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第五章 前世の記憶
第41話 知らなかった過去の真実 (ショウ視点)
しおりを挟む一体、俺は何を見せられているんだろう?
映画の様に視点、視点で入れ替わっていく過去の記憶。
俺は大魔への恋心が、前世の俺を通して再び見る事で鮮明に甦ってくる様だった。
そして、覚えのない映像が目の前に映し出された。
いや、全く覚えがない訳ではない。
前世の俺は、将之である俺は、その出来事の事は鮮明な夢を見たと、そう思っていた。
恋焦がれすぎてそんな夢を見てしまったんだと、そう思っていた。
目の前に映っていたのは、前世の俺がみっともなく酔っ払っている所だった。
確かこの日は取り引き先の人に酒を勧められ、いつもなら断るんだが少しむしゃくしゃしていたのと、少しぐらいは大丈夫だろうと思っていた事、断りにくかった事もあり安易な気持ちで飲み過ぎてしまったのだ。
この日、どういう流れで取り引き先の人と別れたのか分からない。
次の日俺は身体中が気怠くて、何か少し下半身に違和感があった。
その日、俺は大好きな大魔に、恋焦がれていた魔王に抱き潰されるなんて大それた夢を見ていた。
真実は知らない行きずりの男に酔った勢いで抱かれたのかもしれない。
だけど俺はその幸せ過ぎた夢を、現実とは違うと分かっていても、その夢だけを信じたくてもう夢で良いと、現実を受け止めようとしていなかった。
だから俺は、前世の俺も童貞処女だったと、今世の俺はそう思っていたのだが、実際は違うとも分かっていた。
記憶を転生したのをいい事に作り変えていたのだ……。
……。
……。
そう。コレは都合の良い夢だ。
そう思っていたのに、目の前の映像はなんなんだ。
前世の俺と、前世、俺が恋焦がれていた親友が口付けている。
もう、見ていられないくらいに……。
大魔(オオマ)の俺(将之)を見る目は完全に欲を含んでいるものだと俺にも分かってしまう。
ど、どういう事なんだ??
実際俺が体感している訳ではない。
だけど、目の前の映像が、それが事実なのだと……そう思うと同時にその感覚が俺に押し寄せてきた。
俺はこの出来事を夢だと思いこもうとしていた。
実際は知らない男に抱かれたんだろうけど、そんなの覚えていないし、次の日、俺の身体中に残されたキスマークと気怠い下半身。
少し痛みもあったけど、俺はその行きずり相手でも俺は大魔に抱かれている様に思えたから、実際はレイプだったとしても、気持ち良かったそれは、夢だと思い、忘れようと思った出来事だった。
もし、レイプだとしたら、もう会いたくもないし、揉め事にもしたくなかったから後輩にこの出来事の前日に一緒に飲んだ取り引き先の人の担当を、別の理由をつけて変わってもらったから、実際どうだったのか、分からないままだった。
まさか、夢だと思っていたのに……、夢じゃなかったと言う事なのか?
俺はこの夢のせいで、後ろを弄らないとイケナクなってしまったんだ。
大魔に抱かれていると思い込まないとイケナクなってしまったんだ。
その時点で俺の人生は終わったとも思ってしまっていた。
実際の俺(将之)と大魔は、俺が数年前から避け始めてしまった所為で疎遠になってしまっていたし、こんな思いを抱えたまま、他の人を好きになる事なんて出来ないと思ってしまっていたから……。
画面の様に前世の記憶を追っていたというのに、ここにきて、俺は将之の中に入り込んでしまっている様だ。
というか、この前世を、夢だと思っていた前世を思い出し、その時味わった将之の感覚が、俺自身が味わった魂の感覚が将之を通じてまた甦ってきた様だった。
大魔の顔が目の前にある。
こうして見るとやはりタイアンさんと瓜二つだ。
大魔が欲を含む目で俺を見る。
俺は夢の中でもこの目で見つめられるだけでゾクゾクしたんだ。
実際この時、将之であった俺は酔っていてフワフワしていたから、大魔の顔も目もそんなに見る事が出来ていない。
もう夢のようで、この夢をずっと見続けていたいとそう思っていた。
だけど俺の意識は、こうして過去の記憶を蘇らせている俺自身は、しっかりと意識がある。
しかもタチが悪いことに感覚もはっきりとある。
酔っている時みたいに感覚が曖昧ではない。
やはり、タイアンさんと大魔は同じ香りがする。
一体、どうしてこんな過去を思い出しているのだろう?
俺は将之の身体で大魔に抱かれている。
もう、俺はパニック状態のまま、次々と襲ってくる快感に絶頂に、そして、大好きだった人に抱かれるという体験に、どうにかなってしまいそうだった。
それに目の前にいるのは大魔なんだけど、今の俺にとってはタイアンさんに抱かれている様に錯覚してしまいそうになる。
この日、目を覚ました時の前世の俺は、幸せなのとショックなのと、半々な気持ちだった。
大魔に抱かれた夢を見て、実際その感覚もあって、夢見心地で、だけど実際は行きずりの男に抱かれて、身体中を綺麗にされていたから、レイプだったとしても、悪い奴でもなかったのかもって思ったんだった。
だけど、実際は違った。
俺を、前世の俺を抱いたのは大魔だった。
俺は好きな相手に抱かれた事があったんだ……。
だけど、この後も、大魔と連絡を取り合う事はなく、あの事件が起きてしまうんだよな……。
もし、俺が勇気を出していれば気持ちを正直に伝えていれば違う未来もあったんだろうか?
だけどこの出来事が真実だったとして、大魔が、なんか魔がさして俺に手を出したんだとしたら……そこから連絡をしてきた訳じゃなかったから、大魔も俺(将之)に手を出した事を後悔したって事だよな?
じゃー、結局、素直になったとしても辛い結果が待っていただけかもしれない。
そんな風に俺は過去の記憶の中でまどろみながら、前世焦がれた大魔に抱かれた。
だけど、俺の頭をしめるのはもう大魔ではなかった。
大魔は俺にとってもう過去の人。
大魔に抱かれながら、大魔にそっくりな、仕草も言葉遣いも、声も、性格もそっくりなタイアンさんに抱かれている様なそんな気になっていた。
前世の俺は大魔以外に惚れる事はない、そう思っていたけど……、俺の今の好きな人は……タイアンさんだった。
犬だったり、魔物だったあの人……。
俺が思うあの人がタイアンさんなら……。
タイアンさんは人間ではないのかもしれない。
だけど……俺の今の好きな人は……今俺が会いたいと思うのはタイアンさんだ。
そう思った。
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