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第七章 すれ違う気持ちと二人の本音
第57話 やっと俺の腕の中に (タイアン視点)
しおりを挟むショウの、マーサの部屋に伺うとは言ったが俺はショウを目の前にして襲わずにいられるか今更ながらに頭を抱えていた。
しかし、どうにかしてショウの気持ちを探る必要がある。
まず、自分から話はしないだろうが、何故、自分の正体を隠しているかという事だ。
俺が目を覚ました時、ショウがそのままあの部屋にいてくれたならば、俺の客人として丁重に迎える事ができた。
意識が無い内からその準備を整える必要があったがあの時は俺の判断で勝手に上のモノを連れてきてしまっていたから、皆への紹介が遅れてしまった。
今となってはもうどうしようもないが、現在、ショウはココではマーサとして、この王宮の使用人として雇っている様だ。
もっと言うと今は親父専門のお世話係りとなっている様だ。
性的な事は親父自身がまだ手を出していない様だったが、親父はまだまだそう言う意味でも悪い意味で遊び人だ。
本当に手を出していないかわからない。
悪い風習ではあったが、使用人は求められたならば拒否する事は難しい。
だから余計にすぐにマーサがショウだと気づけなかった自分に腹が立った。
ショウと分かっていたならば親父のお世話係りなんて俺が目を覚ました時点で辞めさせていたというのに……そんな事をくやんでも今更だ。
俺も親父も、昔からそうして、男も女も何人も相手にする事を義務としていた。
そうして、摩化地下王国は魔王の血筋を残す事で、この国を守ってきたから……。
それに俺自身も親父から受け継いだこの血は精力旺盛だったりする。
親父はあの歳でも邪気の呪いにかかるまで何人も愛人を抱えていた。
親父が俺の知らない所でもし、ショウに手を出していたとしたならば……。
考えただけで頭が怒りでどうにかなりそうだった。
国の為、そういう身体の作りだからとか関係ない。
親父はマーサ(ショウ)を気に入っている様だった。
マーサしか自分の世話をしてくれる人がいないとなってはショウを怒らせてしまったら、具合が悪いだろうから簡単には手を出してはいなかっただろうが……。
だけど、親父がマーサを甘やかしていたのは表面的に見ても明らかだった。
なーんて、今までの俺の行動の落ち度を考えても仕方がない。
これからどうするかだ。
親父がショウにもし手を出してしまっていたら……そんな事を考えたくもないが……。
もしかしたらショウは快感に弱いのかもしれない。
もし、ショウが上の世界に戻りたいと思っていたとしても、それ以上にココに居たいと思わせてしまえば良いんじゃないだろうか?
それに親父がもし手を出していたならば、ショウは魔国民と性的な交わりをしたとしても、身体的におかしな事にならなかったという事の証明ではないか?
いや、違う。
俺はそんな事を思っていたんじゃない。
ショウの中に誰か別のヤツのモノが入ったなんて、そんな事が俺自身、許せる筈がなかった。
親父だからとかそんな事、関係ない。
それが上の世界での、ショウの幼なじみだったとしても同じ事だ。
俺はこの時、仕事をしながら考えすぎて頭に血が上っていたのだと思う。
ショウの部屋に入ってから俺はショウのベッドに座った。
ショウは中々近づいてこない。
見た目は将之に似たマーサの姿のままだ。
近づいてきたと思ったら、なんだか少しボーとしている様だ。
足元がおぼつかない。
危ないと思った俺はショウの手を引いて俺の隣に座らせた。
ショウの格好は使用人の一般的な制服だ。
人それぞれ、色を変えたり丈を変えたり紐やリボンを変えたりして個性的に着くずしているが、ショウは地味な、何処も弄らず、見るからに真面目そうな格好をしていた。
だがその黒い制服の中から見えている真っ赤に染まった白い肌は何処からどう見ても俺を誘っていた。
それは、近くにいる俺を意識している事が丸わかりだったから……。
親父の近くにいた時、ショウはこんな表情は見せなかった。
そんなショウの様子に少しだけ安心し、余裕が取り戻せた。
「今回、俺がこの部屋を訪れたのは、マーサにして欲しい仕事があったからだ」
そう言いながら俺はショウの肩に手を回した。
耳に触れながらショウの反応を見る。
「はい。お、俺に出来る事があるのでしょうか?」
ショウは声を震わせながらそう言った。
何を考えているか分からないが怖がっている訳ではないようだし、嫌がっている訳でもない。
身体の力が抜けた様に俺に寄りかかってくれている。
「マーサにできる事は多くある。マーサの手で触れると上の世界で吸い込んでしまった邪気を払える様だ。現に親父の呪いが解けた」
「俺がしたと言う証拠もないとは思うのですが?」
自信が無さそうに声を震わすショウの頬に軽く触れ少しだけ引き寄せ目線を合わす。
「俺とマーサ以外、親父と接触していない、親父を元の姿に戻したのはマーサの力だ」
本当はショウの力だと言いたい。
だけど、ショウはショウである事を俺に偽っている。
赤い顔をしたままショウが少し俺と距離を取ろうとする。
俺はやっと俺の腕の中にいるショウを放したくなくて、ショウを軽く抱きしめた。
「魔王様、話をしにきたのではないですか?」
そうだ。
無理矢理、手を出したとしてもショウの心が手に入らないと意味がない。
「そうだな。すまない」
俺はショウから人一人分、少しだけ距離をとった。
「俺はどうしたら良いのでしょうか?」
俺が距離を取った時、僅かにショウが顔を歪めた気がしたが、すぐに穏やかな表情に戻り俺にそう言った。
「そうだな。色々考えてはいるのだが、マーサがどんな能力があるのかまだ分かっていないからな……明日、一緒に街に下りてみないか? マーサにも予定があるかもしれないが、これからは休日もしっかり与えるつもりではいる……」
ショウは一瞬戸惑う様に下を向いた。
「そうそう、王宮外にでるのは久しぶりだろう? マーサの力はこの国にとって貴重なものだ。コレを受け取ってもらえないだろうか?」
そう言いながら俺は持ってきていた腕輪を取り出した。
「コレはなんでしょうか?」
「保護魔法が付いている魔道具だ。ある程度の攻撃は防ぐ事ができる」
「あ、ありがとうございます」
ショウは戸惑いながらも受け取ってくれた。
俺はショウの事をショウと認識した事と、ショウに少しでも触れる事が出来たおかげで、前の様にかなりの魔力を取り戻す事が出来てきていた。
今ならば、ショウが自分の姿を偽る魔法を使っていたとしてもどんな姿だろうと見間違える事は無いだろう。
しかし、迂闊な所は変わってないな。
この腕輪にも前世でのGPSの様な機能が付いている。
ショウは今でもイヤーカフの魔道具を着けてくれている様だが対である俺のモノは見つかっていない。
この腕輪は本来、魔王である俺の婚約者や伴侶に渡す為のモノだ。
俺は未だに恋人も婚約者もいなかった。
今までは求められていたが、そんな気になれる相手がいなかった。
身体の関係はあったとしても、それは義務としてで、俺は人を好きになれないかもしれないと思っていた程だ。
特別な人を作る事を恐れていたのは前世での将之の事を引きずっていたのだろうが、ショウに出逢ってしまってからの俺は、引き寄せられる様にショウに惹かれてしまった。
この腕輪は俺自身の魔力で作ったモノでショウが何処かに捨てたとしてもショウが一度でもはめさえすればショウ自身の近くまで戻るという優れモノ。
この腕輪を受け取って貰えたら何処に逃げてもショウの居所が分かる。
「はめてやろう」
そう言いながら俺はショウの細い手首に腕輪を通した。
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