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第八章 大事なモノ 自分の気持ち
第64話 イヤーカフの行方 ショウとの距離 (タイアン視点)
しおりを挟むショウが将之だと分かったのに、俺はまた他の事に振り回されて思う様に動けずにいた。
俺の知らない所で、勝手に婚約話が進められているらしい。
「親父、どういう事だ?」
俺がそう詰め寄ると親父がニヤニヤしながら素直じゃないなーなんてほざいている。
どうもあの候補者の1人だった女が勝手に話を進めているらしい。
俺の失くしてしまっていたイヤーカフをあの女が持っていて俺から婚約の証に貰ったと言い回っているらしい。
もちろん真っ赤な嘘だ。
確かにあの女とは過去にそういう事をしてしまった事がある。
義務と言ったらそれまでだがあの頃の俺は不誠実だったと今では思う。
あの頃の俺は、コレから先も誰かを好きになる事などないと、大事な人なんてできる筈もないと決めつけていた。
諦めていたとも言える。
それぐらいショウに逢うまで他人に興味を持てなかったんだ。
「どういう事だか説明してもらおうか?」
その女が1人でいる所をようやく捕まえる事ができた。
「何を慌てているの? 貴方もそろそろ貴方の隣に立つに相応しい相手が必要でしょ? 本当は貴方が意識不明から目覚める前に結婚までしてしまうつもりだったけど……思ったよりも早く目覚めたから計画が狂ったわ」
そう言いながらもイヤらしく笑みを浮かべるその女。
「王族のモノを盗んでおいて、どうして平然としていられるんだ?」
「えっ? だって貴方、婚約するのなんて別に誰でも良いんでしょ? 今までだって色々な人と関わりを持っていたみたいだけど好きな人なんていた事なかったでしょ?」
そう言いながらもその女は髪を掻き上げる。
妖艶な花の香りが女から漂っている。
「とにかく、その魔道具を返してもらおう。噂はこちらで訂正しておく」
「え? な、なんで? やっぱり恋人が出来たの? コレ? コレをやった相手が貴方の好きな人? どうして?」
「貴方には関係ないと思うが……」
俺が冷たく突き放すと彼女は顔を歪めて詰め寄ってきた。
いつもは余裕がある彼女が慌てた様に声も裏返っていた。
「ま、待って……。貴方は違ったとしても私は貴方が好きだった。貴方の子供が産みたかった」
そう言いながら一粒二粒と涙を流しながら、子供の様に泣き出してしまった。
そんな風に言われるといくら勝手な噂を流されたとしても俺の方がよっぽど酷い事をしていたんだと思い知らされた。
「すまない、あの時の俺の行動は軽率だった。気持ちがないのに、抱くなんて、貴方の気持ちを無視した行為、王族だからって、義務だからって行うべきではなかった」
「そうよ。それに冷たくしてくれたら良いのに貴方は優しいから好きになってしまうじゃない。そんな貴方だったのに急に態度が変わったから、分かってだけど……諦められなかった」
そう言いながら彼女は涙ながらに俺に気持ちを伝えてきた。
好きという気持ちは真っ直ぐだ。
俺はショウに逢うまで好きという気持ちを忘れていた。
人を好きになる事を思い出して、自分がいかに酷い行いをしていたかが分かった。彼女の真っ直ぐな思いが余計に罪悪感となり胸が苦しくなった。
「貴方の気持ちには応じられない。だけど……ありがとう。本当にすまなかった」
俺はもうショウ以外考えられない。
謝る以外誠意を伝える方法はないと思った。
「変わったわね……前のままの貴方なら、まだどうにか出来ると思ったし、貴方の相手に選ばれる為ならなんでもしようと思った。周りから固めれば、優しい貴方は流されて折れてくれると思った」
確かにショウに逢うまで、この好きという気持ちを思い出すまでは結婚相手など誰でも良かった。
この国の為に生きるつもりも無かったが、義務として適当な相手と婚約も結婚もするつもりだった。
確かに流されるままに……だったのかもしれない。
そんな選択をしてしまう前に、ショウに出逢えて、ショウを好きになれて良かった。
間違った選択をしてしまう前で良かった。
俺は彼女にもう一度頭を下げた。
「もう、貴方は魔王なのよ。頭をあげなさいよ。私にはこの魔道具は使えないみたい。つけても何も見えない。髪は茶色になるけど髪色は変えられるけど、貴方が大事に思っている相手は結局誰か分からなかった。追い出す事も陥れる事も出来なかった。これ以上嫌われたくないから私の事はもういいわ」
そう言って彼女は俺の手に魔道具を握らせた。
「もう行って。大事なんでしょ? 他にも貴方が傷つけた相手はまだまだいるのよ! 貴方がちゃんと幸せにならないと皆が先に進めないんだからね!」
そう言いながら彼女は振り返らずに立ち去った。
噂はすぐに消えるだろう。
しかし、俺の噂はショウにも聞かれてしまったな……。
俺はショウと出逢う前、関係を持った事がある奴の元へ行き1人1人に謝った。
俺の手にイヤーカフの魔道具も戻ってきた。
早速耳に装着した。
ショウには腕輪をしてもらっているから、元々ショウの居る位置は把握済みだった。
だがやはり、この魔道具は対になっているだけ腕輪よりもショウの見えるモノも把握できるし、ショウとシンクロできる。
ショウは現在、下町の孤児院に行っている様だ。
俺が意識を失う前に行った場所だ。
あの付近は俺がああなってしまった後、二次災害が起きない様に魔法で強化したと報告を受けてはいたから危なくはないだろうが……。
しかし、ショウにはこの国を救う為、力を借りたいと思ってはいたが……。
イヤーカフを装着した時、丁度、ショウとアランというものが、この国を救う為、何を出来るか話している所だった。
アランというものは確か俺が意識を失う前にかばった相手だったよな?
ショウだけでなくあの者も転生者だとは考えてもいなかったが、2人の話している事は時間がかかるかもしれないがこの国の希望に繋がるかもしれないと思った。
だけど、何故、俺にじゃなくあの者に相談したのか、俺には姿すら偽っているのに……前世では片思いではあったが親友だったし誰よりも近くにいたと思っていたのに。
こうしてショウの生活を覗き見していても、ショウとの心の距離はいつまでも近づけないと……そう思った。
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