魔王なアイツは遠すぎて......。嫌われモノの俺 戦えない俺の異世界転生生活

やまくる実

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第七章 すれ違う気持ちと二人の本音 

第54話 マーサの正体 (タイアン視点)

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 ショウが何処にもいない。

 いや、厳密にはいない訳ではない。
 ちゃんとショウの気配はする気がするのに、居場所が特定出来ないのだ。

 ショウに渡している魔道具と対になっているイヤーカフも未だ見つかっていない。


 そして、最近、出来たもう一人の気になる奴。
 マーサとも、あの日以来、会えていなかった。

 俺自身、ショウ以外に、気になってしまう人がいるなんて、そんな自分が嫌で認めたくなくて、積極的に会いにいけていなかった。


 そして、今日は親父の邪気の呪いが抜けたかどうか検査する日でもあった。


 俺は見届け人として付き添う。

 数日より前からもう前と変わらない姿に戻れたから部屋から出たいと親父に言われていた。


 確かに親父が動き回れる様になれば仕事はかなり楽になるだろう。

 しかし、親父の中に上での邪気の呪いが残っていたら、この魔国に最悪の結果を招いてしまう。

 大丈夫と分かっていても慎重にならざるを得ない。

 まあ俺がショウを探す事でココ数日、親父の相手をしていなかったというのも理由だったりするのだが……。



 親父の部屋に入ると同時に清々しい香りもしてきた。

 扉を閉めて中に入ると親父の側にマーサが立っていた。

 親父も今日はベッドではなく椅子に座っている。


 最近は俺が親父の部屋に来る時はマーサが居ない事がほとんどだった。

 だから、俺はこうしてマーサに会うのは2回目だ。

 しかし、何処からどうみても将之に似ている。
 将之が甦ってきたかの様だ。


 俺は前世で将之が若くして死んでしまい、それ以来大切な人を作る事を拒んできていた。

 今世でもその思いは残っていて、やっと出来た好きな人がショウだった。

 だからと言って、マーサがいくら前世で好きだった相手にそっくりだと言っても、それは見た目であって、本人ではない。


 ショウと長く触れ合って居ないからか、俺自身のストレスが溜まっているからか、現在、俺の能力がショウに出逢う前ぐらいに戻ってしまっている。

 だから、嗅覚もおかしくなっているのだろう……。


 そうでなければ、おかしい……。
 見た目がショウとこんなに違うのに、マーサに近き触れたいなんて思ってしまう。

 俺はそんなに惚れっぽくはない筈だったのに……。
 

「早速、例の部屋に行こう」

 そう言いながら椅子から立ち上がった親父に声をかけられて、俺は我に返った。


 例の部屋、と言うのは俺達(俺や親父)、上の世界に行った者がコチラの世界に戻った際に、上での邪気を持ち込んでいないか確認を行う部屋だ。


 その部屋に入った時、上からの邪気が残っていたら部屋に設置してある魔道具に反応がある。

 呪いが無ければ、時間が経てばその邪気は魔国に居れば消えて行く。
 もし邪気が消えていなければその場合はこの部屋や、親父や俺の部屋に留まっていれば魔国民達に悪い影響を与えないですむという訳だ。


 親父一人で転移してその部屋に行く事も可能だったかもしれない。
 だけど、もし呪いが残っていたとしたら、そんな時に転移する魔法なんて、強い力を使ってしまうと王宮内の魔国民達に悪い影響を与える事になりかねないと、親父に我慢してもらっていた。


 俺は親父の言葉に軽く頷き、親父の所まで歩いた。そして親父の手首を掴み、その例の部屋に転移した。

 この歳になって親父のゴツい手を引くなんて、なんだか気恥ずかしいが仕方がない。

 久しぶりに入室したその部屋はしばらく人が入っていなかったからか所々埃かぶっていた。

 ショウを探す為に俺は上に上がったりもしていたが、俺自身はこの部屋は使っていなかった。

 まあ邪気の魔力は獰猛で生き物の様な感じだ。
 随分と回復してきた俺ならば、俺自身の中のモノならこの部屋に入室しなくても判断できた。

 しかし、湿っぽく空気がかなり悪いな。

 俺は素早く室内に浄化の魔法をかけた。
 辺りを見渡すと親父の横に最近、気になってしまう存在、マーサがいる事に気がついた。


 親父だけを連れてきたつもりだったが親父がマーサの手を掴んでいたのかマーサも一緒に連れてきてしまったみたいだ。

 ココは俺と親父しか入ってはならない部屋なのに……。

「言い忘れたが、今回、マーサの事も検査してもらうつもりだった。ワシに接触している事で、他のモノと接触する事を避けなければならないなんてマーサが可哀想だからな」


 そう親父に言われて俺はハッとし、マーサを見た。

 マーサが気まずそうに頭を下げた。

 確か、マーサには親父の世話を任せる様になってから、他のモノとは距離を置くようにと指示し、部屋も一人部屋を与えていると報告を受けていた。


 俺自身は常に、自身の状態を感知できるから他の者とも堂々と会っていたが、マーサには親父の世話を押し付けながらも、生活し難い環境に追いやっていたという事か……。


「やはりもう上での呪いは解けた様だ」

 親父がそう言いニヤリと笑いながらマーサの肩に触れた。

 確かにこれだけ長くこの部屋にいるのに魔道具であるセンサーの反応がないという事は、もう親父の呪いも解けているし、マーサもその影響を受けてはいない事が証明された。


 だけど、なんだか親父がマーサの肩に触れた時、不自然に空間が歪み、一瞬、マーサの顔がショウに見えた気がしたのは気のせいか?

 しかも親父が安易にマーサに触れている事に、腹が立ってしまっている自分がいて、そんな自分自身に戸惑っていた。


「コレでワシもマーサも、好きに王宮内や外へも動き回れると言う事だな」

「ですが、タイオウ様。以前より筋力は弱ってしまっていると思います。少しずつ部屋周辺の散歩などから行った方が良いと思います。これからは俺以外の方も関われますので、俺は以前の仕事に戻して貰おうと思っております」

「そうか……長い間、引き止めてしまってすまなかったな。王宮内での働く時間を減らしたいと言っておったの」


 親父とマーサがそのまま部屋から出て行ってしまいそうだったから慌てて引き止めた。

 まだ他の者達に親父とマーサに接触しても問題はないと伝えていない。


 俺は再び二人の腕を掴み転移をした。

 問題なく親父の部屋には転移出来たが、マーサの手を掴んだ時、マーサの身体が丸っとショウに見えた。

 コレは俺の目の錯覚ではない。
 香りが似ていた訳ではない。
 ショウの香りそのものだったんだ。

 やはりマーサはショウだった。
 表面的な見た目、しかも将之そっくりな見た目に騙されてしまっていた。

 だが、という事は……ショウは俺に自分の事を偽っていたと言う事か?


 何故だ?
 何故そんな事をする必要がある?

 もしかして……。
 ショウは俺から、こんな姿、こんな立場である俺から逃げたかったのか?

 やはり早く上に戻りたかったのだろうか?
 あの、男の元へ……。

 それに、あの姿に変わっていたという事はショウの前世はやはり将之だったという事か?

 マーサがショウだったという事に、俺が気づいた事を知られてはならない。

 ショウは王宮の仕事を減らしたいと言っていた。

 ショウは上に戻れる方法を探っているのかもしれない。

 本当はショウを上に送り届ける必要があるだろう。
 それが、あの男の近くに送り届ける事だったとしても、ショウはあの地で身につけた仕事を行いながら、楽しそうに生活していたのだろうから……。


 地上での暮らしが住みにくかったとしても、ショウがそれを望むのなら俺は、止める事はできない。

 

 だけど、ショウはマーサは、俺にもこの魔国にも必要な存在だ。

 親父が元の姿に戻れたのは、どう考えてもショウの能力のおかげだから……。

 簡単に上に送り届ける事は出来ない。


 やはりこのまま、俺がマーサに扮しているショウの存在に気づいてないフリをしてマーサに近くしかない。

 気づいていないフリなんて出来るだろうか?

 やっと逢えた愛しい存在を前にそんな演技が出来るのかと、心の中だけで頭を抱える俺だった。


 

 
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