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第五章 前世の記憶
第39話 前世の俺。忘れられない記憶 (タイアン視点)
しおりを挟むええと……ココは何処だ?
俺は確か孤児院に薬を届けに行って……ん? どうしたんだったっけ?
目の前に見える風景はどこか懐かしく思うのに今まで見てきた景色と全く違う。
うーん……。頭が痛い。
目の前に見える光景に混乱しそうになる……やはり無理をしすぎても良いもんじゃねーな……。
俺は俺の意識とは別の俺が勝手に会話をしている。
それがどういう意味か分からず初めは混乱していた。
そいつは俺を魔王と呼ぶ。
だけどいつも俺が呼ばれている魔王とは全然違う意味であるその言葉。
この俺が呼ばれていた魔王は所謂アダ名というやつだ。
少しずつ思い出してきた。
今、俺は前世の俺の中にいる。
前世の俺の中に入り、昔を思い出している。
前世の俺の名前は大魔(オオマ)、そのあだ名が魔王なんてこの時はさほど気にしていなかったが、こうして実際魔王に生まれ変わったなんて前世の因縁があるように思えて笑えない。
そして初めは全然分からなかったが目の前で俺に言いたい放題言っているコイツの名前は将之という名前。
この当時俺はある男の恋人のフリをしていた。
そいつの名前は龍鬼。
将之は龍鬼の幼馴染だった。
俺はこいつと会った当時、男からも女からもモテすぎていて少しうんざりしていた。
特に女は身体も使ってくる。
俺は別にそんなつもりもないのにその様子を見ていた誰かが俺はヤルだけやってソイツと付き合うことはしないなんて噂が流れ始めていた。
俺は男も女も友達はいた。
別に皆と上手くやれていたと思う。
多分、噂を広めたのは以前、俺が振った女の仕業だと思う。
その噂のせいで俺はヤリチンなんて噂も立っていた。
噂を流されるそれが事実じゃないのに周りはそれを信じてしまう。
そしてその噂を信じた女子達から誘われ、それらから逃げ回る日々にうんざりしていた時にアイツ、龍鬼に出会ったんだ。
アイツは綺麗すぎる顔の所為で男に狙われていた。
俺と龍鬼は利害の一致で恋人のフリをすることにしたんだ。
将之はこいつの幼馴染、初めコイツは噂を信じてしまっている様だった。
だから俺に対する口調もきつかった。
なんだか懐かしい。
将之とは初めライバルの様な関係だった。
将之は龍鬼を守る事で必死の様に見えた。
だけど一緒に過ごしていくうちに噂が嘘だと将之自身に分かってもらう事ができた。
過去の自分を通してコイツを見るとあの時、見えてこなかったものも見えてくるもんだ。
その時には俺はコイツから言いたい放題言われるのも嬉しくなってきていたし、俺自身も本音で喋れてコイツと言い合うことが楽しくなってきていた。
そして後に、龍鬼と付き合っている事は嘘だと言えないまま俺は将之に惚れてしまった。
当時の俺は将之の気持ちが分からなかった。
将之はノンケだったと思っていた。
体格も俺ぐらいあり、長身で今世の俺より少し低いぐらい、前世の俺とはさほど変わらないくらい。
将之はお人好しで、あと、頼られると強く言えない性格だった。
初めは俺に対して言いたい放題、我儘放題だと思っていたら、そのウチ俺の言う事は嫌だと言いながらも少し嬉しそうにしていて、気づかれない様にしていたみたいだが、それもあの時の俺は嬉しかった。
だけど……、将之とは年を取るにつれて、疎遠になっていったんだ。
いや、アイツが連絡をよこさなくなった。
電話をしても繋がらなくなった。
それは今、考えると、アイツなりに気を使っていたのかもしれない。
アイツは俺がずっと龍鬼の彼氏だと思っていたから。
だけどそんな風に連絡がなかなか取れなくなって俺は焦っていた。
初めは呑気に構えていた。
アイツは彼女を作った事が無い様だったから……。
見た目が悪い訳じゃねー。
奥手だったんだろう。
身体も引き締まっているし、そういう目で見ていなかった時は俺も負けていられないと体力作りに励んだものだ。
だけど、俺はそんな、コイツの親友の位置が居心地良かった。
だから本音は言えなかった。
心の中の本音を言ってコイツの親友としての位置も無くしたくはなかった。
会うのが半年に1回、1年に1回になったとしても永遠に会えないよりは良い。そんな風に弱気になってしまっていた。
というか、俺は一体、何を見せられているんだ?
こんな前世なんか思い出しても、俺には後悔しかない。
俺は……。
それに、今更なぜ前世なんか思い出してどうしろっていうんだ?
そして目の前に現れた映像。
これは過去の記憶だ……。
俺は大魔(オオマ)の目を通してアイツを、将之を見ている。
これは前世の記憶。
過去の記憶なのに、今、まさにその現実をリアルに体験しているかの様だ……。
目の前には顔を赤らめて目の半開きにした将之の顔が見える。
この映像、この記憶は俺も将之も28歳の時。
この時には、将之と連絡つかなくなって、数年が経っていた。
その頃には俺は龍鬼とももう連絡を取らなくなってきていた。
そんな時、ある居酒屋で将之とばったり会ったんだ。
将之は体格の良い少し厳つい感じの吊り目の男と飲んでいた。
将之はお酒が弱かった。
俺は将之と親友だったが酒はあまり一緒には飲んだことはない。
きっと将之の前で酒を飲むと、本当は好きだという自分の気持ちが溢れ、そんなつもりなくても将之に手を出してしまいそうで、襲ってしまいそうで俺は将之の前ではあまり酒は飲まない様にしていた。
俺は、本当は酒を飲むのは好きだし、面白みのない現実を忘れるため、一人ではよく酒も飲んでいた。
この日も俺はカウンターの隅っこで一人飲んでいたら背後から懐かしい声が聞こえて振り返った。
その声に俺は耳を疑った。
この日は少し仕事で嫌な事があって、俺にしては珍しく酔っていた。
だから俺の耳がおかしくなったか、酔いすぎてすでに寝てしまっているか幻聴でも聞こえているかと思ったんだ。
背後から聞こえてきたのは、当時の俺にとって数年前まではよく聞くことのできていた声。
だけど最近は思い出すことも難しくなってしまうほど、聞いていなかった声だった。
俺は振り返り目を疑った。
数m離れた所から、その声は聞こえていた。
将之がベロベロに酔っている所なんて当初の俺は見た事がなかった。
将之は自分がお酒に弱いことを自覚していた様だし舐めるぐらいしか飲まないようにしていた事を俺も前世の俺も知っていた。
俺はこの後の出来事も知っている。
前世の俺を止めようとしても前世の俺には聞こえない。
あの時の記憶を辿るように体が動く。
忘れられない記憶がまた思い返されそうとしていた。
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