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第八章 大事なモノ 自分の気持ち
第62話 また......あの方に。 (アラン視点)
しおりを挟む俺が前世の事を思い出したのは、かなり幼い時だった。
俺の本当の髪色は黒い。
この国、摩化地下王国は、黒髪は救世主という言い伝えがある。
だけど、黒髪の人が少ない、誰も見た事がないものばかりなのも事実。
俺の両親は幼い時に俺を孤児院の前に捨てた。
俺は本当の親を知らない。
孤児院の院長さんが俺の親代わり。
黒髪は目立つからと幼い頃から耳に髪色を変える魔道具を着けられていた。
俺は何がきっかけで前世を思い出したのかはもう覚えていない。
だけど前世を思い出した事で多くの知識が増え、生きやすくなった。
前世を思い出す事で良い思い出も、辛い思い出も思い出してしまった。
俺は前世にとても大好きな人がいた。
俺の全てを捧げようと誓った主だった。
名前は龍鬼様。
龍鬼様と俺は、そんなに歳が離れていなかった。
前世の俺の父親が龍鬼様のお父様を仕えていて、俺は幼い頃から龍鬼様の為に生きる様に育てられた。
龍鬼様には好きな人がいた。
その方の名前は将之様と言った。
龍鬼様は将之様にかまってもらいたくて、将之様に我儘ばかり言っていた。
龍鬼様はとても綺麗な顔をしていた。
初めて龍鬼様を見た時、余りに可愛くて、こんな生き物がこの世に存在しても良いのかと思った。
こんな可愛い子はきっと悪い奴がさらいにくる。
この子は俺が守らないと!
幼い頃の俺はそう思ったモノだ。
甘やかされて育った龍鬼様はかなり、我儘なお子様に育ってしまった。
自分の思う通りにならないと気が済まない、そんなお子様だった。
だけど、どんなに我儘でもその笑顔一つで許してしまう大人達や周りの人。
俺だけでもダメな事はダメと言わないと龍鬼様が、して良い事と悪い事が分からないまま成長してしまう。
俺はキツく叱ったりはしなかったけど、してはいけない事はちゃんと龍鬼様に伝えようとした。
そんな俺の事を龍鬼様はわずらわしかったに違いない。
だけど、龍鬼様が周りの人に嫌われてしまうのは嫌だ。
俺自身が龍鬼様に嫌われてしまったとしても俺がしっかりしないと……そう思っていた。
してはいけない事を伝えると言っても、俺は龍鬼様の部下であり使用人である。
言える事も限られてしまう。
それに……いつからそんな関係になってしまったのか……。
龍鬼様のご両親はいつも、お忙しく家に居ない事が多かった。
大きなテーブルで龍鬼様はいつも一人で食事をする。
ある日、龍鬼様から一緒に食卓につく様に命じられた事があった。
いつもはダメだと断るが、その日は龍鬼様の誕生日だった。
将之様はご家族と出かけているらしい……。
将之様は一緒にどうかと誘って下さったらしいが、素直になれない龍鬼様は断ってしまったみたいだ。
俺は龍鬼様からどんな扱いを受けようとも、龍鬼様から大事な人だと思われていなくても、龍鬼様に頼られている様で……、龍鬼様の為に何か出来る事は嬉しかった。
そうして龍鬼様と一緒に食事を取ったその日から俺は少しだけ龍鬼様の特別になった。
龍鬼様は人の言う事はあまり聞かないが俺の言う事と将之様の言う事は聞いてくれる。
それは将之様程ではなくても、俺の事を特別と思ってくれている様で俺は嬉しかった。
そんな龍鬼様とひょんな事から身体の関係を持ってしまった。
俺が抱かれる側だ。
体格的に俺は抱く側だろうが俺は抱かれる側だった。
きっと龍鬼様は俺と将之様を重ねていたのだろう。
龍鬼様は綺麗で、そんな欲望を抱えているなんて表面的には分からなかった。
龍鬼様は色々な意味で将之様に夢中だったんだ。
だけど、自分の気持ちを彼に知られるのは怖かったのだろう。
そんな気持ちを俺と身体を結ぶ事で、自分の抑えている心とバランスを取っていたのだろう……。
一度はその関係も終わりを迎えた。
俺はただの使用人で、龍鬼様とそういう関係を持っていたとしてもそれは俺には空しいだけだったから……。
龍鬼様の事を大事に思う様になればなるほど辛くなり俺は龍鬼様から逃げた。
そうしてしばらく経った頃、龍鬼様のご両親より俺の父親に龍鬼様の事で連絡を受けた。
龍鬼様が壊れてしまったと……。
精神的におかしくなってしまったと……。
俺は、その話を聞いて慌てて龍鬼様の家に駆けつけた。
そして、龍鬼様を見た瞬間、何故俺は、龍鬼様の側を離れてしまってたんだと……後悔した。
お側に居れば、こんな風になってしまう前に何か出来たかもしれないのに……。
その時、見た龍鬼様はもう、俺の事も分からなくなってしまっていた。
一点を見つめ、何を考えているのか分からない。
そんな様子だった。
俺は龍鬼様のご両親に今までお暇を取らせて頂いた無礼を詫び、龍鬼様のお世話をさせて頂きたいと頼み込んだ。
もう、俺の思いは届く事はないかもしれないが、せめてずっとお側にいたいと思った。
今世である、この世界はかなり危険な世界だ。
いや、ずっと普通に平和に暮らす事もできるかもしれない。
だけど、この世界の人々はいつも怯えて生活をしていた。
何かの拍子にこの国から上の世界に飛び出してしまうと、俺達は醜い姿に理性もない姿に変化してしまうらしい。
その姿を実際目にしたモノはいない。
ただ、自分の目の前で幸せそうに生活をしていた人が突然いなくなる。それだけだ。
魔王様だけは上の世界に行っても理性を保つ事ができるらしい。
魔王様が、この国の問題をどうにかしようと試行錯誤して下さっているらしいが、まだどうしようもないらしい。
俺は前世を思い出した。
そして、俺は、この国で救世主とも言われている黒髪だった。
俺は前世で言っていた転生者という奴だ。
もしかして俺はチート能力という奴があるのかもしれないとそう思った。
俺は俺の前世の知識からこの世界の問題事をどうにかできないかと模索した。
実際は何も出来ていない。
俺の得意な事は料理と、あと錬金術だった。
施設の子供達の世話をしながら、自分に出来る事はないかと日々模索していた。
そして、あの日、魔王様がこの施設を訪ねてきた時、俺はあの人が魔王様だとはあの時は知らなかったが、あの日がきっかけで王宮の仕事もする事になった。
そして、将之様にそっくりなマーサに出会ったんだ。
マーサは仕草も全て将之様そっくりだった。
マーサが、将之様が転生しているという事はもしかしたら龍鬼様もこの世界に転生しているのかもしれないと思った。
もしかしたらまた龍鬼様に逢う事ができるかもしれないと……そう思った。
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