魔王なアイツは遠すぎて......。嫌われモノの俺 戦えない俺の異世界転生生活

やまくる実

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第七章 すれ違う気持ちと二人の本音 

第59話 夢のひと時とすれ違い (タイアン視点)

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 昨夜はショウの部屋に行き、理性を抑えられず、そのまま抱いてしまいそうだった。

 親父に手を出されているかもしれないと思うと、自分自身を止める事も難しかった。

 ショウは俺がショウの魔法に気づいていないと思っている。

 なんとか思いとどまって良かった。

 もしあのまま手を出してしまっていたなら俺は出会って数日の奴に手を出す様な不誠実な男と思われていただろう。



 俺は早朝から王宮内の者達を集めて親父とマーサにもう接触しても魔物に変化してしまう可能性はないと、親父のかかっていた呪いが解けた事を伝えた。

 その事だけ伝え、その他の事はとりあえずユアンさんと親父に任せてショウの部屋へと急いだ。


 ショウはまだ偽りの姿をしている。

 マーサの姿に見えてしまう事で、将之がそこにいる様で今でも複雑な気分になってしまう。


 今日、ショウと一緒に街に下りるのはあくまで仕事の一環だ。

 だか、本心はショウがどんな風に考えているのか本音を探りたいという気持ち、そして、ただショウの隣を歩きたいという気持ちもあった。

 本来、街には護衛も一緒に数人で向かうべきだろう。

 
 だけど、俺は一人の男として、普通にただショウの横を歩きたかったんだ。


 移動は転移を行う為、危なくも無い。

 俺が抱きしめた時、ショウが戸惑っている事が伝わってきた。

 もちろん転移はどこかを触れるだけで行える。

 だが、せっかく触れ合えるチャンスなのだ。
 利用させてもらう。
 俺が抱きしめる度にショウが顔を熱らせる。
 恥ずかしがっている事が分かり、緊張しているように俺の胸の中で小刻みに震えながら耳まで真っ赤にしているその姿を見るだけでそのまま襲いかかってしまいそうになる程可愛かった。

 しかも何故その姿に姿を変えているのかも未だに分からないが、今のショウは見た目は将之そのものだ。

 将之の事をこうして街中で抱きしめるなんて前世ではあり得なかったから、マーサな見た目のショウを抱きしめる事も俺は嬉しかった。


 この日、ショウと一日中デートを楽しんだ。
 もちろん始めは仕事として来たつもりだった。

 ショウがこの国の為に色々考えてくれている事も分かって嬉しかった。

 だけど、ショウの隣に居ると、もっとショウとの時間を楽しみたいと欲が出た。

 ショウと途中、食べ歩きをしたりこの国のカフェに近い店に入りお茶をした。

 そのデザートを食べている時だった。

 ショウは多分だがそのデザートを食べる事は初めてだったのかもしれない。

 目の前に出され嬉しそうに目を輝かせた。

 そして、一口食べた後、嬉しそうに笑い、手の甲で、唇を軽く拭った後、その手で自身の頬を3回掻いた。

 その仕草は見覚えがあった。

 それは前世で将之が美味しいと思った物を食べた時に行う癖だった。

 他にも笑い方も自信がなくなった時は伸びていた背が少し丸まってしまう所、色々な仕草が前世よく見た姿と重なった。



 やはり、ショウの前世は将之だ。

 間違いない。

 将之によく似た姿に、姿を変化させている事も、もしかしたら無意識な行動なのかもしれない。

 ショウも俺の様に前世を思い出しているかは分からないが、ショウは前世で俺が恋焦がれた将之に違いない。


 将之もこの世界に転生していたんだ。

 俺はまた、将之に逢う事が出来たんだ。
 そう分かった俺は感極まってしまい目頭が熱くなった。
 
 しかも、将之はショウでもある事も今日分かった。

 俺は将之を……ショウを今世では絶対放しはしないと、何があっても守ってみせると……そう強く思った。

 それから夕方まで2人で祭りを楽しんだ。
 ショウと過ごす時間が嬉しくて愛おしくて、この時間がずっと続けば良いと思った。

 ショウの笑顔を近くて満喫できて、夢の様な時間だった。
 

 王宮に転移して戻ると、下品に肌を晒している女が近寄ってきた。

 すぐに振り払いたかったが、この娘は俺の婚約者候補の1人だった。

 もちろんすぐに断ってはいたが、伝わっていなかったらしい。

 こうして、婚約者になっていなくても俺と性的な関係を持ちたがる男も女も俺の周りには多くいた。

 過去の俺が全て相手にしなければ良かったが、俺が望まなくても、俺は子供を作らなければならない義務があるから俺は相手をしてしまっていた。


 この国では余程相性が良くないと子供を授かる事は出来ない。

 俺と関係を持った奴らが俺の子が出来たと偽ったとしても、俺にはそのモノの腹に触れるだけで、俺の子かどうか判断する事が出来たし、魔道具でも証明できた。

 しかしそんな奴らを相手にしていたのは風習的に義務の様なモノだったし、俺が別にどうでもいいと、他人に興味を持てなかったからだ。
 だけどそういう事はショウに出逢ってからは、全て、断っていた。

 ショウに出逢ってからは俺のソコはショウ以外には反応しなくなっていた。
 そんな俺だったから将之に似たマーサが気になってしまった事に戸惑ってしまったんだ。

 まあ今となっては、マーサもショウであったし、しかもショウの前世は将之だったと分かったんだ。

 俺が気になってしまうのは当たり前だったという事だ。

 しかし、この女、先程から何を言っているのだろう?

 一応、この女の親ともしている取り引きがある。
 仕事上の付き合いがあるといくら厚かましい女でもムゲには出来ない。

 いつの間にかショウが俺の隣からいなくなってしまった。

 ショウが腕輪を嵌めてくれているから俺にはショウの居場所はすぐに分かる。
 現在王宮内にはいるようだ……まだ話したい事があったんだが……。

 ショウに直接、どうして姿を偽っているのか聞きたい。
 だけど、それを聞いてしまったら、ショウは俺から逃げようとするかもしれない。


 この時、俺は俺が王宮内でどんな風に言われているのか、知らなかった。
 皆、俺の耳に入らないように話しているのだから知るはずもない。

 過去の俺の所為で、俺の行いが悪かったから当たり前な事だが……その事により、ショウとまた気持ちがすれ違ってしまっている事に、この時の俺は全然、気づいていなかった。

 

 
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