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第六章 俺とアイツの立場と距離
第48話 衝撃的な事実 (ショウ視点)
しおりを挟む俺は絶体絶命だったけど、とにかく前向きな事だけ考えて俺自身の力を信じて集中した。
扉はゆっくりと開かれた。
開かれたと同時に入ってきたのは少し都会的なメイド服の様な服を着た女性だった。
スカート丈は短めで使用人にしては少し奇抜だ。
俺は目が合った様な気がしてドキッとしたが、その人の目線は俺ではなく、布団が捲れ上がっている俺が先程眠っていた無人のベッドの方に向けられていた。
「この忙しい時に……」
小さく溜息を吐いたその人はそう呟いた。
俺はその人の目には映っていない様だった。
やった。
初めてだったけど成功したみたいだ。
俺はその人が部屋に入ってきたと同時にその人に接触しないように部屋から出る事に成功した。
その人が上手くドアを開けたまま部屋に入ってきてくれたから助かった。
まだ心臓の音が大きい。
息も止めていた。
だって、アイツの言っていた事が本当ならば、姿は見た感じ消す事が出来たとしても本当に消えている訳ではないんだ。
きっとそこに居ない様に見せる、そう言う事なんだと思う。
だから触られるとバレてしまうという事だ。
俺は今、他の人には見えていないんだ……。
俺は部屋から出たら目の前を先程俺の部屋に入ってきた人とは別の人達がバタバタと忙しそうに走り回っている。
ここはどういう場所なんだろうか?
魔王城というよりは何処かの宮殿の様だ。
見かける人々は皆、見た目普通の人達、魔物など一匹も見当たらない。
そんな嫌な匂いもしない。
どちらかと言うと高貴な人が住んでいそうな建物の作りとずっとココに居座りたくなるような清々しい良い香りに包まれている。
俺はぶつかってしまわない様に慌てて避けた。
俺がいない事が知られて更に別の場所で見つかってややこしい事にならない様に俺はその場を移動した。
とにかく情報を得なくては……。
このまま姿を隠したままでも良いけれど、もう少し手っ取り早く話を聞き出したい。
しばらく歩くと一つの扉から声が聞こえてきた。
「来るはずだった新人はまだ来ていないのか?」
怒鳴りつけるようなその声に俺は思わず耳をすました。
******
「ほら、端を持って広げるのよ」
その掛け声に合わせて、俺は相手のタイミングを見ながらシーツを広げた。
ココはこの建物の2階の端の方にある大部屋である。
俺はあの後、なんとか自分の姿を違う姿に見せる魔法をかけ、この建物内の使用人の控え室に潜り込む事に成功した。
自分自身の姿を消す魔法とやり方はあまり変わらなくて俺も少しずつ自信がついてきた。
それに……なんだかんだで俺はついていた。
丁度雇われる筈の新人が遅刻しており、ソイツになりすます事ができたんだ。
バタバタした事が重なっていた為、ソイツの事が載っている書類も手元に無かった事もあり、俺は適当に話を合わせる事ができた。
もともと雇われる筈だったソイツには悪いことをしたが俺も背に腹はかえられない。
現在は客室のベッドメイキングを先輩から習っている。
俺の見た目は20歳ぐらいの地味な男性に見えている筈だ。
実はどんな姿に見えているのか俺自身も分からない。
まあ先輩方の反応を見るとそんなおかしな姿でもないんだろう。
耳につけた魔道具はそのままだから、髪色は茶色に見えていると思う。
先輩方は結構噂話が好きらしく、色々な情報を耳にする事ができた。
そして、ココは魔王城とは言わないけれど、やはり魔王様がココにおられるらしい……。
魔王ってこの世界にも本当に居たんだ?
まあ、勇者がいるぐらいだから……な。
だけど魔王って魔物や悪魔とかを家来として従わせている訳じゃなかったのか?
そんな風に頭を捻らせながらも俺は仕事をこなした。
男の使用人として潜り込んだ割にはさせられている事は女性としての仕事が多い。
だけど俺はあまり体力がある訳ではなかったし、要領も良い方ではないから助かっていた。
俺は前世では福祉関連の商品の営業職をしていた。
3ヶ月ほど程研修で関連会社の経営する福祉施設に介護職員として働いた事もある。
実際俺は、営業という仕事に向いてはいなかったから、その介護職をしていた3ヶ月はとても楽しかった。
その経験もあった為、今世ではやった事はない仕事ではあったが、ココの使用人としての仕事は自分に合っている気がした。
だけどもちろん、俺は本来の目的を忘れた訳ではない。
タイアンさんの居場所を探さないと、タイアンさんは無事なんだろうか?
俺はどうしてココの一室に寝かされていたのかも調べないと……。
そんな風に思いながら俺は仕事をこなしていた。
ココは護衛の様な方もおられるし、俺達使用人は限られた人しか入れない部屋や建物がある。
まだ俺はこの建物と隣の建物以外、外には出ていない。
隣の建物は俺が始めに寝かされていた部屋があった場所で、普通の使用人は入る事が許されていない建物だった。
もしかして、俺が居たあの場所には魔物が居たんだろうか?
魔王は普通の人達と一緒に暮らしているのかな?
ココにいる方達はとても俺に親切にして下さる。
新人の俺にも眠る部屋まで与えて下さって……使用人五人ぐらいで使っている部屋だから狭いけど、寝具も一人一人用意されていて、生活するのに充分な待遇だった。
ココが何処かも分からないけど、タイアンさんの無事を確認できたら、ココで生活するのも悪くないと思い始めている俺だった。
なんてアースさんにはどうにかして連絡を取らないと、きっと心配して下さっている。
働き手が急に居なくなって困っているだろうし……。
それにはココが何処か調べないと……。
そうして俺は仕事をしていくうちに驚く様な情報を手にした。
ココは俺が元々いた場所の地下にあたるらしい。
「どうしたの?」
「うん、今朝手紙が届いてね……弟が行方不明らしいの……」
「…………」
噂話をしていた先輩の使用人さんのうち、そう話していた人が急に泣き出した。
話を聞いていた先輩が何も言わずに泣いている話をしていた人の背を撫でて一緒に辛そうな顔をしていた。
行方不明……それは大変だ。
そう思いながら、俺は別の先輩に話を聞いた。
もちろん俺は言い過ぎないように気をつけながら話を聞き出した。
そして俺は衝撃的な事実を知った。
俺達が上の世界で見ていた魔物達は、元はココで普通に生活している人達だったという事を……。
ココで俺達と何処も変わらず、笑って生活しているこの人達が、上に上がると魔物化してしまうと言う事を……。
俺に加護を与えてくれた神様は、この世界を作った神様(神様の奥様)の魔力が届き難い場所を作ったと言っていた。
それがココなんだ。
そして、この世界を助けて欲しくて俺を転生させたと言っていた……。
上の世界で冒険者達が当たり前の様に倒していた魔物が、ココで生活していた人達の変化後の姿だったんだとしたら……。
なんて酷い話なんだろう……。
そんな負の連鎖を俺が……止める事が、本当に出来るんだろうか?
タイアンさんの無事が知りたくて情報を集め始めたのに……。
知りたくない事を知ってしまった……。
そう思った。
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