知られたとしても別に困る事でもない。
ただ、俺は騎士科に来たのは、あくまで調査に来ただけ。
授業を受けに来た訳じゃないから他の生徒に俺の存在を知られる訳には行かなかった。
「ローランド様、手合わせ中によそ見ですか?」
その荒い物言いと、その名前は……そう思った俺は声の方を見た。
苛立った様に話しかけられ剣先を向けられていたその男は、スマートに剣を交わす。
最低限の動きで相手の動きを剣で防ぎ、そのまま有無を言わせぬ速さで、自身の剣を相手の喉に触れる寸前で止めた。
「いや、そんなつもりはありませんよ、すいませんね」
そう言って相手に剣を向けながらも、ローランド様はゆるりと笑い、俺を見ていた。
剣を向けられていた相手は驚いた様に尻餅を着いていた。
アイツが腐男子で、俺以外の転生者……。
なんて……魔道具で聞いた声の印象と全然違う。
つーか、コレ……。俺の事、見えてんな……こ、怖っ。
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