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第三章 再会、幼馴染の変貌
第27話 俺の知っているアイツの弱い所 (ショウ視点)
しおりを挟む俺はリュウとの突然の再会に戸惑いを隠せなかった。
だけど今は仕事中だ。
そんな事も言ってられない。
リュウには待合室で待ってもらい、まずはベリックさんから俺は施術に入った。
俺は自分の中の動揺を隠せているか心配で、なるべく明るくベリックさんの接客を行なった。
ベリックさんにはここ最近も施術したばかりと言うのもあって身体も初日の時より随分柔らかくなり、コリも減った気がする。
表情も柔らかくなって、初めて来客された時とは別人のように声のトーンも優しい。
リュウ……直接声をかけてこなかったという事は……リュウは俺と知り合いとは思われたくないんだ。
だけど、髪色が違うのに、8年も経つのに、よく俺だと気がついたな……。
俺は全然気がつかなかったというのに……。
まあ、リュウは見た目が変わり過ぎなんだよな……。
そう、俺はこのイヤーカフのおかげで現在黒髪ではない。まあ本当は黒髪なことを隠しているんだけど……けどリュウは黒髪な事を知っているし、何より8年間連絡もなかったんだ……本当はもう俺とは関わりたくないのかもしれない。
幼い頃、リュウは俺が黒髪なことで差別した事はなかったし、むしろそんな事は関係ないと思わせてくれるぐらい優しかった。
だけど……そんなこと言ったって、もうあれから8年も経っている。
8年も別の道を歩んでいたし……俺の事のなんか既に過去の知り合いとでも、いやもう知り合いとも思われたくないんだろうな……。
なんだか8年離れている間に目つきも随分鋭くなった気がするし、怒っている様だった。
人前では他人のふりをした方が無難だろうな……。
そんな風に俺が考えていると、見せていないつもりでも落ち込んだ様に見えたのか、その表情の変化に気づいてかベリックさんがちゃかす様に声をかけてくれる。
その優しい声かけに俺の声も柔らかくなる。
俺はなんだかその気遣いが嬉しくて友人ができたみたいで思わず声を出して笑ってしまった。
俺はベリックさんの施術の合間に道具を取りに行くのも兼ねて待合室に顔を出した。
俺が一人だと気づいたリュウが近寄ってきた。
苛立ちを抑えられていない事がこちらに伝わってきた。
「随分、楽しそうだな」
リュウの声はなんだか固い。
昔の高い声と今の声は全然違う。
低い声のリュウなんて、本当に別の人と話しているみたいだ。
それにこんなに怖い表情のリュウを見るのも初めてだった。
なんて答えるのが正解なんだろうか?
ここの部屋の声はベリックさんには聞こえないはずだから、他人のふりをしなくても良いんだろうか?
だけど……。
二人きりの時は普通に話して他の人もいる時は他人のふりをするなんてそんな器用なこと俺にできるだろうか?
そんな風に考えていて、俺の返事が遅かったからか、更に苛立ちが強くなったように眉間に皺を寄せたリュウが俺に顔を近づけ耳元でこう言った。
「どうして返事をくれなかったんだ?」
そう耳元で呟いたリュウの声に俺はびっくりして間近にあったリュウの顔を見つめた。
返事ってなんだ?
「えっ? 返事って?」
俺はリュウの言っている言葉の意味が分からなかった。
えっ? どういう事だ? もしかして......俺が知らないだけで、リュウも本当は俺の事を考えてくれていたのか?
「手紙の……」
そう小さく呟いたリュウは、先程までは一緒にいたあの時は見た事がない怖い表情をしたリュウだったのに、置いてきぼりにされた子供の様な切ない表情をしていた。
思わず抱きしめて頭を撫でて上げたくなる様なそんな顔だった。
て、手紙?
手紙ってなんの事だ?
もしかして俺が知らなかっただけで、リュウは俺に手紙を書いてくれていたのか?
俺が返事を書かなかったと思い、さっきはあんなに怒っていたのか?
リュウも俺に会いたいと思ってくれていたのか?
幼い頃、リュウは俺の事を守ってくれていた。
俺に酷い事を言う奴らを蹴散らしてくれていた。
そんな強いリュウだけど、人には見せていない弱い面もあった。
リュウは少し心が弱い様だった。
リュウは人より能力が優れている。
だけどそれはリュウにとってはうまく扱えない爆弾を胸に抱えているみたいな感じだった。
リュウはなんでも出来ている様にみえて、自身の力をコントロールすることが難しいみたいだった。
ありすぎる自分のパワーを持て余しているみたいだった。
その変化に気づいたのはいつも隣にいた俺だけだったようだ。
ずっとそばにいた俺はリュウの心の悲鳴に気がついたんだ。
そしてあの時の俺は……。
安心して貰いたくて、ゆっくり抱きしめた時、心が乱れていたリュウが落ち着いてくれた様な気がして、そんなリュウを見て俺も助けてもらうばかりではなくリュウに何かできることが嬉しくてそんな風に俺から触れることも増えた。
だから、8年前あの頃のリュウは、俺だけに唯一弱い所を見せる事が出来ているみたいだった。
多くの人から嫌われていた俺は、人気者のリュウが俺の事を他の人と違う様に思っていてくれている事を優越感に浸っている所もあったと思う。
あの頃と見た目も声も全然変わってしまったけど、切なそうに見つめてきたその表情は見覚えがあった。
リュウにいつも守られていた俺だったけど、こんな表情を見ると弟の様に思ってしまうんだ。
なんだか前世でもこんな感情があった。
前世の俺には大事な親友が二人いた。
一人は俺が片想いをしていた相手、悪友で言いたいこと言い合っていたのにいつの間にか好きになってしまったアイツ。
そしてもう一人はあの頃、俺より体型も小柄で見た目も可愛らしい幼馴染で人気者、前世の俺の、弟のように大事にしていた存在。
考えてみたらリュウはその幼馴染に似ていた。
リュウが俺をじっと見つめている。
俺はもうリュウに会えないと思っていたけど……仕方ないと諦めていた。
だけどリュウはこんな俺と会いたいと思ってくれていたんだ……。
そっとリュウの肩に手を伸ばそうとした時、奥の部屋の方からアースさんの声がした。俺を呼んでいる。
そうだ。
今は仕事中だ。
ベリックさんも待たせてしまっている。
俺はリュウに軽く頭をさげて、急いで待合室を出た。
俺は早く施術に戻らなければと、慌ててベリックさんのいる所まで足を早めていたが、中々動悸はおさまらなかった。
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