魔王なアイツは遠すぎて......。嫌われモノの俺 戦えない俺の異世界転生生活

やまくる実

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第七章 すれ違う気持ちと二人の本音 

第58話 タイアンさんとのデート、夢の様な時間 (ショウ視点)

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 今日はタイアンさんと一緒に王宮から出て街に行く。

 初めてこの地で王宮の外に出ると言うのもあるが、タイアンさんと出かけるという事に俺はかなり舞い上がっていた。


 昨夜、タイアンさんと久しぶりに二人きりで過ごし、少し良い雰囲気になった。

 きっとあのまま誘ったらタイアンさんは俺の事を優しく抱いてくれただろう。


 先輩達の話だとタイアンさんには何人もそういう方々が居る様だったから……。

 皆、タイアンさんに何人もそういう方々が居ても、構わない、そんな風に思う方達ばかりだと聞いた。


 この国の価値観は未だ俺には分からない。


 だけど、大勢の中の一人なんてやっぱり嫌だ。

 昨日はタイアンさんが色っぽすぎて、魅力的すぎて、それでも良いなんて流されてしまいそうだったけど……そんな現実、後でしんどくなる事が目に見えている。


 なんてそんな風に考えながらも、今日、仕事としてタイアンさんと一緒に行動する事にワクワクしてしまっている俺がいた。


 二人きりでお出かけなんて、まるでデートだ。

 いや、タイアンさんはこの国の王である魔王様だ。

 二人きりと言う事はないだろう。
 護衛の方々も一緒に行動するのかも……。

 そんな風にタイアンさんが迎えに来てくれるのを部屋の中で大人しく待っていた。




 護衛の方々が沢山おられる、そう思っていたのに、実際出かけるのはタイアンさんと二人きりとの事だった。

 今朝、早々に王宮の方達に俺や前王様と接触しても、魔物化する危険性は全くないと伝えて下さり、俺は王宮内も王宮の外も自由に行き来する事が出来る様になった。

 移動もタイアンさんの転移で街まで向かった。
 転移は腕を掴むだけで良かった筈なのに、その度に抱きしめられて、緊張で心臓が破裂しそうだった。

 

「久しぶりの街はどうだ?」

 現在タイアンさんと二人で街中を歩いている。
 上と違い、この地はなんか空の色が幻想的だ。

 空という言い方も間違っているのかもしれない。
 ココは地下だから、この上には地上があるんだ。

 なんだか不思議な所だ。

「はい、なんだか今日は賑やかですね」

「今日は祭りだからな」
「そ、そうですね……」

 そうなんだ……お祭りだったんだ。まずい、この地の人なら今日がお祭りだという事ぐらい知っていなければならなかったのかもしれない。

 変に思っただろうか?

 そう思ったがタイアンさんは特に気にしていない様だった。
「王宮での仕事は慣れたか?……と言っても特殊な仕事をさせてしまっていたしな……慣れるも何もないよな」

「いえ、前王様は私にも差別なく優しくして下さいますし楽しく仕事させて頂いていました」

「ならば良かったが……」

 そう言いながら二人でベンチに腰かけた。

 こうして二人で座っていると、すごく長閑で、あの洞窟で向かい合っていた時と、立場がかなり違ってしまった事も忘れてしまいそうだ。

「あの……俺に出来る事を、考えたのですが……」

 そうだ。
 この国に出来る為の何かがあるならば……俺に出来る事があればしたい。
 昨夜、タイアンさんにも俺の力が必要だと言われた。
 神様にも、俺にこの星を救って欲しいと言われた。


 この国の方達は上の世界に上がると魔物に変化してしまう、それには上で生活する事に必須の魔力が関係している。

 俺にはその負の魔力を払う力があるらしい。


 つまり上で主に使われている魔力は神様の奥様がつけた加護からなる負の魔力。
 そして俺の魔力はこの下の世界を作った神様自身の加護からできている魔力。

 そして俺の魔力は上の世界の魔力を払う事が出来るという事だ。

 ややこしい。

 だけど、上には大勢人がいる。



 俺一人だけで負の魔力を温かい優しい気持ちが元である魔力という奴に変化させるなんて可能なんだろうか?

 そう昨夜は眠れずずっと考えてしまっていた。

 下の方々は上に上がってしまうと魔物に変化してしまうんだよな……。

 変化しない様に内側から負の魔力に影響を受けない身体を作る事は出来ないだろうか……?



「俺の魔力というモノを下の方々にも上の方々にも少しずつ浸透させる事が出来ないかな? なんて……」

 そう、言った後、タイアンさんに敬語を使っていない事に気がついた俺は慌てて口を抑えた。

「そうだな。……俺も考えていたんだ。だが、これからの事も考える必要はあるが今日は仕事の事はひとまず置いておいて、一緒にこの祭りを楽しまないか?」
「え……?」

 タイアンさんの提案に俺は少し驚いてしまった。

 確かに俺は焦っていた。

 早くしないとこの国で悲しむ人が増えるから……。

 その負の連鎖を俺が止める事が出来るならば、一刻も早く行動しなければとそう思っていた。

 自分の恋愛が上手く行かないから、別の事で頭をいっぱいにしたいという気持ちも、もちろんあった。

 だけど、焦っても仕方がない。

 俺に出来る事から少しずつ考えて行こう。


 それからタイアンさんと屋台で買ったモノを食べ歩きしたり、前世での喫茶店の様な所に入りデザートを食べたり、久しぶりの休日を楽しんだ。

 もうそれはデートだった。

 俺がはしゃいで転びそうになったらタイアンさんが支えてくれたり、なんだか夢の様な時間だった。


 だけど……夢の様な時間だったけど、王宮内に戻った時、綺麗な女の方がタイアンさんに声をかけていた。

 少し大胆な衣装を着たその人は態度から身分の高い人だと予測がついた。

 俺は邪魔にならない様に慌ててその場を離れ、他の使用人の先輩達の元に向かった。


 久しぶりに会った先輩達とはすぐに打ち解ける事が出来た。
 実は少し不安だった。
 大丈夫と言われても皆、俺に接触する事が恐いんじゃないだろうか?
 そんな風に少し後ろ向きな事を考えてしまっていた。

 上の世界で、俺は黒髪というだけで酷い扱いを受けていた。

 だけどそれは諦めていた部分もあったから平気だった。
 でも、仲良くして下さった方々から避けられてしまったらそれは立ち直るのに時間がかかりそうだと思っていた。

 先輩からおかえりと言いながら軽く肩を叩かれた。

 なんだか嬉しくてむず痒くて顔がにやけてしまった。

 そんな風に機嫌が治った俺だったが先輩方の噂話にまた落ち込む羽目になった。

 先程の綺麗な女性はタイアンさんの婚約者候補の方らしい。


 そうだ。

 優しくして下さっても、俺とタイアンさんは立場が違う。

 俺はただの使用人。

 タイアンさんは魔王様だ。
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