魔王なアイツは遠すぎて......。嫌われモノの俺 戦えない俺の異世界転生生活

やまくる実

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第五章 前世の記憶 

第42話 複雑な記憶と神様の話 (ショウ視点)

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 あまりの衝撃的な事実に思考回路が停止してしまいそうだったが、前世を追う映像は続いていた。

 大魔との、俺の知らなかった過去を過ぎ去りまた、俺は客観的に前世を見る状態に戻ってきた。

 こうして前世を追う事で俺の死んだ理由も思い出してきた。

 それは少し苦い死因だった。

 嫌、死因自体は何かは俺は知らない。

 俺が死んだのはまだ若かったと思う。

 死ぬ直前まで音は聞こえてはいたが、はっきり聞こえていたわけでもないし身体は動かなかったから今何歳か、とか、事件が起こってからどれぐらい経ったかとか分からなかった。


 何も出来ず、身体も動かせない、そんな状況で生き続ける事は苦痛だった。

 その時間は永遠の孤独、そう言っても良いくらいだった。

 俺が、ショウとして孤独だったと思っていたが、この時とは比べものにならないかもしれなかった。


 前世の俺がこんな身体になってしまったキッカケ……その事件とは……。

 龍鬼は家が金持ちだった。

 そう俺は龍鬼の事情に巻き込まれたのだ。

 まあ、巻き込まれたと言ったら語弊になる。
 龍鬼がいなくなり、俺は危険だと分かっていたのに、勝手に首を突っ込んだんだ。

 疎遠になって随分と経つのに、いつまでも、俺は龍鬼のヒーロー気取りだったんだろう。

 龍鬼を誘拐した組織は唯の金目的。

 俺は誰も傷つけずに龍鬼を助け出せないか模索した。

 しかし、俺は超能力がある訳でもない。

 少し普通よりも鍛えているというだけの、ただの会社員だ。

 しかも潜入したはいいモノの、龍鬼を誘拐した奴らは、雇われていただけで、しかも、そうせざるをえない事情を抱えていた。

 俺はそいつらの全ても否定出来なかった。

 そして悲しい事故が起きてしまう……。

 龍鬼を誘拐した組織の奴らは普通に刃物を持っていた。

 もちろんそれで龍鬼に危害を加えようって訳でもない。

 奴らは金目的、金さえ手に入れば、それで良かった筈で、だけど、刃物をもつと言う事は悲しい結果になる可能性もある……だから俺は慎重に行動しないと……そう思っていた。


 そして事故は起こってしまった。

 それは俺にとっては最善だった。

 だけど、それは龍鬼を苦しめる結果だったのかもしれない。

 龍鬼は故意にやった訳じゃない。
 あの時、俺も龍鬼も必死だった。
 結果龍鬼から俺が刺された形になった。

 少しだけ関わった犯人を俺が庇う形でそうなってしまった。

 その後、龍鬼の家の者達が駆けつけてきて、犯人はお縄になった。

 その後、龍鬼とも会えていないまま、俺は大した傷ではないと思っていた。


 もちろん治療も受けたし、完治したと思っていた。
 だけど、完治ではなかったのだろう......。
 

 その傷がキッカケだった。
 いや、キッカケに過ぎない。

 俺自身の食生活や生活習慣が悪い方向につながったとも言える。

 俺は動けない身体になってしまった。

 話している声は聞こえる。

 龍鬼がその後、精神的に参ってしまったと聞いた。

 だけど俺は動けない。

 俺は余計な事をした。

 キッカケとは言ったが、実際は分からない。

 俺はこの事件の数年前辺りから、かなりだらしない食生活を送っていた。

 だから、原因は、きっと俺自身が悪かったんだ。

 だけど……、周りはそうは思わない。
 
 龍鬼はきっと自分を責めただろう……。
 俺がした行動により、龍鬼の心を傷つけてしまった。


 もっと慎重に動いていれば、誰も傷つかずにすんだかもしれないのに……。


 俺は記憶が戻り、とても複雑な気分になった。

『将之君、また君には辛い思いをさせてしまったね……。それに会いに行くのも遅くなってしまって、悪かったね』


 一通り記憶を見終わったタイミングで、聞こえてきた声。

 例の神様だった。

『ええと、別に……神様の都合もあるだろうし、俺は大丈夫です』
『そうそう。忙しいんだよね……なんて、いい訳になってしまうね』

 前回と同じで神様の姿は見えない。
 聞きたい事はいっぱいあったけど、俺は先程の記憶を整理する事でいっぱいいっぱいで上手く言葉が出なかった。
『懐かしい映像だったね。僕も懐かしかったよ』
『この時の俺を知っているんですか?』

『知っているとも、君と僕との出会いはこの世界、地球だった。まあ、君は分からないよね。君は良く仕事前に、神社に立ち寄っていた事を覚えているかい?』


 それは確かに神様か、前世での俺のマンション付近の人しか知らない事柄だ。

『ええと……覚えています』

 なんだかそんな風に言われるとあの時、神様に語りかけていた事が、全部聞かれていたかと思うと少し恥ずかしい……。
『あの時、僕は自信を無くしていた時期でね、どんな不遇な時でも前向きに頑張る君が微笑ましくてね見守っていたんだよ』

 なんだか俺は前世でも今世でも、褒められた事があまりなかった。

 だから神様的には何気なく言っていたのかもしれないが少し嬉しくて恥ずかしくて、むず痒かった。

『この星自身は僕の管轄じゃなかった。

 だけど、この星(地球)は星自身の歴史も古く、まあ、上手く星の歴史が続いていたから、お手本にもなるしで、僕はよく、訪れていたんだ。

 まあ、ここの人々の暮らしを見守るのはある意味、新しい星を作ったり発展させるのにとても勉強になったから……。


 妻も、勉強になると思って、よく連れてきていたんだよ。

 だから、君が、神社で話していた内容も僕はついこの前の事の様で懐かしいんだ』


 なんだか神様も色々あるんだなーなんて話を聞きながらも、あの時、どんな事を話していただろう? 厚かましいお願い事とかしていたかもしれないなんて内心冷や汗を掻いていた俺だった。
 

 

 
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