42 / 73
第五章 前世の記憶
第42話 複雑な記憶と神様の話 (ショウ視点)
しおりを挟むあまりの衝撃的な事実に思考回路が停止してしまいそうだったが、前世を追う映像は続いていた。
大魔との、俺の知らなかった過去を過ぎ去りまた、俺は客観的に前世を見る状態に戻ってきた。
こうして前世を追う事で俺の死んだ理由も思い出してきた。
それは少し苦い死因だった。
嫌、死因自体は何かは俺は知らない。
俺が死んだのはまだ若かったと思う。
死ぬ直前まで音は聞こえてはいたが、はっきり聞こえていたわけでもないし身体は動かなかったから今何歳か、とか、事件が起こってからどれぐらい経ったかとか分からなかった。
何も出来ず、身体も動かせない、そんな状況で生き続ける事は苦痛だった。
その時間は永遠の孤独、そう言っても良いくらいだった。
俺が、ショウとして孤独だったと思っていたが、この時とは比べものにならないかもしれなかった。
前世の俺がこんな身体になってしまったキッカケ……その事件とは……。
龍鬼は家が金持ちだった。
そう俺は龍鬼の事情に巻き込まれたのだ。
まあ、巻き込まれたと言ったら語弊になる。
龍鬼がいなくなり、俺は危険だと分かっていたのに、勝手に首を突っ込んだんだ。
疎遠になって随分と経つのに、いつまでも、俺は龍鬼のヒーロー気取りだったんだろう。
龍鬼を誘拐した組織は唯の金目的。
俺は誰も傷つけずに龍鬼を助け出せないか模索した。
しかし、俺は超能力がある訳でもない。
少し普通よりも鍛えているというだけの、ただの会社員だ。
しかも潜入したはいいモノの、龍鬼を誘拐した奴らは、雇われていただけで、しかも、そうせざるをえない事情を抱えていた。
俺はそいつらの全ても否定出来なかった。
そして悲しい事故が起きてしまう……。
龍鬼を誘拐した組織の奴らは普通に刃物を持っていた。
もちろんそれで龍鬼に危害を加えようって訳でもない。
奴らは金目的、金さえ手に入れば、それで良かった筈で、だけど、刃物をもつと言う事は悲しい結果になる可能性もある……だから俺は慎重に行動しないと……そう思っていた。
そして事故は起こってしまった。
それは俺にとっては最善だった。
だけど、それは龍鬼を苦しめる結果だったのかもしれない。
龍鬼は故意にやった訳じゃない。
あの時、俺も龍鬼も必死だった。
結果龍鬼から俺が刺された形になった。
少しだけ関わった犯人を俺が庇う形でそうなってしまった。
その後、龍鬼の家の者達が駆けつけてきて、犯人はお縄になった。
その後、龍鬼とも会えていないまま、俺は大した傷ではないと思っていた。
もちろん治療も受けたし、完治したと思っていた。
だけど、完治ではなかったのだろう......。
その傷がキッカケだった。
いや、キッカケに過ぎない。
俺自身の食生活や生活習慣が悪い方向につながったとも言える。
俺は動けない身体になってしまった。
話している声は聞こえる。
龍鬼がその後、精神的に参ってしまったと聞いた。
だけど俺は動けない。
俺は余計な事をした。
キッカケとは言ったが、実際は分からない。
俺はこの事件の数年前辺りから、かなりだらしない食生活を送っていた。
だから、原因は、きっと俺自身が悪かったんだ。
だけど……、周りはそうは思わない。
龍鬼はきっと自分を責めただろう……。
俺がした行動により、龍鬼の心を傷つけてしまった。
もっと慎重に動いていれば、誰も傷つかずにすんだかもしれないのに……。
俺は記憶が戻り、とても複雑な気分になった。
『将之君、また君には辛い思いをさせてしまったね……。それに会いに行くのも遅くなってしまって、悪かったね』
一通り記憶を見終わったタイミングで、聞こえてきた声。
例の神様だった。
『ええと、別に……神様の都合もあるだろうし、俺は大丈夫です』
『そうそう。忙しいんだよね……なんて、いい訳になってしまうね』
前回と同じで神様の姿は見えない。
聞きたい事はいっぱいあったけど、俺は先程の記憶を整理する事でいっぱいいっぱいで上手く言葉が出なかった。
『懐かしい映像だったね。僕も懐かしかったよ』
『この時の俺を知っているんですか?』
『知っているとも、君と僕との出会いはこの世界、地球だった。まあ、君は分からないよね。君は良く仕事前に、神社に立ち寄っていた事を覚えているかい?』
それは確かに神様か、前世での俺のマンション付近の人しか知らない事柄だ。
『ええと……覚えています』
なんだかそんな風に言われるとあの時、神様に語りかけていた事が、全部聞かれていたかと思うと少し恥ずかしい……。
『あの時、僕は自信を無くしていた時期でね、どんな不遇な時でも前向きに頑張る君が微笑ましくてね見守っていたんだよ』
なんだか俺は前世でも今世でも、褒められた事があまりなかった。
だから神様的には何気なく言っていたのかもしれないが少し嬉しくて恥ずかしくて、むず痒かった。
『この星自身は僕の管轄じゃなかった。
だけど、この星(地球)は星自身の歴史も古く、まあ、上手く星の歴史が続いていたから、お手本にもなるしで、僕はよく、訪れていたんだ。
まあ、ここの人々の暮らしを見守るのはある意味、新しい星を作ったり発展させるのにとても勉強になったから……。
妻も、勉強になると思って、よく連れてきていたんだよ。
だから、君が、神社で話していた内容も僕はついこの前の事の様で懐かしいんだ』
なんだか神様も色々あるんだなーなんて話を聞きながらも、あの時、どんな事を話していただろう? 厚かましいお願い事とかしていたかもしれないなんて内心冷や汗を掻いていた俺だった。
11
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる